第2話 東京進出
第2部 広告屋池中光一
グランドホテルでの披露宴は盛大であった、ダブル専務の親代わりと仲人は不動産広告業界を震撼させた。来客はマキの親族と従業員以外はすべて不動産業界特に大手デベロッパーの課長職以上が大半を占めた。私は最後の挨拶時にダブル専務へのお礼と感謝の気持ちを伝え従業員をすべて立たせ「私にはこのような素晴らしい家族がいます、今後もこの家族とともに仕事に邁進しマキを幸せにいたします」と締め括り式は終了した。
式の構成は全てタダシが考えて進行もした、特に来客の挨拶の順番が大変で最終的には会社を50音で並べて挨拶をお願いした、中には頼んでいない人が飛び入りで挨拶をしタダシを戸惑わせた。
新婚旅行など無しで次の日から既に何社かを訪問し秋からの新規販売、第2期分譲の会議に参加していた。
「池中さん、奥さん逃げますよ」
「まだ大丈夫ですよ、会社でも一緒ですからね。今日は以前から不思議に思っていたことをみなさんに聞いていただきたくて時間を少し私に頂きたくて」
「何のお話ですか」
「折込みの問題です」
「折込みて、新聞の折込みですか」
「そうです、折込み部数が10%以上の誤差を感じているんですよ」
「10%の誤差は大きいですね、私が平均20万部で年間20週以上入れてますからね、10%の誤差なら年間40万部で単価12円なら480万円の誤差ですよ、池中さんその話はどこから仕入れたんですか」
「うちの社員に新聞販売店を調べさせた結果なんです、但し1部の特定された店舗だけのカウントですけどね、もしこれが私どもの思い込みでなければ御社で担当6名の方が全て同じ広告ボリュームとすると2880万円の誤差です」
「それと新聞紙面の広告は各企業ごとに下限が新聞社で決められていて金額はバラバラで量的な有利だけではなく、企業の格なども加味されているみたいなんです」
「池中さんとこに出稿しても朝霧に出稿しても違いは新聞社以外の利益の取り方になるんですか」
「そうです新聞社が100万円だとすると当社が5万円を乗せて売るか朝霧が10万円乗せて売るかなんです、但し新聞社系の代理店は買い切り面を持ってますからそこで安売り商品を作りお客さんに貸を作ろうとするんですが、新聞広告の集客力は40代以下で低下していますから現実的には買い切り面はほとんど売れず赤字紙面で締め切りギリギリで投げ売りをしてますよ」
「そういえば朝霧の稲田が以前の広告を少し直すだけで出してくれるなら段何万円でもいいとか言って泣きついてきたことがあったけど新聞広告を1日や2日で決済は取れんて断ったことがあったわ」
「だから御社と野村不動産も金額が違いますし近鉄さんなんかは百貨店と金額が同じですからかなり安い、御社も東京ルートで1度仮で関西の新聞の値段を聞いてみれば分かりますよ、あくまでも東京の電鉄が大阪で広告を打ちたいという名目でね」
「1度やってみます、それよりも新聞の折込の件ですがどうにかならんものですかね」
「皆さんが加盟している高層住宅協会あたりから質問状を新聞協会に出されることが1番でしょうね、当社が声をあげても直ぐに潰されます」
「朝霧の稲田さんわ」
「彼も昔、折込会社に噛みついたらしのですが、新聞社から頭をたたかれて話は終わったらしいんです」
「今色々なデベロッパーさんでこの話をしています、みなさんも過去の折込みリストを見ながらマンションや戸建て住宅の伸びは反映されているが若手が新聞を取らないことのマイナスは反映されていない、次のポスティングマーケで新聞を取っているかを1行入れましょうよ、みなさんでデータお持ちになって対抗すると年間大きな金額が削減できますし、新聞紙面広告の裏の価格表も出させましょうよ無駄な広告費を削減しましょう」
「私達も適正な広告手数料は頂きたいですが不正に関与はしたくは有りません、大阪からでも何かを仕掛けましょう」
「手伝う、この件の時効が何年か知らんが、もし5年であれば当社だけで1億以上の金額がだまし取られていることになる、当社関連の百貨店やスーパー何かで考えると当社ごとき金額ではない、東京本社は大阪の5倍は大きい社内で大きな問題点として挙げておく」
「私も関係している勉強会の今月のテーマで取り上げます、楽しみにしていて下さい」
会社に帰りタダシに東興の石川課長に新聞の折込みと裏料金の話して次のポスマから新聞の購読の是非と何新聞を読んでるかを最後に入れることが決まったことを伝え今後は全てのポスマでこの1行の追加を説明しうちで購読率を検討したい事を伝えた。
「ついにやりますか」
「銀行来てましたよ、名刺机に置いています」
「電話してみる」
「株式会社ヒカリの池中ですが西沢支店長代理さんいてますか」
「池中社長、突然訪問し申し訳ありません」
「川上専務から話は聞いています」
「明日お時間ありますか」
「午前中は大丈夫です」
「10時にお邪魔いたします」
「それでは10時にお待ちしています」
電話を切った、ついに銀行が折れてきたみたいや、どんな物件を持ってくるかが楽しみである。
「マキ、銀行が食いつてきたで明日10時や、お前電卓もって話に参加してくれ雑談のあと本題が出たら呼ぶから頼むわ」
「買うんですね、家賃並みか賃料付いて家賃チャラの物件ならね」
「悪いことばかり考えてる」
「経済行為や悪い事は何もしてない」
次の日銀行がやってきた世間話をし「三鉄不動産の川上専務が池中を頼むと言われて、出来ることは何でもお手伝いさせていただきたいと言いったところ」
「池中がビルを探してる。と言うお話を聞きましたので当社の管理案件で、この近くのビルの出物を3案件お持ちしました」
「うちの財務兼経理を読んでもいいですか」
「どうぞ」
「川内君応接に来てくれ」
マキが電卓をもって応接に入ってきた、マキが若いことに西沢支店長代理が少し驚いていたが全ての数字を把握していることを説明し納得いただいた。
「この案件は土地面積は少ないですが角地で横が駐車場で将来性はあります」
「この3案件どこにも出しませんのでお預かりできますか」
「よろしいですよ但し寿命があります各物件の判断は10日で出してください」
「分かりました10日以内に返事は出します」
銀行員は帰って行った。
「マキどれがええと思う」
「私は南堀江2丁目の物件が最上階と3階が開いていて2フロアーで90坪確保して後は賃料が取れるからベストかなて思います」
「その物件は絶対に買いやけど内の賃料なしで借入返済するには1億たたかなあかん、それと角の、この小さなビルあるやろ利回り13%やから満室である限り返済できる、1件や2件出ても
10坪サイズの事務所やうちの売り上げで何とかできるそれも買うで」
「2棟買うのですか」
「そうや、銀行と話しつける」
「角ビルは将来の宝物や」
「宝物なんですか」
「マキまた今度ゆっくり教えたる、司法書士にビルの管理と所有で定款に必要なもの直ぐに入れさせろ。俺、銀行行ってくる」
「どこの銀行ですか」
「新生保不動産の相川専務や」
「後は頼む、仕事上がりに電話くれな」
「必ずします、今日は新婚2日目ですよ」
「川上さんの紹介で物件を炙り出させました会社としてのビルは良いのがありましたが拾い物のを見つけました、このビルです、銀行は何も気が付いていません」
「この横の駐車場、面積は大きいが大通りに面していない地域の顔にはなれないですが私が安くこのビルを仕込んで専務が後ろの駐車場を都市銀行と話をつけ引き取られ一つにすると超高層も可能ですね」
「ビル2棟買います銀行紹介頼みます、それと後ろの駐車場は川上専務とJVですよ、お願いしますね」
「池中君、まるで不動産屋じゃないか」
「不動産屋には難波銀行はこの角ビル出してませんよ、広告屋だから脇が甘くなって出してきたんですわ、ベストタイミングですね」
相川専務にお酒を誘われたが昨日のお礼を言って新婚2日目ですと言って辞退した。
「グランドのバーに行くのは昨日の今日で恥ずかしいので北浜のバーに向かった」
「おめでとう、一昨日式やってんやろ、ええんかこんなとこ来てて」
「角のハーフロックください、それとマキも働いてます」
「頑張る夫婦か」
「ダブルインカムノーキッズですわ」
「なんやそれ」
「インカム収入が二つで子供がいてない最近流行の夫婦関係ですわ」
「インカムかなんかよう分からんけど、最近稲田の竹輪も1品として出してるねん、竹輪受けてるんや、親父どもより若いOLに人気や稲田様様や」
「あいつでも人の役に立つんや」
「披露宴はどうやったん」
「マンションデベロッパーの賀詞交歓会みやいやったわ」
「何人呼んだん」
「身内省いて150人の予定が180人に増えた」
「俺も出させろいうのが沢山出てきてめんどくさいので全部入れた」
「祝儀はすごいことになったやろ」
「会社の者に整理してくれてたのんである」
「お祝い返しもいるからな」
「電報がすごかったで、全新聞社に住宅機器メーカー、あまり知らん政治家、聞いたこともない会社も多かった、喉乾いてたから一気飲みしてもうた、同じものを」
6時半はまだまだ明るく下を行く車もライトを付けてい無いので唯の混んだ道路と車の天井を見ていても面白くない、早くマキの仕事が終わらないかと手持ちぶたさでお酒を飲んでいると携帯が鳴った。
「池中です」
「稲田や今どこや」
「道端や」
「グランドに来てくれ直ぐやぞ」
勝手な奴だこちらの都合も聞かない。
「マスターそれ飲んだら出るわ用事ができた」
グランドのバーにタクシーで乗り付けた稲田はカウターにいた、横に座り。
「何の用や」
「秋の新規案件何か俺にくれ」
「どうやってお前にやる事が出来るんや」
「そうやろ、そんなこと代理店にはでけへん話や」
「代理店は選択されるだけや、こちらから選択することはでけへん」
「最近朝霧広告はコンペ全滅でええとこなしや」
「それはお前が悪いと言う話じゃないやろ、会社全体の話やないんか」
「お前とことのJVは社長の一言で消えた『そんな小さな会社とヒフティで付き合いなんかできん7:3で頭下げて来たら考えたる、東京に来させなさい』、それをデベロッパーの打ち合わせの時に自慢してる阿保営業、殆どのデベロッパーがお前とこの見方やと言う事も考えてない、電話してもそんなに偉い会社とは付き合い出来ん言われる始末や、あほばかりや今のタイミングで池中の悪口言うたら業界で除け者にされるて言う事もわかりよらん」
「めんどくさい話はいらん今日の本題はなんや」
「俺会社辞めようと思うてるんや、お前とこで引き取ってくれへんか」
「真剣に言ってるんか」
「お前にブラフかましてもしょうがない、俺は不動産広告しかない今朝霧が違う方向に行く言われても俺は何もできんのや」
「考えてみるがうちにはタダシがナンバー2でいてる順位を変えることはできんぞ」
「俺は何番でもええ」
「タダシが気にする、会社内をまとめることを考えなあかん」
「そうやな俺が行ったら一番の年上なるな」
「それは間違いや、来週から60代が入ってくる」
「何しに」
「財務、経理担当部長や」
「お前とこも急成長しているから必要やろな、半期過ぎた今期の予想売上は」
「16億ぐらいや」
「受注ベースか」
「怪しいのは省いてや、ずれそうなのも省いてる、まともに全部来たら20億にはなる」
「お前はどこまで大きする気や」
「今デジタル事業部が急成長してる、新しいビジネスが毎月誕生してるんや、どこまで行くかは俺にもわからん」
携帯が鳴った。
「マキです仕事終わりました」
「グランドに居てるおいで」
「すぐに行きます」
「マネージャー昨日はありがとう、奥の席に移るは、ジンリッキーをもう一度出して下さい何時ものセットもお願いします」
奥の席でマキを二人で待った。
「お待たせしましたえええ、稲田さんもいてましたん」
「そうや、稲田に呼ばれたんや」
「大事な話だったんですか」
「稲田さんがヒカリに就職する話や」
「タダシさんの予言が当たった」
「なんやそれ」
「タダシさんが少し前に稲田さんは朝霧の人やけど人間的にはヒカリが向いてるし社長と意見が合う珍しいタイプや、もうすぐ来そうな気がするて言うてはったんです」
「あいつは何もかも読んでいる」
「俺がいつか稲田に声をかけると思ってたんや」
「それじゃ決まりやん」
「あかん明日タダシに話してからや」
「いつから来れるんや」
「8月1日から正式に行ける」
「待ってるわ、退職でもめるなや会社も家庭もや」
「8月の勉強会で全デベロッパーに紹介する」
「今日は新婚2日目やろ俺は消えるわ」
「たまには気が利くやん」
稲田は帰って行った。
「マキどうする、行きたいとこあるか」
「天満の焼肉屋さん」
二人で焼き肉を食べ北浜のバーに戻った。
「二人とも焼肉帰りやろ、すごく美味しそうな匂いする。何飲みます」
「角のハーフロック」
「私はジンリッキー」
「会社を大きくすると色々な事がある、明日も又新しいことがあるで」
二人で少し飲み家に帰った。
「明日は何時も通りですか」
「少し早く行く8時に会社に入りたい」
「何かあるんですか、ビル2件の返済計画をエクセルで作り銀行に行かなあかん」
「早いですね」
「朝1にタダシに話してから銀行に行って借入決めて西沢支店長代理に買い付け照明を出す、仲介は東興の子会社の東興不動産販売に頼む」
「何か裏がありそうですね」
「そうや、あの角ビルは誰も買えないんや一時やくざが占拠してた訳有ビルなんや、うちが買うことで綺麗なビルになる、裏の大きな駐車場を新生保がほぼ押さえてるんや、うちが買い解体して近鉄に売る、新生保と近鉄のJVマンション計画の出来上がりや」
「うちは儲かるんですか」
「もう一つのビルの借金が消える」
「そんなに利益が出るんですか」
「あの角ビルにはそれだけの価値があるんや」
「次は西沢支店長がまだまだ隠してる南堀江の塩付物件を引き出す、あの銀行は早ければ11月には合併で消滅する、やくざ絡みや問題の有る融資物件を裏で消している、うちに銀行がついていることが分かれば何ぼでも物件を出しよる、消さなあかん物件は沢山あるが不動産屋に出して話が表に出ることを極端に恐れてるんや」
「うちの会社には問題ないんですか」
「100億ぐらいまでは表に出ない」
「100億ですか」
「そこまでは無理や、いらん物件は東興の子会社で利益を乗せてすぐに転売する」
「1次的に借り入れが爆発するけど9月~11月や」
「東興さんの分も買わなあかん、銀行2件相手してから東興さんに行ってから会社に戻る」
「無茶はせんといて下さいね」
「二人で風呂入ろか、背中流してくれ」
「すぐにお湯をためます」
相川専務に紹介された地銀は応対もよく私の話を最後まで聞いて相川専務に堀江の土地に関して質問をしてもいいのかと聞かれ大丈夫と答えると、確認さえできれば全額貸すと言っていただいた。融資の話が付いたので土地の話で難波銀行を訪問し西澤支店長代理と話し2物件買うので総額で1億下げてほしい旨を伝えた、融資は別の銀行で確約をいただいてるので難波銀行に迷惑はかけないと話すと、別の物件を5件出して来て検討して欲しいと言い出し1億は支店長決済で何とかすると言ってくれた、その足で東興の石川さんの処に向かった。
「今日は面白い話を持ってきました」
「池中さんの話は何時も面白いですよ」
「実は南堀江で銀行から小さなビルを買うんですが、この後ろに大きな駐車場があって、この小さなビルを皆さん買いたかったらしいのですが銀行が法的処理で押さえる前にやくざが占拠してたりしてコンプライアンスの問題で誰かが一度買わないとデベロッパーは手が出せないらしんですよ」
「一寸待って」
石川課長は別の担当者を2名呼んだ。
「堀江の駐車場の角ビルや、続きを話して」
「今回の仕掛けは新生保と近鉄のダブル専務の仕掛けで奥の駐車場を買いたたいたらしいんです、そしてヒカリで買う角ビルを更地にして買取、超高層を計画しているんです」
「そうやねん、あの角ビル銀行が俺らには出しよらんのや、池中さんが買ってダブル専務に卸すんか」
「うちは角ビル諦めたから後ろの駐車場が凄く安くなってんけど手を引いた」
「それで今も銀行に行って来て隠してる案件を5物件貰ってきました、見ます」
「後から来た堀江チームは目を輝かせた、このビルやこいつを更地にしたらでかいのが立てられるけど無人でやくざがらみや手が出せんで困ってたんや」
「必ず引き取ってくれるならうちが更地にします、広告と少しだけ利益下さい」
「そんなんきまりや、後はどれや」
「この資料、コピー取ってえんか」
「銀行の名前だけは消したって下さい」
「池中さんどうしたらこんなこと思いつくんや」
「いやダブル専務のご指導です」
「そうやな急成長してる広告会社が自社ビル考えても何も問題ない、転売しても商いにしたらええねん」
「お願いがあるんです」
「なに」
「御社の子会社の東興販売さんでこの案件も含め仲介して欲しんです、但し手数料は2%で少しだけ負けてください」
「降って沸いた契約業務で2%貰えたら感謝しよるわ」
「今2物件買い付け出したいんです、お願いできますか」
「担当に部長を付けたる好きに頼み」
「コピーを取りながら物件を見ていた堀江担当課長が声を出した」
