一章 『堪えきれないstruggle!』 その6
「いや結局立ち話じゃないすか……」
【まぁまぁ! 細かいことは気にせず、まずはジュースのセルフサービス!】
内貴とエコーがやって来たのは中野ブロードウェイ地下一階のトイレの手前の通路にある、自動販売機の横だった。やや奥まった位置にあり、店が並ぶ通路からは見えず、トイレに入るなり出るなりする客もすぐに通り過ぎるので、話をするには人の邪魔にならない場所ではあるように思えた。
色々と聞きたいこともあるので、とりあえず内貴は自動販売機で飲み物を買うことにした。あまり人が通らない場所に設置してあるせいだろう、良くわからない、ある意味挑戦的なラインナップが自販機には並んでいた。迷った末に、ナタデココ入りぶどうジュースを買ってみる。
プルタブをおこして一口中身をあおると、わざとらしいブドウの味と一緒に小さな四角いナタデココが口の中に入ってきた。正直あまり美味しくないそれに微妙な顔をしながら、内貴は話を促す。
「それで、色々と聞きたいことはあるんですけど――」
【YES! ニューカマーへの解説もミーのタスク! なんでも説明せてやるぜ!】
「……とりあえず、その大声やめません? 俺も恥ずかしくなってくるんですけど……いや、周りに人はいないんですが……」
エコーがさっきから響聞かせている大声に、内貴は肩をすくめて周囲をきょろきょろと見渡す。トイレでも感じたが、DJエコーの声は奇妙なくらい響き渡っているように感じられるのだ。体感では、この細い通路から中野ブロードウェイの地下の端から端までエコーの声は響くように感じられていた。
しかしそんな風に思う内貴に対して、エコーはにやりと、深く唇の端を吊り上げた笑みを浮かべる。ぎざぎざの歯を見せつけるようなその笑みは、なんだか三日月のようだった。
【NO、NO! 心配なんてNOPROBLEM! ミーの『響き』はお前らの、熱い闘志に響くモノ! パンピーどもには聞こえねぇ!】
「ぱん……ぴー?」
【一般PEOPLES! 略してパンピー! アーユーオールライト?】
「いやいや、一般人には聞こえないって……どういうこと?」
こんな大声で話しているというのに、エコーの声は一般人には聞こえないと言う。意味が分からず混乱していると、ち、ち、とエコーは指を振った。毎度仕草が大げさで、微妙にうざったい。
【ミーの話をする前に――ダイベニストの説明が、ニューカマーには必要サ!】
「順番に説明するってことか……」
【いぇあ! ちょいと長くなるけど聞いてくれ! ダイベニストの歴史と今を】
そうして、エコーは語り始めた。
ダイベニストとはなんなのかを。
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