第5話 Peaceful -Ayaka side-
ダンノック国境(マレーシア・タイ国境)で、すべての乗客が出入国審査を終えるとミニバスは再びクラビに向けて北上を始めた。
中継地のハジャイ周辺は日本であまり報道されない爆破テロがたびたび起こる一帯である。犯行にはタイからの分離独立を望むイスラム過激派が関わっており、外務省の海外安全情報では、レベル2(不要不急の渡航は止めてください)や、深南部においてはレベル3(渡航中止勧告)が出されるエリアだ。
すれたバックパッカーの中には「タイの南部なんて平気だよ」と余裕をかます人がいるが、それならば「トラブルに巻き込まれても一切の援助はいりません」と記した宣誓書の1つでも持ち歩いてもらいたいものだ。
また、戦場カメラマンや国際ジャーナリストといった類の大層な肩書を持つ男ほど、ひとたびテロリストに拘束されようものなら、たちまち日本政府に泣きついてくるのである。
紛争現場の悲惨さを誰かが伝える必要があるのは確かであろう。しかし、どんな結末も「自己責任」として受け止めるのがジャーナリスト魂ではないだろうか。
「テロに屈してはいけません。身代金の要求は断固拒否するべきです!」
こんなメッセージを発信できた本物を未だ私は見たためしがない。
※ ※
二人が時事ネタで盛り上がっているうちに、ミニバスはハジャイの街の旅行代理店前に到着した。ツアーデスクの說明によると、希望があればチケットを翌日に変更し、途中下車することも可能だそうだ。
「どうするカズさん?せっかくだから一泊する?」
「いや。止めておこう。この街に長居は無用。爆弾にビビってたらハッパも旨くないでしょ?」
言われてみればその通りである。
「マリファナとテロ」
これほど最悪の組み合わせは無い。
今さら御託を並べるまでもないが、マリファナの効果・効能についておさらいしよう。
最優先で周知すべきは、何と言っても「マリファナをキメてもけっして攻撃性が高まることはない」という特徴だろう。
2016年7月。神奈川県相模原市で起きた障害者施設殺傷事件の犯人には大麻使用歴があったそうだ。日本のテレビ局は、あたかも「大麻で頭が狂ったために犯行に及んだ」というバカな報道を展開したが、頭がオカシイのは根拠のない情報を公共の電波で垂れ流すメディア側である。大麻の成分には人を殺めるような攻撃性とは真逆のリラックス効果が広く認められている。
つまり、反グローバリゼーションを掲げる民族主義者が、思わず世界平和を祈りたくなってしまうほどピースフルなアイテムなのだ。
食事を何倍も美味しく感じたり、好きな音楽をより楽しむためには最適だが、暴力や排他主義とはすこぶる相性が悪い。
これこそが、ボブ・マーリーが語る「神が与えた奇跡の効能」の正体だ。
また、大麻は我が国の成り立ちとも縁が深く、古来から神道の祭祀で用いられる所以は、根底に絶対的な平和主義があるからだと分析できる。
暴力沙汰の絶えないハードドラッグ「アルコール」を推奨するにも関わらず、マリファナを躍起になって取り締まる理由は、政府側の確固とした思惑があるからなのだ。(「政府側の思惑」については、前作バンコクキッド2で言及しているので興味のある方は「第37話 マリファナ入門」ご確認いただければと思う)
本章の最後に、福祉活動に携わる者の一人として相模原障害者施設殺傷事件の所見をズバリ述べさせてもらおう。
「事件の根本原因は、進まない障害者の地域移行と、自分さえ良ければいいと考える"劣化日本人"の急増である」
もちろん、「障害者なんていなくなればいい」と暴言を吐いた鬼畜を擁護する気はさらさらない。「生まれて来なければ良かった命」など絶対に存在しないからだ。
この世が縁起によってのみ成立する以上、不必要な衆生は誕生し得ないのである。
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