「これもやこれも更地にしてくれたら30%増しでうちが買い取る」
1時間の訪問で2物件を確約した、この2物件を手に入れ更地にすると広告2件と2億ほどの利益が出る、難波銀行の不良資産をどこまで食い込めるか金貸す方の銀行次第やけど東興さんがバックで確認取れたらまた金は貸すやろうと思った。
会社に帰りタダシに報告すると
「まるで闇の不動産屋や山田さんとこから来た大村君が宅建免許を持ってるから直ぐに不動産屋の登録だけでもしときますわ、何かの拍子に税務署に突っ込まれてもええようにだけはしときます、看板はあげませんよ」
「マキ、大阪湾銀行から融資受ける事に決まった4物件買うから印鑑証明や必要書類作成頼む」
「4物件て増えてますやん」
「同じ仕掛けで東興さんが引き取ってくれる」
「明日も難波銀行から仕事スタートや」
「顔が悪人になりきっていますよ」
「今年と来年だけや、後は銀行の統廃合で俺らの参加は出来んようになる」
「9月に新ビルに移る計画もしてや、ちょうどせまなってたやろ」
「上手いこと言うて、知らんわ」
「タダシ少し時間くれ」
「今度は何ですか」
「稲田や、あいつ会社辞めてうちに来たい言うてる、お前の下や上手く使えるか」
「じゃじゃ馬は社長だけでかんべいしてもらいたけど、あの人ならOKです、あの人にもプライドがあるから2部制にして1部を俺で2部を稲田さんが部長でやりましょ、稲田さんは朝霧で逃げられたクライアントをヒカリで全部吸収してもらいましょ、当面は社長と行動を共にしてもらいますよ」
「分かった、お前の言うように当分は社長付第2営業部部長にする」
稲田に電話を入れると外出中、電話くれとだけ伝言を入れた。
10分ほどで電話が来た。
「悪い今日の朝会社に辞表出して有給消化で会社は休み状態や、7月31日で正式退職や」
「今日会えるか」
「時間は売るほどある」
「グランド嫌か」
「今日辞表やから北浜は」
「5時半北浜のバーで待ってるわ」
稲田との約束まで2時間はあるマーケの分析を1本片付けよとしていたら池中社長はいらっしゃいますかと言う声が聞こえた。
「社長銀行さんです」
私が出て行くと西沢支店長代理が誰かを連れて入り口にいた、応接に案内し名刺交換をすると難波銀行太田四ツ橋支店長であった。
「今回は当社の案件に買い付けを入れていただけるとお聞きしまして挨拶だけでもと思い来ました」
「呼びつけていただいたら何時でも行きましたのに、それに明日も支店長代理に今日預かった物件の件でお話しが」
「あの中の物件で買っていただけそうなのがありますか」
「2件あります、この2件は御行提示額で買わせていただきますよ」
「池中さん、多分聞いておられると思いますが当行は吸収されます、私もこいつも確実に首です、銀行の言い値で買う必要はありません、但し私達にも池中さんの裏に参加させて欲しいんです」
「私の裏ですか」
「だいたいの線は分ります、多分更地化して転売されるんだと思いますが、転売先が見えません、もし見せてくれるなら私らも嫁さんにでも会社作らせて手数料をいただければと思います、支店長枠で1億までの減額が出来ます、減額手数料は20%でどうでしょう、全ての不良資産で世間に出ていない物件資料をお持ちします、本店の役員も一人乗ります」
「背任は大丈夫ですか」
「大丈夫です、手数料は解体費に乗せていただきます、解体屋からは工事紹介料で私たちに循環させます、池中社長は無傷です」
「裏は三鉄不動産、新生保不動産、東興電鉄不動産です、彼らは綺麗な土地しか手を出しません、今日買いを入れた角ビルは、あれが邪魔で裏の駐車場が格安で出たのを新生保が押さえました、私は角ビルを買い更地にし三鉄不動産に卸します、近鉄と新生保のJVが成立です、担当はどちらも専務です、これが裏です、明日買うと言いに行こうとしている土地の裏は東興電鉄不動産が更地後の引き取り手です問題はありません、全て話しましたよ」
「分かりました今日は10物件ほど用意しましたが短期間でもっと用意します検討してください、今している事は合併先の銀行にすぐばれますが、喜ばれますよ、不良資産をこれほど素早く現金化してくれたと、それに変な買い手ではなく1流デベロッパーばかりですからね、池中さん儲かりそうですね」
「買手は私が全て見つけます、商品は支店長代理を窓口にして他言無用で多くの支店からも集めてください、小さな商いでも数をこなせば大きな利益になりますよ」
「池中社長当分は逃がしませんよ」
「逃げませんけどやくざだけは気を付けて下さい、どこからこの話を聞いてくるかわかりません、私は怖いので東興不動産販売を仲介に立てます、銀行はどうされますか、うちの不動産部からは漏れないと思いますが、半分は東興不動産販売にお願いします連続させると社内の噂になり外部に流れます、9月末までが勝負です」
支店長と支店長代理は帰って行った、保身よりも金が1番何や、時間を見ると稲田との待ち合わせ時間で会社を飛び出した。
稲田は既に飲んでいた。
「悪い銀行の支店長と悪だくみをしてたら時間を過ぎてもうた、呼び出した方が遅れたすまん」
「マスタージンリッキー」
「会社の方やけどタダシも賛成してくれた、タダシと同格やタダシが先にいてるから第1営業部部長で稲田が第2営業部部長や当面は俺と行動を共にし朝霧で不義理したとこ総取りしようや」
「それと今進めてるプロジェクト手伝ってくれ」
「プロジェクトて」
近鉄と新生保の件や東興の土地の件を話した、そして銀行の支店長と組んだ話もした。
「お前は何者や、付いて行くとかの次元やなくて、自分の小ささがいやになるわ」
「関係ない、新生保の専務と近鉄の専務が全ての師匠や、それに東興の課長軍団も強い味方や恵まれてる。土地はあと1社ぐらいはデベを増やすが口の軽いとこはお断りや、稲田も口には気を付けや、やばいのが直ぐに沸いてくるで」
「今聞いた3件の広告もお前とこか」
「当然や」
「9月末までに20件は動かす、利益の多くはてタダシが進めるネットビジネスに突っ込み後は資産の部に入れるためにビルを買う」
「自社ビルか、夢やな」
「何言うてんねん、9月に自社ビルに引っ越す、8階建てのビルで2フロアーを会社で使い後は賃貸経営や駐車場も6台あるから会社で使う」
「お前ビル買うたんか」
「このビルは安い普通8億はするが4億で買えた、もう一つのビルを近鉄に転売して借入全て返済し無借金に戻す、このビルの担保力を最大に生かし大きな仕事もできるようにする」
「稲田、下に何人いるか体制作りや計画はすべて任せる何かあったら俺が尻を拭くから1年間好きにやれや接待費は全て会社に回せ、それと給料明細見せてくれ」
「今持ってるで」
「これが次長の給料かタダシの方が月ベースで20万以上は多い、同じでええな」
「そんなにいらん、それは来年にしといてくれこの明細と同じでいい」
「これ1日貸してくれ会社で経理に話さなかん」
「元気な年寄り採用した言うてた人か」
「61歳で嫁さん46歳でまだ週に2回はする言うてた、元気やろ」
「稲田さん池中さんとこ行くんか」
「8月1日からです」
「お祝いや1杯奢るは」
「ありがとうございます、頑張りますわ」
「そうや、マキ呼んで飯食いにいこうや」
「今日は帰るわ嫁さんも心配してるし報告もしたいから、マスター次に飲ませてもらうわ」
稲田は嬉しかったのか早く帰った。
「稲田さんいう人は正直や、半分泣いてましたよ」
「悪い奴やない、それに優秀や使いこなせん会社が阿保なだけや」
携帯が鳴った。
「池中です」
「東興の石川です、池中さん時間ある今日は飲み付おうてもらうで前祝や」
「どこでお待ちしましょ」
「シェラトンに6時半では」
「大丈夫ですお伺いします」
「ごめんマスターお勘定して、早く終わったらまた顔出すし」
「無理せんでいいですよ」
新地の南の端のシェラトンホテルに6時20分に付いた。
「池中さん」声の方を見ると近鉄の高橋課長が立っていた。
「デートですか」
「違うねん同業者や」
「私も今から東興さんです」
「池中社長、面白そうやからダブルデートにしましょか」
話しているうちに住銀地所さんと東興の石川課長が合流し4社で飲むことになった、石川課長が予約していた店に無理を言って4人入れてもらい席に着いた。
4人で飲むのは初めてであったが勉強会の後の立食では良く話をしている4人なので話はスムーズで和やかに飲み会は始まった。
「専務から聞きましたよ新生保とのJVを単独で仕切り土地まで抱いたそうじゃないですか」
「何の話なんですか」住銀地所の大西部長が食いついてきた。
大体の内容を高橋課長が説明した。
「実はうちも今日検討中の土地が横がアウトで難航している案件を池中さんところで更地にして卸してもらう話がまとまりお礼で飲みに来ているんですよ。」
「種明かしをしてください内容が分かっても手を出しませんから」
難波銀行の状況と支店長との話を説明すると住銀地所の大西部長が
「その話俺も入れて4社でええとこどりしましょ、4社に来ている案件と池中さんところに来る案件を合わせて検討しJVでも単独でも話し合いをして進めるのはどうですか」
「部長完全に話持って行ってますやん」近鉄の高橋課長が言った。
「9月末までに何物件決済できるかですね、4社いる方が心強いですよ」
「池中さんが仕掛け人や、そこがOKなら私もOKです、東興さんわ」
「問題なしです」
「明日朝から大量に不良物件が持ち込まれます、応接を開けておきます必ず誰か来てください」
「人に仕事をやるほど余裕はない。私は朝1に飛び込んで資料を待ちます」
「近鉄さんが朝1ならうちも朝1で」
「私も行きます」
「うちでは狭いかもしれませんね」
「東興さんの会議室ではどうですか?」
「いいですよ、みんなさんの会社の中間に有ります、うちは全ての課長がこのプロジェクトを知っていますから問題なしです」
「それでは銀行が来たら皆さんに電話を入れて資料を持ち込みます」
みんなの顔つきが変わりだしたが話を変えた、3人も気が付きこの話は外ではしない約束になった。そこそこ飲んで1軒目は東興さんの奢りで2件目は近鉄さん3軒目のラーメンとビールは私が出した。来週総合さん持ちでこのメンバーで飲む約束と、このメンバーに入れていただいたお礼と言うことで総合さんから新規案件を受注した稲田の初仕事にしようと思った。
家に帰るとマキがポツント一人でビールを飲んでいた。
「話上手く言った」
石川さんに会う前にマキには電話を入れて遅くなると伝えていた。
「稲田は安い買い物になった、石川さんとの待ち合わせ場所で総合の大西部長と近鉄の高橋課長と一緒になり明日はこのメンバーで銀行の不良資産をあさることになった、住銀地所さんから新規案件貰ったし」
「仕事の鬼やね」
「そんなことない、シャワー浴びて来るから俺にもビール出して」
マキの機嫌は直ぐに良くなった、彼女も疲れているんだろう。
「マキそんなに新しいビルやないけどビルの看板だけは会社の名前入れたいねん」
「正解や、入れよ入れよ」
「社名もヒカリのままや、最近なんかどこのデベロッパーにお使い行っても凄い丁寧に扱ってくれる、住宅情報も以前と対応が違うこのままで良にしとこ」
「マキさえそう言ってくれたら社名変更は無しや」
「明日も忙いん」
「明日は3時までは忙しいけど後は空いてる」
「何か食べに連れて行って」
「行きたいとこどこでも連れて行ったるから探しとき」
「光ちゃん嫌いなものなかったよね」
「ない」
「私お店探したりするの大好きやねん、明日が楽しみや」
朝から大きな箱が2ケース運び込まれた。
「池中社長まずはこれを1週間で検討ください、1週間後に新たに同じだけの資料をお持ちします」
凄い量の資料を置いて支店長代理は帰って行った。
会社の者を3人使い車で東興に運び込んだ、さすがの3人も目を丸くしていた、石川課長の部下や各担当の課長の部下が総出でコピーを取り地図にプロットしていくとかなりのヒットが出た。
「あかんこんなにヒットが出るなら別の担当を呼ばないとこなせない、石川課長近鉄から2~3人呼んでもいいですか」
「うちも呼ばな話にならないですわ」
「どうぞ呼んでください大会議室に部屋を移します」東興の6人の課長も手伝い資料を大会議室に移していると近鉄と総合、新生保から人が来て名刺交換会が始まり趣旨を東興の石川課長が説明し一切の口外は不可である事も釘を刺した。
昼前にはだいぶ落ち着いて来たので
「実は来週にはまた同じ量の資料が届くと」言うと
担当レベルの話ではなく会社をあげての話になりそうなのでダブル専務と総合の支社長、東興の支社長で話し合いをしてもらい、多すぎる分を更地にして他所への転売も計画しようと言うことになり4社の関西のトッププラス私で打ち合わせと飲み会を開くことになった。
「池中さんは総合の関西支社長以外は良く知ってるでしょ」
「ダブル専務と東興の支社長には以前から良くしてもらってます」
「うちなんか池中さんを泣かしたら支社長に首にされますよ、きっと今もここに来たいんですけど誰も呼びにいかないから来にくいんですよ」石川
「どうもかなりヒットしますね、この銀行はこれを出すと多分潰れてたんですよ、嫁にも行けずにね」
「池中さんが助け舟を出したみたいなもんですよ」
「信じられへんもんが出てきましたよ」
「関空の埋め立て用の土切った土地に更に金貸して宅地計画して潰れてます、7万平米ありますよ」
「あそこ3セクで弄ってたん違うんか」
「3セクが大赤字で逃げた案件です」
「かなり貸し込んでますが今なら格安で買えるん違いますか」
「これうちで検討していいですか」近鉄の別の担当者が言い出した。
誰も反対はしなかったが東興さんだけは
「それどうするん」
「もう少し調べないといけませんが宅地化したら300区画ぐらいはできますから50区画単位でハウスメーカーに卸せないかと思い」
「あかん、うちもその話乗る」
「うちもや」
結局3社でJVし売れ残りは3社で分譲すと言うことで1宅地を500万までで仕上げて800万から1,000万でハウスメイカーに卸すことで計画することになった。
「広告は関係ないですよね」
「別なもんで返すから心配せんとき」
「こんだけの資料は金出しても買えん、この恩は忘れはせんよ」
それぞれの土地単位で話し合いがその場で進み私は直ぐに退散したが夜まで資料での話し合いが続き翌日も全員が同じ場所で話し合いを継続し14案件の買い入れが成立しそうになっていると連絡を石川課長より貰った。
凄いことになってきた、話が大きすぎる、彼らは仕入れと卸の両面で検討している、ファミリーマンションには小さな土地はワンルームの販売会社に卸す目論見をし自分たちに来ている情報と案件をプラスしマンションを計画している。
17案件買うと大阪湾銀行に連絡すると全ての買い取りデベの名前をそれぞれ付けてくれたら裏を取ってすべて融資すると言われた。17案件で1案件8,000万円で136,000万円の利益が上手くいけばの話だが、またビルを買おうと思った。
マキが探してきた店は心斎橋のイタリアンで会社から歩いて行けた、今日の大騒動を話しながら歩いて店に入るとオリーブオイルとニンニクを焦がした食欲のそそる匂いがした。オーダーはマキに任せてビールを飲んだ、本格的なイタリアンだが好きなように食べていいみたいで気取らなくて肩の凝らない店でありがたかった。
「ええ店見つけたやん」
「実は西に教えてもうてん、西が接待でつこてるらしいんや安くてもお客も喜んでくれるらしい」
「あいつ頑張ってるな」
「何案件振り回してるねん」
「3人で7案件はしてるはずやし、新規も取ってる」
「早く引越して広い営業部の島を作ってやらなそのうち凡ミスが出よる」
「ワイン1本貰うよ」
「お好きにして下さい」
「料理も美味しかった、御堂筋から30メートルも東に行かないでこんな店があってんな」
「光ちゃんでも知らん店があるんや、1人ではさすがに入りにくいわ」
「この後はどうする」
「北浜が落ち着く」
堺筋まで歩いてタクシーを捕まえ北浜のバーに行くと満席であった。
「池中さんごめん」
「また来る」
冒険しようと言うことで鰻谷に戻りバーを探していると客のタバコを買いに出ていた熱帯魚の店のママに捕まり逮捕された。
「うちこんと他所行ことしてたやろ」
「ここに来る途中やったんや」
「18年のハーフロック」
「私もお願いします」
「仕事好調そうやね」
「青息吐息や」
「嘘ばっかり、自分だけ儲けてるやろ」
「まだ南堀江のあのぼろビルにいます」
「まだあそこに居てるんや」
グラスがコースターの上に置かれた。
「やっぱり光ちゃんが好きなだけあってこのお酒は美味しいね」
「そうやろ美味しいやろ」
「銀行の資料は出来てるよ、明日机の上に置いて置きます」
「青木の爺さんどういってた」
「ウルトラCや言うてました」
「青木の爺さんが文句言わなかったら成功する」
「明日は大阪湾銀行と難波銀行の顔合わせや」
「また忙しんですか」
「明日はそんなに忙しくないけど、夜の飲み会が厄介や」
「どうしたんですか」
「ダブル専務と住銀地所の支社長と東興の支社長に俺で飲み会や。大阪の悪人大集合や」
「大変ですね、でも住銀地所の支社長以外は仲良しですやん」
「そうやけど、年齢に差があり過ぎる」
「光ちゃん社長さんやん肩書は負けてない」
「元気が出て来た、お代わりして」
「私もお願いします」
適当に飲んで家に帰りシャワーを浴びて早く寝た。
翌朝はバタバタと朝食を取り会社に向かいマキが用意してくれた資料に目を通し何本かの電話をしていると銀行が来た。2行の銀行の顔合わせと買い付け照明と融資承諾書を難波銀行に渡し決済日を決めた。10日後に大阪湾銀行本町支店で契約することになった、仲介は東興不動産販売で司法書士は仲介業者である東興不動産販売が用意することで話を終わらせた、帰りに難波銀行の支店長が「どうですか」
と聞いて来たので
「今は17件が第1弾の資料から選択されてるがまだ追加はありそうです」
「楽しみにしていますよ」と言って帰った。
大阪湾銀行の竹村融資担当課長が東興さんの時は融資承諾書を出すので池中さんが手渡してくれと言ってきた特に問題がないので了承した。
タダシにビルの契約日を教えて契約時同席するように言った。
「何で同席するんですか」
「1度くらい不動産の契約を見ておくのも勉強のうちや」
「1度だけですよ、僕に押し付けないでくださいよ」
「そこまで読むか」
笑いながら話しているとマキが近くに来て話があると言うので応接に行くと今から税理士事務所に行くが青木さんを連れて行ってもいいかと聞いてきた。
何も隠す事はないから連れて行けと言うと明るい顔になり応接を出て行き青木さん昼から税理士さんとこ同席してねと言っているのが聞こえた。
最近は青木さんに多くの事を教えられ経理としての仕事は出て行ったお金を合わすだけではなく何時いくらのお金が必要で、そのお金はどこから調達するかまでが仕事だと教えられ日々のお金の流れと月末単位で動くお金の流れを把握しようとしていた。
「社長電話です」
「誰からや」
「聞いてません、すみません」
「池中です」
稲田であった。
「今日の予定は」
「夕方から大きな会議とその後接待や」
「珍しいやん接待もするんや」
「違う。されるんや」
「誰に」
「総合の支社長と東興の支社長とダブル専務や」
「何かスケールが大きいて俺には理解できん」
「3時くらいに顔出す、時間くれ」
「待ってるわ」
稲田の話は嫁さんも納得してくれたことと退職金が意外と多かったんで子供連れて海に行く話と1日は何時から来ればよいのかと電話ですむ話ばかりであったが仕事人間は家にようおらんのやと思った。
稲田が帰り悪人会議に顔を出すと
新生保不動産の専務が総合の支社長にこれが私の息子ですと紹介し名刺交換をし挨拶を交わした。
「あなたが池中社長ですか、今社内はあなたのプロジェクトで大騒ぎですよ、参加を認めていただき、ありがとうございました」
「いや、近鉄の高橋課長も、東興の石川課長も快く迎えられたました。私ではなく両課長ですよ」
「いや今日も石川と話していたんですが卸も出来るし自社物件も出来るJVも沢山出そうで仲介はうちの子会社を指定していただき感謝していますよ」東興支社長
「9月末までが勝負です頑張ってやり抜きます」
その後は宴会であった、この連中は何てパワフルなんだと感心した、他所の広告代理店の役員が挨拶に来ても個人の飲み席や外してくれと愛想もない。こんな人達がいてるうちに早く会社を安定させないといけないと考えていると
「難しい顔せんと今日は潰れるまで飲むんや」と川上専務に丼に日本酒を継がれた。
朝はえげつない二日酔いで朝食も取れずマキに怒られながら出勤した。
石川さんの電話では支社長が来ていないらしい、かなり飲まされていたが周りも凄い飲み方をしていた。多分全滅しているはずだ。
忙しい日が続き最終的にはプロジェクトが14本、卸が5本で物件が決まり銀行に持ち込んだ、物件リストにはデベロッパーの社名や担当者名が書かれていて大阪湾銀行からの連絡は可能と表示されていた、銀行は直ぐに融資を検討すると言うので早くしてくれと念を押した。
買い付け証明と融資証明を渡し第2弾の資料を受け取り東興の大会議室に持ち込むと前回参加した以上の人が来ていて凄い勢いで物件が地図にプロットされていきどよめきと中で一つ一つの物件が検討されていった。私は直ぐに引き上げようとしたが石川課長に捕まり飲む約束をさせられていると殆どの担当者が参加させろと言うことになり石川課長が店を探すはめになった。
契約日が来た初めての契約にはタダシとマキ、財務の青木を伴い大阪湾銀行本町支店で東興不動産販売が仲介で不動産譲渡契約書に社印、代表印を押し借り入れ契約書にも代表印を押し全ての契約を済ませた。
「青木さん次からはマキと二人で契約してきてね」
「私でいいんですか」
「財務を任せる人が信用できなくてどうするんですか、マキも頼むね」
「分かりましたが一つだけ条件があります、譲渡契約書と借り入れ契約書は事前に確認してください、代表が確認できていない契約書に代表印は押せません」
「必ず前日までに取り寄せてくれ、全て確認する」
契約はスムーズに行われ三鉄不動産の川上専務に電話を入れた。
「入居者は全て銀行が追出してくれてますから明日から解体のための近隣説明や役所協議に入る予定です、9月末には引き渡しが可能と解体屋も言っていました、譲渡契約は10月初めでお決めください」
川上専務は上機嫌で電話を切った。来週には東興さんの物件を2件契約することになっている、変な税金ばかり取られるがその分の見返りも大きい。難波銀行第1段の契約は数時間かかると予想されているためこの契約には私が出ないと会社の機能が麻痺してしまう、稲田もあと数日で出勤してくる、早く第2弾の資料を整理してもらはないと銀行との話し合いも出来ない。
東興さんを覗くと10人以上の人間で話合いがされている最中であったが、少し険悪な感じもするので椅子を石川課長の横に持っていき状況を聞くと険悪ではなく凄い物件が出て来て4社でも持ちきれないのでどこを誘うか検討していたんだが、JVに入れると池中プロジェクトがばれる可能性もありどうするか考えていたんですよと教えていただいた。
「みなさん第3弾がすぐそこまで来ています、時間がありません余りのも多く背をい込むとさすがのみなさんでも手一杯になり凡ミスも犯してしまいます、エネルギー系デベロッパーの関電不動産やNTT都市開発を参加させましょう、彼らは皆さん同様紳士です、皆さんも今後の事を考えれば良いパートナー企業ですよ」
「俺は1度関電不動産と仕事をしている今すぐにアポを取り支社長を連れて挨拶に行く」石川課長は素早かった。「それじゃNTT都市開発には同期の奴がいるのでこちらはうちの支社長を連れて直ぐに当たります、池中さんいいアイデアですよ、持ちきれない物件のJVを約束し保有していただくにも最高のパートナーです、すぐに社に戻り段取りします」総合の大西は飛び出していった。
2人が消えて皆は元の作業に戻った。大きな物件が気になり東興の顔見しりの課長に聞くと「土地の一部をやくざが不法占拠していて大手ゼネコンがやくざに話を付けていて誰がワンクションの保有者になるのかと言うところで現在の所有者が倒産して銀行が押さえていた物件なんだが堺東の駅直ぐで4,000坪400戸以上の個数になり仁徳天皇陵の問題も含め開発にあたらなければいけないのでもう1社は欲しいし開発期間の2年間保有して欲しんです、その体力も含め検討していたんですよ」
「上手くいけばいいですよね、山口さんと田所さん」
会社に帰り大阪湾銀行に電話を入れ第2弾も順調だが瞬間的には100億近い金が動くので早いうちに本店に決済を打診しておいて下さいとお願いをした。
数日が過ぎ石川課長の呼び出しで東興に顔を出すとNTT都市開発の開発担当者と関電不動産の開発担当者を紹介された。2社共未だに付合いのない会社で名刺を交換した。
「池中社長、御噂は聞いていましたが、ここまで大きなプロジェクトを仕組んでいるとは驚きました」
「当社も仲間に入れていただきありがとうございます、池中社長の推薦で2社が選ばれたと聞いています、広告で必ずお返しします明日にでも会社の方に来てください」2社共に広告を出すと言っていただいた、明日稲田が来たら直ぐに連れて行こう。
「石川課長南堀江プロジェクト明日契約です、解体業者は銀行の紹介を受けた会社で例のバックマージンを洗濯する担当です、解体費はチェックいただいて問題なしの回答を南堀江チームからも頂いています、契約後すぐに大きな方は解体します、小さい方は御社の子会社に立退きと近隣対策をお願いしているので後で打ち合わせに行っておきます」
「何から何まで迷惑をかけるが一緒に頑張ろう、それと例の飲み会に追加の2社も参加したいそうなので増やしておいた、第1弾のプロジェクトにも何物件か参加するので新しい銀行用ペイパーを出すので銀行対策を頼みますわ」
「凄いブランドが2社増えて銀行は喜びますよ」
「明日の契約は私も同席する予定にしている、宜しく頼みます」
「ありがとうございます、課長が同席していただけると心強いです」
「第1弾プロジェクトは各社1名が立ち会い契約内容を更にチェックします、契約は全部で何ぼのバルク契約だから時間はかからないですよ、その分ここのチェックに時間を割きたい」
「もうすぐですね第1弾の契約も」
「飲んでる暇がないわ」
忙しそうにする、みなさんに挨拶をし会社に戻り明日の契約は石川課長が同席するので青木さんと二人で契約に行くとマキとタダシに伝え明日の稲田の名刺を確認した。
「株式会社 光 第二営業部部長 稲田 真一」
「マキありがとう稲田も喜んでくれるわ」
「この後俺なんかすることあるか」
「遊びに行ってもいいですよ」とタダシに言われマキに後で電話をくれと言って会社を出た。
明日は稲田が驚くような話だらけで何から話そうか迷うほどある、適当に仕事しながら説明することにしよう。
契約はスムーズに終了し大阪湾銀行も東興電鉄不動産の課長が立ち会い喜んでいただいた、課長はバルクの時は全デベロッパーが立ち会うのでもう少し大きな部屋を頼むと銀行に言うと銀行は喜んで部屋を用意すると約束してくれ全ては順調に進んだ。稲田は何が何だかわからんと言う顔で大人しくしていたが、契約終了後
株式会社光の稲田ですと名刺を課長に渡していた。
課長は「うちの担当やろ当然」
「お願いします、頑張って光らしい展開で広告を打ち出していきます」
「朝霧は完全に出入り禁止みたいやで」
「何かあったんですか」
「君の後釜の営業が何も知らんと君と池中君がつるんで東興に営業をかけて来るので無視して下さいてわざわざ言いに来て激怒した担当が出入り禁止にしたみたいや、うちの社内で池中社長の悪口言うたら支社長が飛んできて暴れ出すわ、朝霧は池中プロジェクト参加企業全て出入り禁止になるで稲田さん辞めて正解や」
「バルク契約の日程が決まりました、ただ解体費を借りるんですが何とか応援していただけませんか」
「うちの会社で保証したる、今日中に支社長を口説いて置く」
「助かります、大阪湾銀行さん聞こえたよな」
「聞こえました、全額融資いたします」
「本社移転の引っ越しは何日になったん」
「9月5日の土曜に引っ越しで7日の月曜から新事務所オープンです」
「よう頑張ったな、敗戦処理広告会社なんてもう誰も言わんよ、デベは特に誰も言わん、みんな最後の1戸を売るのに苦しんでいるんや、敗戦やない終戦や」
契約が終わり稲田を連れて自社ビルに行った、多くの内装工事会社が作業をしていた。
「ええビルやろ」
「借り入れはなんぼや」
「もうすでに借り入れは返済した」
「それじゃ東興さんの保証がなくても解体費ぐらい借りれるやろ」
「19物件一度に解体するんやで、何憶いると思うんや」
「19物件全てが池中物件か」
「そうや、その次は大物も入れて13物件ある」
「来年以降の仕事が軽く30案件以上は決まってる言うことや」
「お前の担当は東興とNTT都市開発と関電不動産や新規を今から貰いにいこ」
「全部超大手やん、東興以外はどうしてん」
「プロジェクトに入れてあげたんや、そのお返しをもらいに行くだけや」
「お前のしてることが信じられへんわ」
「人前では社長やで、後はお前で十分や」
「すまん、すぐに修正する」
NTT都市開発は80戸ほどのマンションの新規広告、関電不動産は120戸のマンションの広告を出してくれた。
「稲田調子ええやんか、初日に新規2案件受注や」
「お土産付きで出勤できる」
「全部お前の御膳立てやありがとう感謝するわ」
「東興さんの新規が3本あるから飲んでる暇はないで」
「やり抜く」
稲田が会社に来てから少しだけ会社会社してきたが特に問題はなく、稲田の知り合いの業者が沢山訪れてきてタダシは喜んでいた。マキは稲田に尻を触られたとか貧乳と言われたとか賑やかにしていた。デジタル事業部の売り上げが大きくタダシが専門の営業部隊を作りたいと言い出したので来月空く2階にデジタル事業部の部屋を作り設備投資と人の追加採用を認めた、但し青木さんに相談することを条件にした。
バルク契約の第1弾も終了し個々のJV先に更地で卸していく契約も進み気が付けば9月も中旬になっていた、仕事は山のようにあるが新聞購読率のまとめが11のアンケートを基に分析され、とんでもない数字が飛び出し勉強会で発表すると怒り出すデベロッパーまで現れデベロッパーの親睦団体から質問状をすべての新聞社に出すことが決まった。
20代の新聞購読率は4%30代で23%40代でも38%と40%以下であるうえ20代の低さに全てのデベロッパーは驚き対策を求められ用意していた別の分析でまたみんなを驚かせたインターネットの幕開けが始まった。
プロジェクターに映し出された映像はパソコンの画面そのもので、自社のホームページを映し出さしていた。
「今はスピードが遅くまだ消費者には認められていませんがインフラ整備はスタートしています、NTTだけではなく大手電力会社やガス会社なども参入を発表しています、インターネットで物を売る時代はそこまで来ています、当社はデジタル事業部を立ち上げ皆様とは違う業界のホームページを多く手掛けています、またネットアンケートも実施し全国にまだ3万人ですがモニターもいます、現在多い日で500人少ない日でも150人のモニターが増えています、彼らにメールでアンケートを送り商品のイメージ調査や広告の効果を調査しています、まだ20代が中心ですが10年すれば30代です、みさんの将来の顧客です、1年後当社は20万人のモニターを有する会社になります、3年後は100万人を目指します、携帯も変わります第3世代の携帯は今のノートパソコン並みの能力を持つと言われています、5000万人以上の人が携帯のメールを発信する時代にすぐになります、それは携帯の使用料が一気に引き下げられるからです。阪神淡路の地震後は携帯電話の普及は凄い勢いで止まることを知りません、今はまだこんな状態ですが時代は変わります、ホームページを立ち上げて会社案内だけでもしましょう、リクルートにも役立ちますよ」
勉強会終了後はまた人の流れが私に集中し会社に来てもう1度インターネットを詳しく説明て欲しいと10社以上から頼まれデジタル事業部をすぐにうかがわせると約束した、タダシもかなりの人に捕まり話をしている稲田は昔なじみのデベロッパーと仲良く話している。
「池中社長、今日の話は面白かったし勉強になったよ、私もこれからインターネットを毎日少しだが見てみるよ」ダブル専務も感心していただいたようである。
「インターネットは楽しいですよHも凄く多いですしね」
「それは楽しそうだね」川上さんも私も会社は個室だからねわはははは」
元気なダブル専務との話を切り上げ今月から参加のNTT不動産に挨拶に行くと関電不動産の人もいて話をしていた。
「今日はお忙しいところ御出席ありがとうございました」
「いやー今日は目から鱗でした、若者の新聞離れには驚きましたしインターネットも進んでいる」
「御社やNTTさんの足元にも及びませんよ」
「いやネットマーケティングの世界は将来のネット通販の顧客になるんじゃないですか」
「今ネットショールームと言う企画を出していまして色々なものを実験的に販売しようと考えています。また会社にも遊びに来てください」
「親会社のインターネット担当者と行かせていただきますよ」
「関電さん、うちも行きたいので日を決めましょう」
「もっと早くにこの会を知っていれば馬鹿な広告展開をせずに済んだのに、他社の提案も見ていただけるんですよね」
「いくらでも見ますよ、有料ですけど」
3人で笑いながら話していると稲田が横に来て二人に挨拶をし話に入ってきたのでフェイドアウトし近鉄の高橋課長の横に行った。
「相変わらず人の先を走る人ですね」
「そんなことはありませんよ」
「大手の代理店に行っても君とこほどのパソコンを保有していないし社内のパソコンを大型パソコンにつないでデータ共有なんて意味も分からんよ」
「うちはパソコンお宅が何人かいてるせいで、放し飼いにしていたらこんなになっただけですよ」
「近日中にデジタル事業部に訪問するよ、うちのパソコンお宅を連れてね」
多くのデベロッパーが会話をし多くの情報が飛び交っている、これが広告屋がすべきことだと確信した。立食も時間になり解散をしたが何人かのデベロッパーが残り私を捕まえて飲みに行こうと誘われ石川課長も高橋課長もいるのでタダシに後を任せ稲田を呼び同行させ飲みに出た。
稲田は話が旨い、酒を進めるのも手馴れている接待が体に染みついているんだろう、各社の担当者も池中社長は付合いが悪い、これからは稲田さんと飲みに行き光の動向を探らないといけないなどと言われる始末で、これには石川、高橋課長が目を合わせて笑っていた。
「今日みなさんに残っていただいたのは別の理由があるんです」と高橋さんが話し、
石川さんが「阪急さん、南海さんさん用地は買えていますか、明日我社に来ていただけませんか見せたいものがある、常識では考えられないほどのマンション、戸建て用地があるんです」
「全てはここに居る池中社長の努力のたまものです」
「今の言葉を忘れずにお願いします。私は1日会社にいますどうか来ていただきたい」
あと2社を南海電鉄と阪急電鉄に絞り込み落とすところが凄い。既に口座を開いていただいている2社だが広告の付き合いはない、大きなチャンスが来たようである。
次の日は朝早くから出勤し電話を待った第2弾の割り振り表が今日送られてくるはずである、但し2社増えたため別の土地の可能性も出る、あの時の勢いでは朝の9時に上司を連れて会社に行くと言っていた。昼までには決着が就く、のんびり待つことにしていたらタダシが2階に来て欲しいと内線してきた。下に降りると予定表が塗りつぶされている、人が足りないし部屋も狭いと苦情であった。
「俺が2階に降りるお前らが俺のスペースを使え応接も下に降ろす今の倍は広くなるはずや」
「それはお客さんが来たときに見っとも無いですよ」
「かめへん、応接は作らん俺の机の前に置き何時でも誰でも来やすくする」
「昨日、立食の時に凄い勢いでアポイント並びに訪問の約束が出てデジタルの仕事止めてまで会いに行かないかん用になったんです」
「ええことや人を育てるチャンスや思て若いのも連れて行って勉強させたれ」
「服装は今のままやで、新しいことを始めようとする人間が過去の常識に縛られてたらあかん、好きにさしたれ」
人がまた増えそうである稲田も新規案件をたくさん抱え部下もいるだろう、募集するか。
石川課長からお昼に電話が来た、南海も阪急も参加することが決まった。リストは参加前の奴やけどこれで銀行頼む、後で新しいのを出す13案件と数は少ないが総額は100億を超えている難波銀行に電話をし大型案件が混じっているのでこいつを上の権限で安くしてほしい、そのぶん解体費で流し込むから、銀行の支店長はすぐに取りかかると言ってくれた、他所の支店からも来てるので今度は少し多くなると言われた。大阪湾銀行に電話を入れ仮のリストを送ると説明だけをして融資総額を伝えた。
「マキちゃん今日は時間あるか」
「私は何時でも時間を作る事が出来るんや」
「グランドのバーに6時や」
「はい社長」
変なとこで社長と言う癖でもついたのか、少し笑いかけているのも気持ちが悪い。
少し早めにグランドに行き稲田を呼んだ。
「マキとほぼ同時に稲田も来て奥の席に移動した」
2人が飲み物と食べ物をこれでもかと頼み話が始まった。
「稲田、誰か引き抜きでけへんか、お前の部下になる人間や」
「何人かおもろい奴はいてるが池中と合うかや」
「違うお前が使いこなしたら俺は口出しせいへん、タダシを見てくれ俺は何一つ口出ししていない」
「分かった話してみる、それと求人もかけてくれ引き抜きの裏工作や」
「マキ聞いたやろ営業を募集してくれ」
「明日手配しますから10月には間に合います」
「お前喋るか食べるかの選択をしろ」
「ここのカツサンド気を許すと稲田さん全部食べてしまうんです」
「また頼んだらええ事や」
「教えて欲しんやけど、不動産で今年何ぼ利益が出るんや」
「多分25億ぐらいは出る中心地にビルを買う、今のビルは出て行ったところを空のままにして契約更新はしない、全フロアーを光で埋める予定や」
「そんなに金が出来るんか、感心するわ」
「総売り上げは軽く200億を超える、税務署が来る前に資本金を1億にして国税対象企業になり今期の利益は資産の部にいれてしまう」
「次の銀行もダブル専務と話し合って決めた」
「どこや」
「光徳銀行や、あそこは来春に合併予定や半値でも消したい物件が沢山あるはずや」
「恐ろしい男や」
「光ちゃんの事悪く言ったらあかん、みんなのこと一番心配してるのは光ちゃんや」
「マキちゃんごめん、冗談やんか、光に来てから凄い体験ばかりで付いて行くのがやっとの上に仕事が何ぼでもある夢のようや、仕事出すから早く来てなんて言う電話まである、信じれんわ」
「今はまだまだや、年明けたら腰が抜けるほど仕事がある。後10人はお前の下に欲しいわ」
「募集で面白いのが来たら稲田が面接してマキに相談して決めてくれ」
「社長面接は」
「そんなもんいらん、俺には部下はいらん」
「前から思っててんけど、単独行動が好きやねんなあ」
「違うみんなの努力を背負って営業に行ってるだけや」
「マキまだ何か食べるんか」
「鰻食べたい」
「マネージャー稲田がこれから来たらサインで済まさせて会社に送て下さい、決済は到着次第するけど俺と同じで月末閉めで翌日支払いでええやろ」
「お引き受けします」
「ここをデベロッパーのサロンにしてもええんか」
「好きにしてくれ」
「鰻頼んで」
「マネージャー鰻重をお願いします」
「鰻重は初めてですわ」
3人で良く飲んでよく話した、朝霧が不動産広告を撤退するらしいがあそこのリストラ社員はいらんしうちの募集を見てもこないやろう。
数日して大阪湾銀行の本町支店長と融資担当課長が会社に来た。
「社長お世話になってます、社長のおかげで大手デベロッパーさんとの大きな取引も出来て本町支店の評判もすごくいいです」
「いや担当の竹村さんおの努力ですよ」
「短期間でも融資を付けるなら大阪湾銀行を宜しくて言っておきました」
「全社が当行を利用していただきました」
「それで今度は当行の専務がどうしてもお会いしたいと言うので1席持ちたいのですが明日の夜は空いていなでしょうか」
「空いていますよ、どこに行けばいいんですか」
「5時にお迎えに来ます、宜しくお願いいたします」
銀行の支店長と融資担当者は帰って行った、大阪湾銀行も処分したい土地がありそうな気がする。マキを呼んでうちの大阪湾銀行の残高、借入金額、定期預金関係を出してくれるように頼んだ。
気にしていなかったがそれぐらいは把握してから会わないと失礼になると思っただけである。
次の日黒のラウンで支店長が迎えに来た、専務は先に向かっており竹村さんは来ないらしい。
「どこに向かってるんですか」
「新地やミナミでは取引先に会う可能性が高いので今里の料亭です」
20分ほどで料亭に付き、私は遠慮したが上座に座らされた。
「池中社長お話は支店長から全て聞きました」
「凄いプロジェクトチームを完成なさりましたね。あなたは今からの人だ、もっと大きくなる」
飲み物が来て料理が次々に出されて話が別の方向に向かった。
「当行にも処分したい土地やビルがそこそこあります、チームのメンバーに入れていただけませんか」
「大阪湾銀行さんが参加していただければもっといろんなことも出来ますよ」
「当初は融資担当者が裏を取るために各デベロッパーに電話を入れて確認をしてすみませんでした」
「当たり前の事ですよ、こんな小さな会社がいきなりと土地買うからか金貸せですからね」
「第1弾の時は震えましたよ、大手デベロッパーの開発担当者が6人も全て別の会社で」
「次は南海さんと阪急さんがプラスされて8人になります」
「阪急と南海もチームに入れられたんですか」
「第2弾は少し金額も大きくなります、またご相談します」
「社長のメイン銀行として何でも致しますので本町支店を宜しくお願いします、それとビルを買おうとされているとか聞きましたが」
「予算的には25億、借り入れ無しで買いたいんですよ」
「私が凄くいいのを知っています、明日御社にお邪魔したいんですが時間はありますか」
「10時から11時までなら空けるける事が出来ます」
「専務今100億の融資を頼んでいます宜しくお願いたします」
「明日訪問時にいいお話しをさせていただきます」
完全に俺のペースになってきたが銀行は怖いとダブル専務から言われている事を思い出し気を引き締めた。
大阪湾銀行の二人と別れタクシーに乗ったが飲み足りないので北浜に向かった。
マキは会社にいた、直ぐに北浜に行くから飲ませろと言われたので、おいでとだけ言った。
直ぐにマキがバーに来た。
「銀行のタヌキさん達はどうでしたか」
「タヌキのボスはかなりやり手に見える、食われんようにせんと後が怖そうや」
「明日10時に来るからお茶だけでも出してくれ」
「銀行の誰が来るんですか」
「子タヌキのボス、専務や」
マスターが拭いていたていたグラスを落としそうになっていた。
「明日何か土産を持ってくるて言うてた」
「銀行員の土産てお金」
「阿保かお前は、あいつらの土産は情報か塩漬けの土地の格安販売ぐらいや」
「また土地か」
「気にせんと飲み、飯は」
「まだ、お腹すいた」
「遅いからなあ、中華屋か和食か焼肉ぐらいかな」
「中華が食べたい」
マスターにお別れを言って店を出た、マキが動かないので振り返ると泣いていた。
「どうした」
「結婚式してからほとんど仕事でマキほったらかしや」
「ごめん、第3弾でいったん終了や、今プロジェクトチームが品定めしている」
「本当に落ち着く」
「俺は腰を据えて会社内で仕事をする、打ち合わせには行くけどな」
「夜はマキと静かに家で過ごす」
「過ごすねんな」
「それなら早く中華連れて行って」
タクシーで新地末広の前まで出た、本道通りに行く南北の道の真ん中にある店は綺麗ではないが味は保証できる中華屋に入った。生ビールと後はマキが頼むのを聞いているだけ。
出てくる料理を少しずつ分けてもらいながらビールの後は紹興酒を飲んだ。
「マキ満足したか」
「大満足した」
「3階のバーで1杯だけ飲んで帰ろか」
「フランシスアルバートですよね」
バーで少し寛ぎ家に帰りマキを抱いて寝た。
翌日は朝からの電話で昼1に東興に顔を出すことになった。
内線で銀行さんが今2階に向かいましたと連絡が来た、今受け付けは7階にあり狭くなったデジタル事業部に社長室や応接を潰し明け渡したため私は一人2階にいる。
マキが銀行の専務と支店長を案内してきた。
「狭い部屋ですみません、来年までには入居者も出て行かれるので広くは成るんですが当分はこの部屋が社長室です」
「実務優先ですね」
「狭いですがおかけく下さい」
マキが手早く茶の支度をし丁寧にお茶を出した。
「今日は何か面白いお話しが聞けると」
「いやもうすぐ10月も近いと言うのに熱いですね」
はぐらかされたか。
マキが退出し支店長が話し出した「実は御堂筋に面したビルがありまして、ビル自体は古く償却資産としてはゼロとお考えください、今当行で120億の極度額で90億貸しています、元金が契約通りに入らなくなって2年たちます、今度は利息の引き下げを要求しいて来たので当行は抵当権を行使することにしました、土地はバブル崩壊で下がっていますが御堂筋に面していて将来性はあります、このビルを抱いていただきたいのです」
「90億の借り入れを肩代わりする体力はありません」
「違います30億で結構です、但し全額本町支店で融資させていただきたい、将来転売された時には裏取引になりますが専務に3億私に1億を何らかの形で報酬として支払っていただきたい、これもペーパーにします、但し契約の前に別室で」
「今後の光さんの活躍でこの貸し倒れが目立たなくなりますわ」
「専務の英断ですよ」
「考える時間は」
「明日の3時までに連絡を下さい」
専務が口を開いた「第2弾の融資私の決済で下しておきましたよ、最終が9月末にあると聞いていますが」
「はい最終は9月末です、宜しくお願いしますビルは後で見に行きます」
「社長はお忙しいでしょうから私達はこれで、資料を渡してくださいよ」
支店長から資料を受け取り、エレベーターまで見送った。
こんな大きな話は石川さんに相談するか、いや違う近鉄の川上さんと相川専務しかいない。
2人に電話しお昼を食べる約束し待ち合わせたのは心斎橋の老舗のそば屋である、1時に東興さんに入りたいと言う私の我儘を聞き入れ店を決めてくれえた。
「今日の相談て」
「このビルです、120億の極度額が設定され90憶の貸し付けが実行されています」
「謄本を見ていた相川専務がうちの親会社もこの会社に別のビルで金を貸していて抵当権を行使するか悩んで相談に来ていたよ、大阪湾銀行が押さえに出るならうちも押さえさせないと会社が飛んでからでは遅くなる」
「銀行はなんて言ってきたんですか」
「30億で抱いてくれと、転売したときは専務に3億支店長に1億の報酬を出すことが条件です」
「あの専務銀行に見切り付けたな」
「危ない橋を渡らんと光の影に隠れて大きな退職金を作る腹や」
「池中社長買いなさい後は何とでも考えよ、横のビルに話しを付け御堂筋協定の高さを超えるビルを建てても面白い、あのビルは角地や色々考えられる」
「分かりました買います、宜しくお願いしますね」
「抱き切れんようになったら1次的に肩代わりも考えたる」
「大阪はお笑いが知事になったおかげで仕事がやりやすくなった後2期ぐらいしてくれたら御堂筋の高さ制限もすぐに破棄される」
「直ぐにでも働きかけよ、相川さん知事に表敬訪問しませんか」
「高さ制限が緩和されるのであれば土地を押さえんとね」
「ついでにうちの親会社の不良貸し付けのビルも引き取るか」
「無茶ですよ」
「一応話を聞きに行ってみるわ」
応援は非常にありがたいがこれ以上は管理面でもしんどいと思った。
2人は天ざると卵丼を食べ私の小食を笑いながら帰って行った。
1時に東興の石川部長に面談するため受付に行くと多くのプロジェクトメンバーもロビーにいて挨拶を交わした。
阪急の担当者が「池中さん稲田さんに新規出させていただきましたよ」
「ありがとうございます、稲田より聞いています、お礼に伺う予定にしていたんですが」
「いいですよ勉強会の2次会に誘っていただけなければ今がないんですから」
石川課長と支社長がロビーに出て来て全員を大会議場に案内した。
席に着くと紙が回され石川課長が皆さんの意見を取り入れ第3弾の割り振りと販売調整を検討したいんですと言われた。
「販売調整は必要ですし当分市場には情報を出さないことが賢明だと思います」総合の大西さんが発言した。
「当社は一部ビルとして押さえたいのもあるんですよ、もうすぐ青い目のファンドがビルを買いに来ると予測されています、今日本のビルは格安です、みなさんと協力してファンドに卸すビル事業もこのメンバーで検討をしたいんです」関電不動産の課長が発言した。
「あのう御堂筋に面した00ビルをご存知ですか」
「あれが欲しんですよ、横は関電保有のビルですから、解体して大型ホテルにしたいんです、90億の借り入れ物件ですから今は手が出ません」
「50億ならば」
「今すぐ買います」
「それじゃ当社とJVが出来ませんかね、当社はあの土地を決裁する予定です、50億の出資を土地でさせてください」私は発言してしまった。
「池中さん何時のまにあれに手を付けたんですか」石川課長が笑みを浮かべて聞いてきた。
「今日の朝大阪湾銀行の専務が来て融資を付けるので抱いてくれと言ってきたんです」
「うちもその計画に入れてください」NTT都市開発であった。
「それと近鉄の川上さんと新生保の相川さんがお笑い知事に会いに行って御堂筋協定の高さの緩和をお願いしてくるとも言われてました」
「池中さんビルプロジェクト、ホテルプロジェクト立ち上げましょ」東興の支社長が言った。
「池中さんところの保証は東興がしますし、ダブル専務も出て来るでしょう」
「もう一つ同じ会社のビルがあるんですが話聞きます」
「もちろん聞くよ」石川課長が発言した。
「そのビルは新生保の親が貸し付けてるビルですよね」また関電不動産が乗り出してきた。
「それと大阪湾銀行の専務がこのプロジェクトに入りたいと言って来てます、あそこはビル中心だからタイミングはいいですよね」
「このメンバーが集まるときに呼んでくださいよ」南海の課長が発言した。
「分かりました来週の今日同じ時間に呼び出します、ダブル専務は抜く事が出来ませんいいですよね」
「この会議に出たがってるんですようちの専務」
高橋課長の発言であり新生保の担当課長も同じであろうことは察しが付く。
「取りあえず石川課長の御作りになった作戦は私たちのかなりの我儘を兼なえてくれているので当社はこの作戦で会社の最終決裁を取ります」阪急の課長が発言した。
「今後最低3年は続くプロジェクトです頑張ってやり抜きましょう」石川課長が締め括った。
帰りに石川課長と立ち話をしていると関電不動産とNTT都市開発の課長が来てあのビルの決済は何時かと聞かれ来週中ですと答えると、さすが早いですねと言われたが嫌味には聞こえず、プロジェクト立ち上げは東興さんの会議室でいいですかとも聞かれた。
「どうぞうちも参加予定ですからここで立ち上げをしましょう」
NTT都市開発の担当課長は
「総額200憶は行きますよねそれ以上になるかもしれない、うちにも30億~50億分けてくださいね」
「うちは土地以外何もお出しできませんがいいですか」
「充分ですよあのビルが解体できるなんて夢でしたからね」
「東興としては光さんと足並みを並べたいんですが関電さん検討してください」
「立ち話で200億は大きすぎます、うちの会社にホテル計画があるので来てください」
「今から行きます」
4社で関電不動産に訪れた。
ホテル計画は完成していたが私が買う予定の土地価格が55憶で設定されていた。
「池中さん騙しませんよJV評価は現在55憶です」
「ありがとうございます、コピーいただけませんか」
「いいですよみなさんの分もコピーさせますのでお待ちください」
「池中社長、そのうちに大阪の顔になりますよ」
「ご冗談を、小さな広告屋の社長ですよ」
「プロジェクト参加メンバーが必ず関西ナンバーワンの広告会社にしますよ、約束します」
会社に帰り大阪湾銀行の本町支店長に面会を申し込んだ4時に来ると言うので直接2階に来て欲しい旨を伝え電話を切った。
「池中社長、ビル決まりですか」
「はい買わせていただきます、今はまだ詳しくは話せませんが専務と支店長の報酬も今日確定してきました、もっとビルを出してくださいすべてに報酬を確約いたします、それと第3弾のデベロッパー一覧です、今回も全デベロッパーに短期間でも借り入れを起こすようにお願いしています」
「早くしないと難波銀行が持たない月内決済で実行しましょう、ビルは来週に契約できる段取りをお願いします」
「全て専務にお伝えします」
「プロジェクトメンバー全員が来週の今日13時に東興に集合します専務と支店長にぜひ来ていただきと言われています、段取りお願いいたします」
「専務も喜ぶと思います」
支店長は帰って行った、稲田とタダシ、青木さんを2階に呼び今日の話を全てした。
「御堂筋に建てるホテルのJVに55憶で参加て、ついに狂ったか」
「保証は東興とダブル専務や」
「もうけは25億プラス転売利益や」
「青木さん何とか30億の金利を3年間抱える財務計画を出して下さい、仕事はなんぼでもある、金利分の仕事は出してくれる約束や」
3人はあきれ顔で部屋を出て行った。
ビルの契約、第3弾の契約、転売も終わり、ホテル計画が動き出した。
時間は止まらないスローにもならないマキとの約束を何とか守りながら朝7時には出勤し夜早く帰れるように努力もした、稲田の下に引き抜いた人間が3人と募集で来た2人でチーム編成が出来た、入居会社が出て行く部屋を虫食いで活用してきたが8階の最上階が全て開いたのでデジタル事業部に開放した。稲田は社長室に何故しないのかと少し怒っていた。
土日と休みが取れたのでマキを横に乗せ約束の岬巡りに出た、大阪最南端に近い岬公園の海沿いの道を走り加太の海で昼食を取り産湯の綺麗な海に感動し田辺のホテルに付いた。
「ずうっと運転してたから疲れたん違う」
「大丈夫や運転は好きやねん、それに赤い奴もたまには遠乗りさせたらな腐ってまう」
「和食の懐石か少し行ったところの大きな寿司屋かどうする」
「当然寿司屋でしょう」
部屋に荷物を置き二人で歩いて寿司屋に行った。
ファミレスのような規模のすし屋なのだが地元の漁協が経営をしていて美味しい。
「何たのんでもいいやんな」
「どうぞ」
少し怖さもある。
「お刺身はこの写真のやつで握りはこの写真のやつ天婦羅になまこと茶碗蒸しが二つに生ビール下さい」
「お前無茶してないか」
「大丈夫やまた頼む」
「あいかわらずや」
「今日は何のストレスもなしや全部食べて見せる」
「鯛の頭の煮つけ頼むよ」
「好きにしたらええ」
「焼酎を一緒に頼んでくれ」
見ていて気持ちのいい食べぷりで最後は私に手を引かれなければ立てないマキであった。
地下の自動販売機でビールを仕入れ部屋に帰り海を見ながら飲んだ。
「ホテル上手くいけば凄いね」
「うちの名前が大阪中に出る」
「何か不思議ですね」
マキを引き寄せて抱きしめた、幸せを感じたかったがまだ実感は無かった。
翌朝はぎりぎりまで眠り、朝食を食べて白浜に向かったが秋の海は人気も無く寂しい限りなのでサファリパークに向かった。
サファリパークの園内遊園バスに乗るとマキは子供に帰りはしゃいでいた。
大阪まで帰るガソリンを入れて海南までの下道を走り高速にたどり着くのに3時間もかかりエンジンが焼け付かないかと心配したが何とか高速に乗れた。
「捕まるんは嫌やけど1度だけ飛ばしてみて」
このあたりはオービスがないので力強くアクセルを踏み込むとフェラーリのエンジンは唸りをあげ加速した。
「もういいです辞めてください」
120キロにスピードを落とした。
「120キロがゆっくりに感じる、何キロ出てたん」
「内緒や、聞いたら殺す気かって言い出しそうや」
「マキ今日は楽しかったか」
「楽しかった、帰るのが嫌になるわ」
「仕事きつくてごめんやで」
「そんなんはいいんよ、こうしてたまに光ちゃんを独占したいねん」
大阪までノンストップで帰り車をしまい日曜メニューのハイハイタウンの居酒屋に行った。
「お久しぶりです」
「忙しそうやね、昨日から車がないから旅行にでも行ってるんかと」
「白浜まで1泊2日で遊びに行ってきました」
「生でいいですか」
「はいお願いします」
「今日は焼肉定食と出汁巻に焼きうどん下さい」
焼きうどんを少しもらいながら飲んでいるとアメリカンの練習帰りの団体が入って来てさすがにマキも驚くほどの注文をしていた。
「あかん負けられへん」
「負けろ負けろ」
焼酎を飲みながら出汁巻に手を出すと一瞬睨まれた気がした。
「焼き鳥を頼んだ」
「今日な行きたいところがあってん」
「どこやねん」
「グランドのバー」
「食べたら行こうや」
「もう終わるから勘定しといて」
こいつは給料を何に使ってるんだろう、一度聞いてみよう。
バーに向かうタクシーの中でお前給料はどうしているんかと聞くと
「5万円以外は全部貯金してるし給料日に余った分も貯金に回してる、光ちゃんとこに転がり込んでからや」
「堅実なんや」
「違う何時かはこのお金も役に立つかと思てるんや」
「当てにせんでもいい会社にしたいね」
「何でグランドのバーやねん」
「私1度お金忘れた社長に持っていってビール飲ましてもろたことがあるやろ、あれが初めて光ちゃんと二人で飲んだ日なんや1年前の今日や」
「そうや思いだした財布も何もかも会社に忘れて持って来てもうたんや」
「私な凄く嬉しかってん、光ちゃんの横で飲めて、直ぐに稲田さんが来てぶち壊しやから帰ったけど」
バーに着き二人でカウンターでお酒を飲んだ。
「明日からまたハードになる、朝早いけど頼む」
「朝早い分夜に二人の時間を作れるから私は平気や」
「すみませんフランシスアルバートを二つお願いします」
マキが帰ろのサインを出してきた。
社内は秋売りの広告と次の広告の準備でバタバタ状態で、挙句の果てにデジタル事業部が不動産以外の仕事を入れまくるのでタダシが走り回り何とか納期を守っていた。
ホテルプロジェクトは東興さんの会社で契約が締結され地下の2層は飲食店と商業スペースに1階から5階までは今入居している関電の子会社が完成後に入り6階から8階は商業店舗、9階から20階がホテルになり3つ星ホテルを誘致する計画で進んでいるが高さ制限を解除してもらうか特例を作るか大阪市との協議が大変らしい。最終的には御堂筋の中央大通り、本町通り、土佐堀通りの交差点の開発にだけ高さ制限を緩和する方向らしい。ファンドに350憶を目標に卸す計画で進められているがまだ高くなりそうだと石川課長が言っていた。新生保さんの紹介でビルの買い付けを検討したが関電さんに譲った。青木さんが負担をこれ以上増やすと運転資金の借り入れを起こさないといけない可能性を出してきたからである。運転資金は絶対に借りない主義であるため相川専務に正直に話し関電不動産に譲りたい旨を申し出た。
「君でも引くことがあるんや、感心した」
褒め言葉か嫌味か分からなかったが頭を下げた。
12月に入りデジタル事業部以外は少し落ち着き新年の新聞広告をかき集めて稲田が中心になり新聞社と話し合いをし新聞の販売権を勝ち取った。関電の本体の広告やNTT本体、阪急電鉄、南海電鉄を初め大手企業の出稿をほとんど押さえていた。
電博からも電話があり、正月の押さえてる広告の原稿を取りに来るように言われたが持ってくるように言い電話を切った。原稿は下請けのデザイン事務所が次々に持ってきたので全て名刺交換をさせうちの仕事を頼む先としてタダシに検討させた。
販売計画や広告会議にあまり顔を出すことが少なくなってきた私にプロジェクトチームからのお誘いが有り新地のシェラトンに行くと全社の担当者が来ていて全員で新地の中を歩くとそこらじゅうの黒服が声をかけてくる、みんな新地の有名人である。本通りの割烹の2階が押さえられていて怪しげな飲み会が始まった。プロジェクトリーダーの石川課長の挨拶で始まった。
「昨年から池中社長には驚かされる事ばかりで今年は今までにない最高の年末が迎えられただけでなくボーナスも凄かったです、池中社長に全員感謝しています、来年のチームリーダーは三鉄不動産の高橋課長になっていただきたい。会場も近鉄さんのビルに移ります、池中社長、高橋課長一言お願いします」
「みなさんの少しでもお力になれたことを誇りに思います、大阪湾銀行とも良好な関係が出た事、光徳が頭を下げてきたことなど来年もこのチームで最高の年にしましょう」
「新しい年からプロジェクトチームのリーダーをさせていただく事に不安はありませんが私は石川課長ほど努力できるかが心配です、来年1年プロジェクトに集中し頑張りたいと思いますので皆さんの力を貸してください」盛大いな拍手が起こり乾杯の音頭を住銀地所の大西部長の掛け声でスタートした。
「池中社長、フェラーリお持ちですよね一度運転させていただけませんか」
「何時でも乗って行ってください」
「いいんですか」
「まさか近鉄の高橋課長が乗り逃げしないでしょ」
「うちは子供がいなくて1度嫁さんに海の見えるところに連れて行けと言われていてお借りして気分だけでもゴージャスに行きたいんです」
「1泊でも2泊でもほとんど家でくすぶってる車ですから」
高橋さんとの話を聞いていた関電不動産の霧山課長も参加してきた。
「池中社長僕にも運転させてください」
「車は会社の駐車場に置いて置きます鍵は経理担当のマキに言って下さい、何時でも乗って行ってください保険はしっかり入ってますから安心して運転してください」
「池中さんはあまり乗らないのですか」とNTTの西川課長が聞いてくるので
「乗っても月に1度ぐらいです」
「もったいにあんないい車を置物にするなんて」
「いや市内に住んでいると余り乗らなくなるんですよ」
「家はどちらに」
「上六で賃貸マンションに住んでいます」
「賃貸ですか、それは問題や」
「みんな聞いてくれ、池中社長は賃貸に住んでいるらしい、どこが社長にマンションを買ってもらうかの勝負が残っていたよ」西川課長が大きな声で言うとみんなが反応した。
「市内の中心部で超高層を計画しているチームがうちの最上階を提供しますよ」
「うちのチームのも見てください」
そこら中から声を掛けられて最後は全部買ってもらうと言うことを勝手に決められた。
約束で2次会は無し各自行きたい人間だけが行くと言うことになり本通りで解散をしているところによその代理店の営業が紛れ込んできた。
「君失礼だぞ、ここは光の池中社長が仕切っている」東興の別の課長に叱られていた。
「すみません有名な開発担当者が全ているみたいで興奮しました」
「とにかく今日は解散ですね」
「お疲れ様でした各自会社単位で別れた」
一人で帰ろうとした私に声をかける人がいて良く見ると朝霧の部長が誰かと立っていた。
「そこのバーで1杯いかがですか」
「お付き合いします」
3人でバーに入り見たことのない男性が朝霧の支社長であることが名刺交換で分かった。
「池中社長、頑張られてるみたいですね」
「少しだけ頑張らしていただいています」
「朝霧はあきません。戦力であった稲田に出て行かれ、東京主導でリストラ、社内の意識も下がるばかりです」
「大変ですね」
「デジタル事業部はどうですか」
「不動産以外のオーダーが多く人が足りません稼ぎ頭ですよ」
「先見の目がある、私どもはデジタルと言われても意味すら理解できていない」
「御社に稲田がお世話になっていると聞いて安心しました、彼は23歳から今まで大阪の不動産で営業一筋でした、今から何が出来るんかと心配してたんです」
「そんなことはありませんよ、彼もデジタル事業を理解しかなり売り上げしています」
「あれはあれで優秀な男です宜しくお願いします」
「先ほどの人たちは全て大手デベロッパーですか」
「そうです日本を代表するデベロッパーの若手開発課長会です」
「あそこの会社全て広告を頂いているんですか」
「そうですね全て頂いています」
「失礼ですが今期の年商は」
「隠しても仕方がない300億を超えています」
「関西だけで見ると朝霧の倍以上はありますよ、電博レベル4社の次に来ているんじゃありませんか」
「それはどうかわかりませんが売り上げは大きくなりました」
「自社ビルも店子をすべて出してフルで使われてるとか」
「まだ6割程度です来年の春には全てのフロアーが会社に戻ってきます」
「今社員数は」
「帝国データバンクさんみたいですね、40名ほどです」
「聞いてばかりいてすみません、広告協会に推薦しておきます」
「ありがとうございます」
後は世間話をして分かれた。
家に帰るとマキはまだ帰っていなくて会社に電話をするともう着くころだとタダシが教えてくれた。
マキが帰ってきた、
「早かったやん、よしよし偉いぞ」マキ
「明日営業の人数分とデジタルもや、それと各セクションに1台携帯を導入してくれ、スピードある営業体制を作り直す」
「家でも仕事か光ちゃん」
「いやな予感がするねん、オバーフローしそうや、先に手を打つ」
「ビール飲むか取ってきたるで」
「嬉しいけど先にシャワー浴びる、それからにする」
「俺、お前の後でシャワー浴びるわ」
「ゆっくりしてて」
次の日は携帯会社が20数台の携帯を持ち込み営業部とデジタル部は大騒ぎになった。
「これ有ればどこからでも手配出来て便利や電話ボックスを探す手間が省けるしお客さんからも直接電話貰える」
みんな嬉しそうであった、稲田は先に渡しているため何も変わらないが全員に短縮番号を入れさせ営業同士の連絡網を作らせた。
「仕事の効率化を図らなオーバーフローすると考えたんやな」稲田は見抜いていた。
「それもあるけど先に進んでるイメージも大事や」
「それと昨日の夜、朝霧の支社長と酒飲んだで」
「何でまた」
「部長が顔覚えていて声かけてきたんや」
「稲田を宜しくと言うてはった、うちの会社を広告業協会に推薦する言うてた」
「あの人は新聞社から来た人の中では苦労人や悪い人と違うから支社長は付合って問題はないで」
「今度部長も入れて4人で飲みに行こうや」
「ありがとう、電話しとくわ」
社内のドタバタもおさまりマキに内線で逃げる用意を促した。
その時トラブルの電話がかかってきた営業が車の事故を起こし相手が悪いらしい、今から会社に来ると言っている。
「僕と稲田さんで対処しますよ、大丈夫ですよ」
タダシのその言葉に甘えマキと会社を出て食事をしてのんびりした。
朝1番にタダシと稲田が社長室に来て昨日の事故の報告をしてきた、相手は関西を代表するやくざの下部組織で社長を出せの一点張りで今日も来るみたいや。
「すまん解決できんかった」
「それより事故はどんなんや」
「やくざが歩いてる時に横を通りサイドミラーが手に当たったて完全な因縁や」
「どこの組や」
「名刺置いて行ったこれや」
「あとは何とかする仕事してくれ」
東興の石川さんに知恵を借りよ。
石川さんに電話をすると「名刺コピーして送って、ゼネコンに追い払わす、こんなことはゼネコンが得意や」
やくざは現れなかった、それ以降も連絡はなく解決したのであろう、石川課長はゼネコンに借りを作ったから返すのを手伝ってやと言われたがその時は意味が分からなかった。
数日が過ぎて石川課長からの呼び出しで会社に行くと中堅ゼネコンの営業部長を紹介された。
「こないだのやくざ対策をしていただいたゼネコンの部長さんや」
「光の池中です、ありがとうございました」
「気にしないで下さい我々の世界には彼らとの繋がりがあります、名刺の上部団体に知り合いがいて直ぐに解決しました、社長は顔出さん方がいいですよ」
「池中社長、今度の御堂筋ホテルなんやけどビルの前の竹中は外されへんけどJVで浪速建築工業を押したいねん竹中だけで施工させたら高つくからな」
「部長、実は池中さんの会社は55億負担してるんや25%の比率やうちと合わせて50%や」
「驚きました、何時もいただくH社25%は光さんでしたか」
「マスコミ発表までは秘密やゼネコンや色んなんが会社に押し掛けたら光さん仕事にならへんからな」
「部長貸し作って正解やったやろ」
「貸やなんて価格を抑える努力をし頑張ります」
「それと今度池中さんのビルの工事や受け立ってくれへんか」
「どんなビルです」
「ワンフロワーは70坪程度でエレベーターは2基あり8階建てです」
「図面と改装計画下さい短期間で見積仕上げますよ」
「会社閉められへんので上半分と下半分て分けて工事できます」
「出来ます何度も経験があります、大きな自社ビルをお持ちなんですね」
「驚くで無借金経営や」
「これからもビル立てはるから営業しっかりしときや」
「こちらこそ凄い会社を紹介いただきありがとうございます」
「信用できる人間は紹介しても恥をかかないからいい」
「池中さん一度訪問させて下さい」
「近所やから今から来ますか」
「お伺いいたします」
「石川課長部長借りてもいいですか」
「連れて行ってください私の話は済んでいます」
ゼネコンの部長とタクシーで5分の会社に戻りビル全体を見せた。
「これは良いビルですね、構造もしっかりしているし改装もしやすい」
「私の部屋に行きましょう」
マキに来客を伝えお茶を頼んだ。
各部署が将来も考えて自分たちでレイアウトしてきたマンガと正式なビルの図面を見てもらった。
「1部無理そうなところもありますが、会社で検討させます」
「安くとは言いませんここを出て行くときに転売しやすくしておいてください、違法もなしです」
「分かりました、最新の技術を動員して検討させます」
「特名ですからいい仕事を頼みます」
「合い見積もり無しですか」
「石川課長の顔を潰すような真似は致しません」
「ありがとうございました」
ゼネコンの部長は大きな仕事の足掛かりと会社の内装工事を手土産に帰って行った。
しかし全ては上手くいかなかった、次の日の朝からゼネコンの部長が会社に来た。
「すみません社長、解決を依頼した当社の顧問先がどうしても社長にお会いしたいと聞かないのです、他意はない光の池中に会いたいだけと言うのですよ、事故の事はその場で解決済みです」
「私が合えばいいんですよね」
「そうなんですが、こんなことは初めてです」
「早いほうがいいです今日でも明日でもお会いします」
私の部屋から先方に電話をして今日の6時に迎えが来るそうである。
「社長私も同席します」
「大丈夫ですよ、石川さんにも内緒ですよ」
6時に会社に電話があり下に降りた、ビルの入口で
「あなたが池中社長ですか」
「はい、あなたわ」
「今日お時間をいただいた解決主のトップをさせていただいています上川です、無理を言ってすみませんね」
「無理をお願いしたのは当社です、今からどうされますか」
「今日は一人で来ていますこの近くで池中さんとお飲みできる店があれば招待してください」
「私の行く店は私の仕事を知っています池中さんに迷惑が何時かかかります」
私は彼がボディガードを引き連れてると思ったがアートクラブまでの道程でそれはないと感じた。
「池中さん、お友達ダンディーな方や、どうぞ奥の席に」
ママは何かを感じたのか他の客の目につかない席に私達を座らせた。
「ビールと後はウイスキーでいいですよね」
「ママ、ビールと何時もの18年をセットと食べる物は適当に出して」
「私に会いたいと言われたと聞きました」
「あなたと話がしたかった」
「なぜですか」
「私のボディガードを殴り倒した人だと聞いています」
「何時ですか」
「最近の話ですよ、グランドホテルでの事件ですよ」
「私は当事者じゃない」
「いいんですよ、あなたがいなければ馬鹿は殺人事件を起こしていた、あれを真正面から倒した人と話がしたかったんですよ」
「相手が私より酔っぱらっていただけです」
「いやあれには勝てないですよ、怪我は無かったですか」
「手の甲にひびが入り少しの間ギブスをしました」
ビールとモレッジの18年が運ばれてきた。
「乾杯はしません、お飲みください」
「かなり性格もお強い方ですね」
「一般人です」
「私はあなたに食いつきに来たんではないんですよ、あなたがしている銀行の不良債権飛ばしややくざ絡みの土地の洗濯なんて興味はないんですよ」
「では何故私に会いたいと」
「興味あるのは池中社長個人なんですよ」
「私個人に何があるんですか」
「北新地のラーメン屋も面白かった、私のボディガードを倒したのも面白かった、ただそれだけですよ」
「ラーメン屋の騒ぎのことはなぜ」
「あなたの奥さんの前で食べていて、酔っ払いにうるさいと言ったのは私なんです、あの時は前の席の女性が奥様になるとは知りませんでしたが」
「なんでもよくご存じで」
「イタ飯屋でやくざをワインの瓶で殴り倒したことも知っていますよ」
ビールから18年にグラスを変えながら恐怖を覚えた。
「私はあなたに興味を持っただけです、私たちの世界の人間が何かあれば電話下さいは仕事の依頼です、お金ですよ。池中さん、お金は将来のお互いの目指すところのために使いましょう、私は大阪で一人ぐらい今日時間あるか飲めるかと電話できる知人を探していただけですよ」
「信じていいんですよね」
「信じてください、私は神戸の親戚関係ですが東京から来ています、しのぎも大きくしています、若手のトップのつもりです。年も変わらないが、あなたは面白い、池中さんが私と個人で付き合う、私もあなたと個人で付き合う、それでいいじゃないですか私は今日ボディーガードも無しで来ましたよ」
「分かりました池中個人としてお付き合いします、でもあなたの看板に頼りたくなったらどうすれば」
「この店で愚痴を言ってください、それだけでいい」
「あなたの愚痴はいつ聞けばいいのですか」
「熱帯魚の店で聞いて下さい」
2時間以上も世間話をして別れた、彼はアートクラブの前でタクシーに乗り帰って行った、嘘は言わない男だとは感じたが違う世界の人間であることを忘れないでいなければ。
次の日、朝から稲田とタダシを呼びやくざの当たり屋の事件は解決したことを話した。
「金か」稲田が言った。
「違う友達になった」
「誰とや」
「会社の車に当たった男の雲の上の人や」
「別の難癖付けられへんか」
「安心し、大丈夫や」
「お前が言うなら」
「僕は理解できたと思います」タダシは何かを感じたのだろう。
内線でマキから今日は早く帰えれると催促がきた。
「6時にグランドのバーで待ってる」
内線が切れた。
翌日は朝から身柄を拘束する話が続き最後に稲田が年末の挨拶の計画を持ってきた。
少し見て数の多さに驚いた。
「どうしても俺が行かなあかんところだけにしてくれ」
「普段行っていない会社に顔を出してくれ」
「分かったそうする」
「西の分も入ってるんか」
「タダシと話して西の営業先も入れてる」
「どこもお前と会いたがってるから、出来るだけ行ってくれ」
「頑張ります」
「社長の仕事やとあきらめてくれ」
「20日スタートやからな」
社長室は背中に窓があるだけで少し暗い、しかし相手の顔が良く見える分だけ気持ちが読み取れる、西の応援をしろと言うことだろう。
西に内線で社長室に来るように言った。
「最近どうや」
「少しパワーダウンしてる感じもありますが、プロジェクトからの仕事が多く来て売り上げはキープできています」
「今日マキと飲みに行くけど行けへんか」
「お邪魔していいんですか」
「6時にグランドホテルのバーやマキと来たらええ」
「行かせていただきます」
グランドのバーで飲んでいると3人で来た一人は西の部下で同じ年で西が引っ張ってきた子である、マキも良く知っていた。
「今日は3人の同窓会プラス財布や」
「マキチャン怖いこと言わんといて」
「仕事終わったら夫婦に戻るんよ、せやからこれでええねん」
「仕事終わっても私には社長や」西
「それもそうやな適当でええやん」
「何食べたい」
「店予約してきてん、食道園です」
「歩いてすぐや行くか」
3人はバーでは何も飲まずに出た。
食道園までの最短コース、シェラトン前の橋を渡り本通りを右に回り到着である。
「新地良く来てるから道詳しいですね」
「嫌みか」
「褒め言葉ですよ」マキ
後の二人は笑っているだけで何も言わない。
店に入り生ビールを頼み3人がメニューとにらめっこしている、話しはまとまった様である。
オーダーを聞いた店員さんが驚いていたが1時間後には追加していた。
3人ともよく笑い良く食べる。
「マキ紹興酒を1本貰ってくれロックのセットで冷えたのと言わないと温いのが来るから注意や」
3人も紹興酒のロックを飲み美味しいと騒いでいる。
「3人ともボーナスは期待道理か」
「期待以上でした、驚きましたよ」西が言った。
「私、今年入社で期待していなかったのに凄く高い評価をいただき嬉しかったです」
「タダシの評価や」
「タダシさんは無口やけど何時も人を見ているから安心やね」マキ
「社長にはボーナスはないでしょ」
「役員賞与と言うのがあるが正月の餅代で消える」
「毎年最後の掃除の時に社長のボーナスを全員に分けて税金のかからん正月のお小遣いがもらえるんよ」
「今年はなんぼ貰えるか、去年は全員5万円もらえてん」
「この上まだ頂けるんですか」
「恒例やからね」
「タダシも手を出してまってるよ、奥さんにばれないお金やからね」
焼肉で騒ぎバーで騒ぎ元気な3人と飲んでいるとこちらまで元気になる。
2人が帰りマキと二人になり本通りを御堂筋に向かい歩いた。
「西の事ありがとう、励ましてくれてんやろ」
「あまり相談にも乗れてないからな」
「部下の子も喜んでた、社長と食事が出来るねんもん」
「そんな雲の上の社長ちゃう」
「稲田さんも含めみんな雲の上の人やと思てる、付き合う人が凄い人ばかりやしあの電博に原稿を届けさせた」
「かかってくる電話も00専務の秘書ですが池中社長はいらっしゃいますかも多いし」
「だいぶみんなと離れたみたいや、もっと社内をうろつくわ」
「そんなことせんでもいい、今社内は池中教で満たされてる、やれる仕事を優先して下さい」
「北浜のバーに行こうや」
「はい」
嫌がるタクシー運転手に高麗橋を抜けさせ堺筋の出口で車を降りた。
店に入るとマスターは一人でグラスを磨いていた。
来てくれそうな気がしてたんですよ。
「18年二つ」
「1月にホテルの計画がマスコミに出る。その時に株式会社光も25%出資していることが発表されるマスコミが金の事を嗅ぎまわるはずや、気を付けや」
「人は誰もおらんけど不動産事業部を作る、ここに電話が来ても担当は外出中や、後うるさい所は俺が対処する」
「正月は実家のそばでホテル押さえて一緒に帰ろか」
「実家に泊まろ」
「それならそれで俺はかまわんよ」
「父さんも母さんも喜ぶは」
「郷の舎のお重はマスターのぶんも入れてやっぱり二つやな」
「ありがとうございます」
「年末の挨拶回りの予定見たけどハイヤーで回らな、しんどすぎるスケジュールになってた」
「稲田には釘さされてるから行くしかない」
「西の担当してるとこもだいぶ入ってる」
「西きっと喜ぶわ」
「来週から戦争や」
年末の会社回りは地獄であった、あまり顔を出さない先では池中社長が月に1度でも顔出してくれたら今の2倍は仕事を出すと言う先も、プロジェクトの広告をすべて押さえていることに勘ぐる先もいたが何とか乗り切った。結局稲田の書いた企業は全て回った石川課長には来んでもええのにと言われたが挨拶をして和菓子の詰め合わせを置いてきた。プロジェクトチーム全ての対応は同じであった。
西が開拓した新規取引先で担当者が上席役員を伴い挨拶に出て来た。
「池中社長自ら年末のバタバタに来ていただけるとは」
「めっそうもありません今年は当社の西が大変お世話になりました」
「池中社長5分ほどよろしいですか」
「かまいませんよ」応接に通された。
「当社は今大阪にも力を入れ出しているのですがまだ3年目で右も左もわかりません、
つきましては池中社長に当社の大阪のコンサルティングをお願いしたいのです」
「コンサルティングは出来ませんがJV先や土地の綺麗な出どころなら、かなりご紹介できると思いますよ、年始に当社の勉強会兼パティーがありますご出席いただけましたら、関西のデベロッパーの中心部を構成する人達をご紹介できます、また彼らの持つマンション案件、ホテル案件などの参加もご推薦させていただきます」
「御社の勉強会は有名ですよ、当社もぜひ参加させていただきたい、土地情報にも強いと聞いています、来年は光さんに絞ってやっていきますのでよろしくお願いいたします」
関東系の電鉄は懐が深いと聞くがプロジェクトに入れるかどうかは石川さんと相談である。
「ありがとうございます来年の早い時期に情報をお持ちいたします宜しくお願いいたします」
西と二人で担当者と役員に頭を下げ辞した。
「社長ありがとうございます、やはり有名人ですね、みんなが会いたがる理由がわかります」
「今はダブル専務やプロジェクトメンバーが支えてくれているからや、実力やない」
多くの取引先で少し多めに時間を取られ会社には予定の4時に帰れず稲田がいらいらしながら待っていた。
「遅かったなあ」
「関東系で大阪はまだ新人のデベロッパーに顔出したら勉強会に入れろや年始のパティーの呼んでくれや土地情報を入れてくれだのお願いの山やった、時間食うたわ」
「悪いもう出ないかんのやろ」
「そうや今日はダブル専務とのデートやお前もやけどな」
「面識はあるけど敷居が高い気がする」
「大丈夫や稲田の不動産知識と度胸があれば」
2人で約束の新地の割烹に向かった。
部屋に入るとダブル専務が既にきていた。
「お待たせしました申し訳ありません」
「謝る事はない、会社に居ても挨拶回りがうるさいだけで逃げてきたんや」
「私らフライングでビールもうて飲んでる君らも早く飲み物頼み」
稲田は自分の立場をわきまえ話を合わせながら場を和ませ1時間ほどが過ぎた。
「池中社長二人でお願いがあるんや」
「なんでしょうか」
「例のホテル計画、高さ制限の緩和も成功して1月にマスコミ発表するんやろ」
「予定では中旬と聞いています」
「頼みとはそのことなんや、君の出資額の55億円の内50億円分を我々に譲渡していただきたいんや」
「譲渡ですか」
「ただでくれとは言わん、50億の土地を5億プラス税金や手数料もこちらサイドで何とかする」
「分かりました明日東興の石川課長に報告して譲渡いたします、契約は年内がいいですよね」
「この借りは必ず返す、ここまで大きなプロジェクトになれば私らが置き去りにされたと笑いものになる」
「利益見合いなものはこちらで考える」
「今譲渡価格に乗せた5億では少なすぎるし他の参加者からもクレームがつく、必ずこの借りは返すよ、君の親代わりと仲人だからね」
権利譲渡をすることを了解したのでダブル専務は増々機嫌がよくなり解散するのに時間がかかった、明日ダブル専務と石川課長に会いに行き話を付けて終わりだ。
「稲田、つきあえや」
安田バーの扉を開けた、人も多いが酔っ払いが多いので直ぐに扉を閉めて別のバーにした。
「ホテルの件は聞いてたやろ、あれでええんや」
「ダブル専務もここにきてええとこ取りか」
「違うええとこ取りはうちや」
「あの土地の借り入れは30億や現在の金利は数百万どまりや、50億分を55億で売ると25億の利益やその上5億分はプロジェクトに残れるうちの規模で言うたら参加してることも異常で55億の金が動いてることも異常や、ダブル専務がお前とこでは荷が重い後でつけが回って来るでと暗に言ってたんや、早い話が顔を立ててくれたんや、多分ホテルプロジェクトの担当以上のレベルでは確認済みの話や」
「しかし儲かったな、何に使うねん」
「ビル買うか」
「それより今日最後の方でダブル専務に頼んでた件は西の担当先の大手電鉄の子会社やろ、けど関西はあまり力を入れてなかったが急に関西に力を入れ出したんか」
「そうみたいや、関西の土地が安止まりしている分チャンスやと思ってるんじゃないか」
「ホテルの最後の持ち分5億を新人電鉄に持たせて恩を売り土地プロジェクトにも参加させる」
「西に頼まれたんか」
「頼まれてはないが西の顔に書いてあった」
「おもろいこと言うな」
「違う東興も新人電鉄も関東メインや、そのうちだれか転勤する順次うちも担当を関東に送り込み出店を作りそこから支社にまで大きくする、稲田お前の仕事や」
「俺東京の水合うかな」
「何言うてんねんお前は早稲田OBやないか」
「俺も忘れてたわ」
「近鉄も新生保も東京の方が供給数が多くなってる、デジタルも東京が進んできた、今行かなタイミングを逃す今日のダブル専務の貸は東京で返してもらう」
「この短時間でそこまで考えられるお前の頭の構造が怖いわ」
「明日が勝負や、稲田明日は俺から離れるな、お前の東京がかかってるで」
次の日石川課長に連絡した。
「ダブル専務にいかれたらしいな、聞いてるよ」
「それで今日お伺いしたいのですが」
「今日は暇や何時でもいいよ」
ダブル専務と新人電鉄の上席役員の田中取締役を訪ね5億の話を出すと私の決済で参加させていただきますと即答された。
「関西で仕事をするうえで最高のデビューが出来ます、譲渡についての条件わ」
「池中社長を大きくする事だけです、それと5億をスル―は失礼だから1億でも乗せてやってください」
「分かりましたこれで私も池中社長グループの端っこに入れたと思っていいんですよね」
「お時間ありますか東興の石川課長と支社長がお待ちしています」
「はい空けております」
車で東興に行き受付に稲田が石川課長をお願いした。課長と支社長は直ぐに出て来て応接に通された。初めて入る応接は広い10人は座れるソファーが置かれていた。
「池中さん初めて」
「はいこんな部屋に入れてもらえる仕事してませんから」
「よう言うわ、何時もバタバタで仕事以外は飛んで逃げるからや、これからここで打ち合わせしよか」
「冗談はさておきご連絡した通りの絵が書き終わりました」
「京浜電鉄不動産も参加することを了承されました」
「ダブル専務も了解されています」
「東興としては何の問題もありません、NTTと関電の了解も取り付けています、光徳プロジェクトの参加も全ての担当に根回ししています」石川課長が進行役で進めた。
「光徳プロジェクト、即ち池中プロジェクトです」
「池中社長はこの間銀行の不良資産を250億以上買われて更地にし我々に卸されています、このホテルプロジェクトの肝になったビルも池中社長が手に入れてくれました、我々は今8社で池中プロジェクトを動かしています、来年からの新メンバーとして参加されますよね」
「もちろん参加いたします」
「それでは来年春売りスタートの当社の超高層の20%を提供します、但しプロジェクトは外でお話しになるとメンバーから外れていただきます、社内でも口の堅い課長職以上の開発担当をプロジェクトに参加させてください、役員の方はたまに覗きに来られるのはいいですが出来れば上の世界で見ていてください」
全員が笑った。
「池中社長、昨日お願いしたことが今日はかなっている、我々で出来る応援は何でも致しますよ」
「来年はみなさんと美味しいお酒が飲めればいいじゃないですか、それだけを楽しみにしています」
今年の仕事はこれで終わり。
「稲田、京浜電鉄不動産は西の担当やけど東京の事もあるからたまにはフォローしたってな」
「任せろタダシと話をしとくわ」
「疲れた、俺逃げる」
「逃げてもええけどクリスマスイブや泣かれるぞ」
「ありがとう、何とかするわ」
会社に電話入れマキに6時に心斎橋日航に来るように言った。
プレゼントを考えて石川課長に電話を入れた。
「どうしたん」
「来年の完成物件で超高層の上の方開いてる部屋ありませんか、私が買いたいんです」
「折り返し携帯に入れるわ」
直ぐに電話が架かってきた。
「あるけど、近鉄との初めてのJV物件で最上階や苦戦してる」
「高いんですか」
「高い3億や」
「場所は知っています梅田ですよね、それ買います、売り止めにしてください契約は年明けでもいいですか」
「いいに決まってる、高橋課長にも連絡入れておく」
「それでは良いお年を」
「池中社長最後までありがとう」
5分もしていないのに高橋課長から電話が入った。
「ありがとう、オプション全部付けとく、最後の最後まで苦労を掛けてホテルはダブル専務に取られて悪かった、俺のできる事は広告で応援するぐらいやけど来年は全部持っていけ、誰にも文句は言わさんから」
「ありがとうございます、無理はせんといてください」
「明日から3日フェラーリ借りるで事故せんと返すから」
「ごゆっくりしてきてください」
電話を切って地下の宝石売り場に行きプレゼントを買った。2階のロビーに行くとマキが既にきていた。
「マキ行きたいとこあるねん」
「どこに」
マキとタクシーに乗り梅田に出た。
「ここに何があるん」
「この工事中のマンションの最上階を買うた」
「4月から二人で暮らすんや」
「間取りは」
「知らんけど広いん違うか3億もする」
「明日間取り取り寄せてもいい」
「東興不動産販売が売ってるから販売センター行こうや」
「どうせ明日は午前中の掃除だけや」
「飲み会は」
「各セクションでしたらいい、忘年会はきっちりしてる」
「餅代は」
「それは用意してる」
「このマンションはマキへのクリスマスプレゼントや、登記はお前の名前でする」
「無茶苦茶なプレゼントや」
「グランドのマネージャーに無理言って一番奥のテーブル押さえてる、ケーキも頼んだ」
「歩いて行くの」
「タクシーで行く」
「やったー今日イブやから新しい靴はいてきたら足痛いねん」
マキとグランドホテルのバーに行き一番奥の席に着きマキの何時のオーダーにマネージャーは微笑みながら聞いてくれた。
お酒も進みマキがプレゼントをくれた。
「光ちゃん何時もデジタルの安もんの時計してるから時計のプレゼントや」
時計の名前は知らないが薄くて飾り気は無いが美しい時計だった。
私からもプレゼントを渡した。
「綺麗なリングや、蛇みたいにくりくりして高級そうやけど少し可愛い、ありがとう」
マキはブルガリを知らないらしい。
「帰りに北浜のバーに行きたい」
「これ飲み干したら行こ」
歩いて北浜のバーに向かおうとしてマキが歩けないことを思い出しタクシーで向かった。
「ごめんな靴擦れが酷すぎるんや」
5分も掛からず店に付き空いてるカウンターに座った。
「マスター角ハーフロック2杯」
「見てこの腕輪、今日のプレゼントにもろてん」
「隣のカップルの女性が小さい声でブルガリのリングやと彼氏に言っているのが聞こえた」
「すみませんブルガリて高いんですか」
「多分私の年収はすると思います」
「そんな高価なもんを買ってくれてたん」
「去年のもや」
「これもそのブルガリ言うやつ」
隣の女性が「それの方が高価ですよ、横の彼氏はお金持ちですね」
「彼氏やなくて旦那です、結婚してますよ」
「ごめんなさい凄いご主人ですね」女性は男性を少しにらんだような気がした
「彼氏も頑張ってすぐに買ってくれますよ」
「頑張ってね」彼女は優しく彼氏に言った。
「光ちゃんごめんな高い買い物ばかりさせて」
グラスを二つ置いたマスターが
「まだ何か買いはったんですか」
「マキの名義でマンションを買った」
「どこのですか」
「東興と近鉄のJVの梅田の超高層の最上階や」
隣の男性が椅子から飛び降り、スーツの上着を直し
「失礼しました石川課長から連絡を頂いています、明日パンフや図面を届けろとも言われています、東興不動産販売の西上と申します」名刺を出された。
「株式会社光の池中です、明日販売センターに行きますから会社に来なくてもいいですよ」
「近鉄の川上専務からも連絡がありまして、会社にぜひお邪魔させてください、池中社長のプロジェクトの仲介で5億近い手数料も頂いていると聞きました」
「明日大掃除やから。やっぱり行きます」
「石川課長にも川上専務にも電話しておくから」
「ごめんなクリスマスイブを台無しにしてしまった」
「今日は私の奢りやマスター何でも入れてあげて」
「お言葉に甘えさせていただきます」
「堅い堅いうちが広告をするときは優しくしてやってな」
「もちろんです」
「上着脱ぎ、楽にし」
マキは終始笑っていた。
彼らは何もまだ食べていないみたいなのでマスターに無理を言って食べ物も出してもらった。
マキが竹輪に食いついた。
「竹輪とウイスキー合う、マスターが考えたんですか」
「おたくの稲田部長や」
「げーーー志向が一緒になりたない」
「あかんマキと稲田は似た者同士や」
「絶対に違う、あんな乱暴者、昨日もお尻触られたわ」
あいつらしい、コミニケーションを取っているつもりなんだろう。
「あの一つ聞いてもいいですか」
「池中社長のお名前は私でも知っています、このバーに来てることが分かれば問題ですよね」
「そうですね、ここはプライベートで来ている店ですから」
「分かりましたお会いした話はしますが場所は言いません」
「助かります」
「そうやでここで年越してんから、今年は30日に飲み会しましょ」
「厚かましいお願いですが30日に来てもいいですか」
「マスターどうや俺は平気や」
「来てください、食べ物は少しだけでいいですが持参です、この竹輪は去年ここの部長が買って来て合うとわかり店で出してます、簡単なものでいいですよ時間は5時ぐらいから適当に飲んでます、エレベーターが閉まっていたら階段で来てください」
「ありがとうございます」
「今年も稲田は参加するで」
「あれは光ちゃんの付き人や」
「稲田さんて朝霧にいた稲田次長ですか」
「そうですよ、今は光の部長です」
「お世話になったんです、売れなくて腐っている時は必ず飲みに連れて行ってくれました」
「そうなんですか」
「だから俺と飲むときは一文無しなんや」
「30日楽しみにしています」
「マスターフランシスアルバートみんなに」
4杯のフランシスアルバートが出された。
「美味しいですね」彼女が言った。
彼氏も美味しいと言っている、潰れなければいいが。
朝からの大掃除も片付き全員を営業部の部屋に呼び一人ずつに餅代を渡した。
宴会予算は各部署頭数×7000円を代表が受け取り領収書は必ず年明けに提出する事とマキが全員に説明して経理で受け取ってくださいと言って経理に戻って行った。
バラバラに社員が出て行く中、西がそばに来て
「ありがとうございました、来年から全ての広告を西さんにお願いすると言われました、会社のポップまで頼まれました、社長は魔法使いです」
「良かったやんか、電鉄系は稲田部長が馴れてるから話聞いて勉強しいや」
西は涙目になりながらチームのみんなと経理に向かった。
「またなんか魔法を使ったんですか」
「西が担当してる京浜電鉄不動産にうちのホテルの権利を譲渡してやったんと銀行のプロジェクトに推薦して参加OKになったんや」
「何時のまにそこまで」
「昨日やしんどかったわ」
「やっぱり魔法使いや」
「そうやタダシこれ」
「また増えてますよ」
「稲田餅代や」
「ボーナスも多いうえにこれ何ぼ入ってるんや」
「領収書もいらんし嫁さんにもばれん、光の年末恒例の餅代や」
「大事に使う」
「東興不動産販売の西上君知ってるか」
「新入社員の時から知ってる、今課長かチームリーダー違うかなあ」
「昨日一緒に飲んでん、30日のバーも来たいゆうからおいで言うといた」
「何で社長が販売の課長クラスと飲むんや」
「偶然や」
「どこのトップともあまり付き合いせんのに子会社の課長と飲んだって信じられんわ」
「西上、池中社長と飲みましたて東興本体の人に言うたら出世するん違うか」
「そんなあほな事はない」
「悪いマキが待ってるから帰るわ」
「良いお年を」タダシが言った。
「俺は30日に言うわ」
マキと二人で販売センターに行くと石川課長が待っていた。
「何してはるんですか」
「池中社長をお待ちしてたんや」
「辞めてくださいよ」
「モデルルーム案内させるわ」
「西上課長頼むで」
「昨日はありがとうございました」
「知り合いなん」
「いや昨日偶然バーで隣に座り、お話ししていたら池中社長であることが分かり名刺を交換させていただきました、奥様とお二人でした」
「それどこのバーや口割らな虐めるぞ」
「石川さん今度お連れします」
「どこかでかで飲んでるはずや言うてみんな探してるけど捕まらん携帯では逃げられるし」
「お前口割ったら販売から本体に入れたる」
「石川課長、無茶苦茶ですわ」私
「モデルルームは最上階の私たちの部屋がコーディネートされていた。
「高橋課長から電話が来てオプションは近鉄で全部持つて言うてきたけど、うちは家具全部進呈する」
マキが目を見張りながらこのままのレイアウトでいいと言い出した。
「西上販売終了やろ」
「そうです」
「家具も何もかも全て洗いに出し、内覧会の時には全てセッティングを業者にさせてくれ、請求は俺の課でいい」
「悪いですね」
「今年していただい事はこんなんでは返せません」
「来年の光徳も楽しみですね」
「まだ聞いてないんですけどこの部屋何平米あるんですか」
「言うてなかった、270㎡で最上階は1件だけです」
「広いですね」
「固定資産税と管理費が高くて売れなかったんですよ」
「池中社長には最適ですよ」
「何かはめられた感もありますね」
笑いながら「2~3年で5億に化けます、転売してまた新規物件を買ってください」
「高橋さんにもお願いしたんですがプロジェクトチームには当分内緒で」
「全員から買わされそうですもんね」
部屋を見て石川課長と契約日を決め販売センターの外に出た。
「引越したら両親呼んで泊めてもいい」
「好きなようにし」
「あかんみんなに自慢したなった」
「会社ではあまりするなよ」
「それは分ってますけど西を連れてくるのは」
「それぐらいはかまわんけど、おまけはあかんぞ」
「純粋にマキの友達レベルまでにしてくれ」
「了解しました」
「何か食べに行こ昼抜きやからお腹すいたわ」
2人で過ごす2年目のクリスマスは始まったばかりであった。
クリスマスで街は人が溢れ店はどこも満員でローカルな店さえ入れなかった。
「湯豆腐と日本酒で乾杯しよか」
「家か」
「違う面白い店を知ってるねん」
梅田の地下街に入り歩いていると、あそこやとマキが指さした店は立飲みの店であった。
「ここの湯豆腐は美味しんや、学生時代バイトの給料日にみんなと待ち合わせて来ててん」
「それじゃ入ろ」
「湯豆腐二つと熱燗二つにキズシに蛸酢それと串盛下さい」
湯豆腐は半町が入る器に豆腐が入りこぶの効いた出汁の上にまだ削り昆布を乗せ出汁がかけられて出て来た。一味を少しかけて食べると今まで食べたことのない美味しい湯豆腐だった。
「マキこの湯豆腐は最高や」
「そうやろ、光ちゃんは喜ぶと思てた」
何を食べても美味しい、外からでは何も分からないがこんな立飲みもあるんだと感心した。
そこそこ食べて飲んだが二人で4000円もいらなかった。
「ここは今度、稲田と来るわ」
「あいつも多分好きや」
「今日は家帰ろ、何か食べるものを百貨店で買い足そ」
「賛成や、二人の時間が欲しかってん」
阪神の地下でここまで買うかと驚くほど食料品を買い家に戻った。
夕方二人で準備をしテーブルの上の食材に驚きながら飲み始めた。
「今日は最高や、今年の終わりは忘れられへん」
2人でかなり飲んでシャワーを浴び静かに休んだ。翌日は残った食材でマキが朝食を用意し朝からのんびりと食事をした。特に何もすることのない休日は時間も中々進まないが、こののんびり感は久しぶりで体を休めるには最高であった。
30日に北浜の第8スタジオに行くと稲田に西、東興不動産販売の西上に彼女、石川課長がおまけで付いて来ていた。
「池中社長許してください、あの後本体の支社長まで登場し店の名前を言えと脅迫されたんです」
「いいよ石川課長はここの秘密は洩らさないはずですよね」
階段から誰かが上がってきた。
「エレベーターのボタンを押しても電気がつかないので階段で来たよと東興の支社長とダブル専務が入ってきた、何故か何時もより客が多い。
「マスター悪いマキにも手伝わせるから何とかして」
「郷の舎」のお重は何時になく豪華でみんなも目を見張った。
「これどこのかね」と川上専務に聞かれ
「すぐそこに郷の舎(さとのいえ)と言う割烹があり毎年常連に出してくれるんです、来年は皆さんのも用意させますよ」
「それはありがいた、来年の今日だから覚えていられるか」
「1度店にも行きましょう」
ほぼ用意が出来たので「ウイスキーは各自でおつくり下さい」と声かけた。
料理はカウンターに並べられビールとカクテルだけがマスターの仕事になった、稲田や西も手伝い何とか乾杯が出来た。
暗くなった外を見ていた相川専務が
「この車のヘッドライトが流れる景色を見ながら飲むのはいいね」
「私もこの景色を楽しんでいました」川上専務が答えた。
「ずるいね池中社長1番いい店は隠しているんだから」東興の支社長までが言い出した。
「確かにここは我儘を聞いてくれる上、静かで最高の店です、みなさんもプライベートで来てください」釘をさしておいた。
稲田と西はダブル専務に支社長に気を使いあまり飲めないようだ。
「老人があまり若い人の邪魔をしては悪いから3人は消えますよ、すし屋を予約してるんでね」
「良いお年を」みんなが挨拶を交わした。
石川課長が「連れてきたのは俺じゃないで、3人で飲みに行く約束をしていたのは知ってるがここは誘っていない犯人はうちの支社長や」
「いいですよ、みんな楽しんで飲みましょ」
「私本当に緊張しました」西がため息をついた。
「そうやなあまだ少し早いな、あのランクの接待わ」
「西上君も彼女も楽しんで飲みや」
「マキお代わり頼む」
3人が帰った後は寛いで酒を飲む事が出来、モレッジの18年をみんなが気に入り2本も空けてしまった。
帰りにマスターに10万渡して「手打ちやと言うと」
「年明け何時電話くれても店開けますと言ってくれた」
次の日は朝早くから朝食を済ませ高橋課長から帰ってきた車で岡山を目指した。岡山ブルーハイウエーを走りパーキングエリアで昼食を食べ信号のない道を飛ばしてマキの実家に向かった。
マキの実家は岡山の中心地から西に3キロほど行った住宅街で家はハウスメーカーの建物で土地も広く私の車も入れる事が出来た。
「ただいまー」
「お帰り」マキの母親が玄関先に出て来た。
「池中さんも早く中に入って下さい、今日は外寒かったでしょ」
マキの父親は家で一番広い部屋にテーブルを出し私たちの到着を待っていた。
「池中君、道は混んでいなかったかい」
「スムーズに来ました、備前で降りて2号線を走らず岡山ブルーハイウエイを走ってきました」
「どこにも行かないだろ」
「私には予定はないですがマキが何か企んでいたら別です」
台所の方から「何も企んでないから飲みだしてもいいよ」とマキの声が聞こえた。
「母さんビールと簡単な肴を出してくれ」
ビールをマキが運んできた、我家とは違い古風なキリンの大ビンがテーブルに置かれた。
「お父さんね、大ビンを1本とお酒を2号が毎日の日課みたいになってるんや家にはこのサイズしかないんよ」
「大ビンは珍しい、お父さんどうぞ」
「池中君も式の時見た感じでは相当強そうだね」と言いながら私のグラスにも注いでくれた。
「仕事は順調かね」
「昨年度よりも成長しました」
「式の後話せなかったが来賓も仲人も親代わりも凄い人たちが君の周りにいたね」
「ありがたいことです、可愛がられているうちに体力のある会社にします」
「自社ビルもマキに聞いたんだが店子を全て出して自社で全て使うんだって」
「2フロアーで詰め込んでいたんですが人も仕事も増えビルの借り入れも返す事が出来たので全フロアーを使うことにしました」
「たいしたもんだよ」
ビールが無くなる頃にはテーブルの上は夕食の準備が整いマキが日本酒と焼酎などを運び私の横に座った。
「お父さん遊びに来たんだから仕事の話は無しや」
「悪い、悪い、サラリーマンは会社経営なんて考えてもいてなかったから社員を30人も抱えて仕事をする事に凄く興味があってな」
「社員は40人で今年の決算予定は350億の売り上げになる予定で、大阪の中堅企業の仲間入りなんやで」
「それは凄い、マキも忙しくしてるんか」
「忙しいけど幸せや、何時も光ちゃんがそばにいてるし」
「おのろけを聞かされたわ」
「テレビつけてもええか」
「いいよ、マキ大阪弁が強くなったな」
「大阪弁のど真ん中で仕事をして生活をしてるからや」
「マキの大阪弁は漫才師と少し違うね」母さんが聞いた。
「あんな漫才師みたいな大阪弁話す人なんか大阪にはいてない」
「そうなん母さんは大阪には式の時しか行ったことがないから知らんかった」
「そういえば来賓の挨拶にも漫才師の大阪弁は出てこなかったね」
「それも違うねん、大手企業の転勤族やから標準語に近い人が多いねん」
「池中さんは大阪の人でしたよね」
「大阪の阿倍野で生まれてそこで育ちました」
「質問攻めで悪いんですけど学校わ」
「教育大付属高校出身です」
「大学は」
「母さん大学はお父さんが無くなり働かあかんようになって中退したんや、阪大の法学部や」
「聞いたらあかんかったねマキゴメンね」
「気にしないでください、私は高卒で通しています」
「今年の紅白は誰が出るんやろ」お父さんが話を変えれくれた。
「わしは松田聖子ちゃんの歌が聞きたい」
「頭おかしなったんちゃう」
「子供から大人になった聖子ちゃんは可愛いよ」
「あかんはどこかで頭をぶつけてる」マキが呆れていた。
夕食と晩酌を同時に取りお風呂を頂きマキの部屋に行くと荷物が散乱していた。
「どうしてん」
「あれがないねん」
「あれじゃわからん」
「リングが見当らへんねん、家に帰って来た時はしててんから」
「台所ちがうんか」
マキは転げるように階段を下り台所に向かった。
「有った」
2階にまで聞こえてきたので降りていくとマキが笑いながら泣いていた。
「お母さんが汚れたらあかんおもて食器棚に置いてくれててん」
「それテレビで見たことあるよブルガリでしょそんな高価なものをキッチンの上に置いてたらあかんよ」
「家での癖で帰って来たらキッチンで外して手を洗ってから部屋に置くねんけど今日はそのままお酒の用意したから忘れてもた」
「でもお母さんブルガリて知ってるの凄い、私なんか人に言われてビックリしたもん」
ひと騒動が終わり年越しそばを食べる習慣のないマキの家は静かになったが、寝付けなくてマキに睡眠薬をお願いした。
翌朝は郷の舎のお重を出し新年の挨拶を交わした。
「去年頂いたお重よりも豪華なお重ですね」
「今年は景気も少し良くなってきたんで奮発したんですよ」
「買われるんじゃないんですか」
「常連は1つ無料なんです」
「それは凄いサービスですね」
正月らしいと言えば正月らしい話題で朝食を取り4人でお参りに出かけた。
天気も良くマキのご両親が毎年参拝すると言う直ぐ近くの白髪宮に向かった。
石の鳥居をくぐり本殿でお賽銭を入れ手を合わせた。
「何を頼んだん」
「何も頼まん、マキが健康でありますようにとは思ったが頼みはせんかった」
「私も光ちゃんが健康で過ごせますようにと2回念を押して頼んどいた」
「マキチャンは完全に大阪弁やね」
「いや大阪の女の子は私のことを「うち」て呼ぶねん『うちがマキです』とかや」
「うちて、可愛い言い方やね、母さんは好きよその言い方」
「私もそのうちに変わってると思う、たまに出てるもん『そのパンはうちのや』とかな」
「池中さんこんなじゃじゃ馬ですみませんね」
「じゃじゃ馬ちがう元気なだけや」
「今日はどこか行くんか」
「取りあえず同窓会に顔を出さなあかんから昼から会場に送ってもらい3時に迎えに来てもらうねん」
彼女の通っていた高校の生徒の大半は大阪や東京で仕事をする人が多く元旦の1時から毎年集まる会がありもう30年にもなるらしい。
「そんなタクシーみたいなことを旦那さんにさせて」
「いや暇なもんで私が買って出たんですよ」
「すみませんね」
「あれで同窓会行ったらみんなびっくりするわ」
高校の前で何人かと約束をしていたマキがフェラーリで登場したことに同級生たちは驚き、直ぐにマキを取り囲んだので私は逃げた。
迎えに行きマキに手を引っ張られ車から降ろされてクラスの友人に紹介されて少しだけ照れた。
みんなは晴れ着だがマキは洋服で逆にみんなの目を引き質問責めに合ったらしい、兄弟の就職まで頼まれたみたいで来年は考えもんやと言っていた。
3日の朝マキの両親に別れを告げて大阪に戻った、もちろんマキは新居に4月に引っ越すので必ず泊まりに来てくれと約束をさせていた。
帰りは山陽道も阪神高速もそこそこ込み1時間ほど行きよりも時間が掛かり家にたどり着いた。
「今日は外食か」
「私も何も用意が出来ていない助かる」
「どこで何をと言うより、どこが開いているかや」
「グランドホテル稲田我儘コースが1番確実や」
「わかったから行く用意をし」
「光ちゃんはそのままやろ私もこのままで行くええやろ」
「グランドホテルのバーはフェスティバルホールのお客さんも多いからカジュアルの人が多いねん大丈夫やマキは決まってるで、こっちにおいで」
「あほ」
二人でグランドホテルのバーの奥の席に座った。
いつも通りマキは言いたい放題の注文をしマネージャーを笑わせた。
楽しい時間が続き帰るときに煙草を買いに行ったマキがホテルのロビーで絡まれた、3人の若いサラリーマン風の男に手を取られ
「可愛い売春婦や俺らの部屋にも来い」マキは逃げようとしていた。
私は走り出し駆け寄りマキの手を引いた、後ろからマネージャーが池中さん警察を呼んでいますと声が聞こえた。
「お前がこいつを買ったんか、次は俺や、先にさせてくれるか」
マキは男の顔を力いっぱいに叩いた。
男がマキを蹴った、瞬間私は男を殴り倒していた、次の男も殴った最初の男の顔を蹴り血がロビーに飛び散ったがもう一度蹴ったときに警察が来て私は逮捕された。
私が手を出した男達は質の悪い関係の会社、即ちやくざのフロント企業の人間でホテルの証言でマキを蹴り私がマキを守ったことは証明されたが私が殴り倒した二人は東京の弁護士がその晩のうちに彼らを警察から出し入院をさせた。私が警察を出たのは真夜中だった。
「マキもう痛ないか」
「ごめんな酔っぱらいおるのに俺が気が付かんかったのが悪いんや」
「あのボケどもが悪いんや、マキは何も気にしてない」
「あれ東京のやくざなんやろ警察の人が言うてた」
「そんな事は関係ない、早く寝」
マキが休んだ後の明け方に携帯が鳴った。
「東京の馬鹿は許してもらえませんか」
「マキに対する傷害を取り下げると言うことですか」
「違いますよ池中さんの気持ちです」
「2度と顔を大阪で見ることがないなら」
「約束します」
「グランドホテルはバーも喫茶も私達の業界は少ないんですよ、私のミスです」
「私を24時間監視していると」
「違います少しだけです、私はあなたが心配なんです5日アートクラブでお待ちしています」
5日の初出の日マキは会社に行くなときかなかった、東京の弁護士も大阪の警察の話を聞き弁護を降りたことや二人のやくざは東京に逃げるように帰ったことを説明し大丈夫だと言って出勤した。
初出の後に稲田や西と挨拶回りをし、会社には戻らずマキに電話を入れて北浜のバーで待つよう
に伝えアートクラブに行った。
上川はすでに来ていた。
「遅くなりました」
「時間通りですよ」
「ママ、ビールを」
「私もモレッジの18年を入れました、先日いただいて気に入りましたよ」
「解決していただいてありがとうございます」
「あなたには関係ないですよ、大阪には大阪のルールがある。それは神戸も東京も話合いをし、決まりごとがある2人の馬鹿は決まり事を無視し、あなたとあなたの奥さんに手を出した、そしてあなたが守った、それだけですよ」
「東京の弁護士が大阪の警察に電話をしてきました」
「忘れて下さい、あなたの問題じゃなく私達のプライドの問題なんです」
「私は上川さんにやはり助けられた借りを作りました」
「いや前回無理を言ってここでお酒を付き合ってくれたお礼にしときましょう、あなたは誰にも借りはない」
「ありがとうございます」
「しかし池中さん、喧嘩が強い感心しました、若いころにあばれていたのですか」
「人並みに嫌なことは嫌だとは言ってきました、それぐらいですよ」
「大阪にはよく来られるんですか」
「月5日程度です」
「お仕事ですか」
「仕事は1日2日です、後は付き合いです」
「あなたも忙しい身であることは理解できます、私なんかに時間を使っていていいんですか」
「1時間や2時間のプライベートは大事にしないと」
「今日は私の愚痴を一つ聞いて下さい」
「お聞きします」
「東京には大阪であなたがしていることと同じことをしている会社は沢山ありますが、殆どがフロント企業とそこと組んでいる大手出身で独立した不動産屋ばかりです、だから彼らは爪が長くデベロッパーを儲けさせるのではなく自分たちだけが稼ぎ関東系のやくざが肥え太っている、あなたが東京に事務所を出せるなら銀行が土地を出すところも金を出すところも紹介します」
「関東で私にフロントになれと」
「違いますあなたが少しの利益で大手に安い土地を提供すると我々はまともな金額で工事もその他の関係のある仕事も廻ってきます。神戸関係東京関係も含め当然私が全て調整しますす。フロント企業は必要としていません、フロントに仕事をさせても寿命は短い直ぐに警察に潰されます」
「少し考えさせていただけませんか」
「時間はあります、断られても私はあなたに何も迷惑をかけたりはしません、あなたの体が一つで今手一杯に近いことも理解しています」
「次大阪に来るのわ」
「1週間後です」
「お電話ください、この店で話しましょう」
「今日は私が愚痴をこぼしました、ここは私が支払います、奥さんのところに帰ってあげてください、昨日の今日ですから」
「ありがとうございます、失礼させていただきます」
マキの待つ北浜に向かった、上川は大手に流れる土地の建築と近隣対策を一手に抑えようとしているのか、まだ真意が伝わってこない。
エレベーターが開いた。
「マキが飛んできた、何もなかった、心配しててん」
「椅子に座ろ」
「マスター18年をハーフロックで」
「すべて解決した、何の問題もない」
「本当に解決したん、警察も大丈夫なん」
「それより乾杯」
少し飲んできたが上川と飲むと緊張するのかのどが渇く。
「池中さん何かあったんですか」
「ホテルで絡まれて手が出て警察に連れていかれた」
「私が酔っ払いに手を引っ張られてビンタしたら蹴られてん、その瞬間に2人殴り倒したんや」
「相手は」
「東京系のやくざのフロントで少し揉めたけど解決した」
「金か」
「いや違う仲裁人がいて解決や」
「光ちゃん、お腹減った」
「マスター来たばかりやけど勘定して」
「3800円です」
「お前何杯飲んでん」
下を出し4杯と小さく答えた。
郷の舎に歩いて行った。
「光ちゃんのことが心配で次々飲んでもうたんや」
「飲むのはかめへんけど酔っ払いはあかんで」
「はーーーい」
店に入ると「おめでとうさん、今年は週に1度は顔出してやカウンターでええか」
「今日は何があるん」
「鳥の水炊きが美味いで」
「酒とそれを2人前鍋と適当に出して」
冷えた日本酒が体に染み渡った。
突き出しの八寸を2人前とも食べ鳥の刺身もぺろりと食べ鍋が待ち遠しそうな顔でお酒を飲んでいるマキを眺めながら飲んでいると心が解れてきた。
鳥の鍋が出てきたマキの鍋が見るからに大きく量が私の倍はある、ポン酢の入った器に鍋の鳥のしみ込んだ出汁をつぎ足し食べ始めた、マキもそれをまねて食べ始めた。
「光ちゃんポン酢だけっで食べるより鳥のお出汁を入れて食べると最高やな」
マキはお酒お貰い次々に鳥を平らげ私を見上げるので
「食べていいよ」
「愛してるで」と言って全て食べてしまった。
大将が笑いながら横に来て一寸待ちやと言ってカウターの奥に行き少し大きめのお皿に色々な煮しめや魚の燻製のようなものを乗せだしてくれた。
「落ち着いてゆっくり飲み」
「ありがとうございます」
マキは喜び皿の上に並べられたものを見ていた。
「光ちゃん明日から忙しんか」
「俺はそんなに忙しない」
「私は決算を青木さんと準備せなあかんから1月は忙しくなるねん」
「そうか1月末が決算やったなあ」
「今年は不動産取引がすごいけど広告収入も新たに出来たデジタルの収入も多くて大変みたいや青木さんが税理士事務所の女の子を貸してくれて電話していた」
「仕事の件なんやけど東京に事務所出そうと考えてるねん」
「東京は行けへんて言ってたやん」
「今がチャンス違うかなとも思ってるんや、今取引している会社はみんな東京で大きな仕事をしている、それとデジタル事業部も半分移動さす制作部もや」
「いつから」
「明日から準備に入る。まずは会議や」
「会議に入れてな」
「当たり前やマキは大株主で待遇は部長職や会議に出る義務がある」
「私、何時から部長なん」
「明日からや」
「西のチーム東京に出れるかなあ」
「西は行け言うたらどこでも行く、下は家の事情次第違うかな」
「光ちゃんも行くんか」
「当初は月に10日ぐらいは行くつもりや」
「東京で人採用するんか」
「まだや、大阪で採用した奴を送り込む」
「稲田を今は行かす事ができん、タダシを東京支社長として転勤さそかと思てるねん」
「考えもんやねデジタルの担当もしてるけど家のことも聞いたらなあかんのんちゃうんかな」
「明日次第や」
「これうちも食べてええか」
「マキ今うちて言ったで」
「気が付かんかった東京には行けん女になってもうた」
「あほな事言うてやんと食べてみ美味しいで」
東京行きを決めているのは事実だが光徳をどのように進めるかを考えないといけない。
次の日の会議は考えていたよりはスムーズに流れた。
「1月末の決算後タダシは名刺にも役員表記することその時は常務取締役とする稲田は正式に役員登記し名刺に役員表記、マキを管理部部長とする。
今月は何度か東京に行き事務所を探す、東京の支社長にはタダシが行くことデジタル事業部も東京に半分転勤させることを決めた」
誰からも反論はなく全て決まった。
「タダシ時間あるか」
「ありますよ」
「前の喫茶店でコーヒーの飲もか」
「先に出てください、すぐに向かいます」
喫茶店でタダシに今日の会議で問題点はないか聞いてみた。
「特にはないが僕が常務で稲田さんが平取りで大丈夫ですか」
「それは問題ない」
「東京支社開設の件は」
「東京の銀行も荒らしに行くんでしょ」
「ようわかってるやん」
「広告の取れる会社にする、デジタルもや、俺が気にしてるのはお前の家の問題や」
「うちの嫁さんやったら喜びますは、東京生まれで親も都内で元気にしてはる」
「俺お前の嫁さんのことほとんど知らんから」
「聞けへんからですよ」
「聞くのがなんか悪くて」
「そうやろ思てました、そんなことをいちいち聞く人やないしね」
「東京の事務所の広さと場所を考えてくれ、直ぐに10人ぐらい採用せなあかんようになるで」
「大阪より大きくして見せます」
「それと今期あほほど利益でたから株主配当楽しみにしててや」
「それですけど僕お金入れてないんで何時か買わせてください」
「お前の株や何の遠慮がいる今回の株主配当は億近いはずや1千万ぐらいは残しとけ次の増資に買ってもらう」
「それでええんですか」
「それでええんや、お前と二人で作った会社や、その代わり潰れても責任持てないで」
「潰れたらまた二人で1から始めましょ」
「今日からは大阪も大事やけど東京の体制を考えてくれ、西のチームも頭に入れといてな」
喫茶店を出て靭公園で煙草を吸っていると携帯が鳴った
「池中です」
「私です、今大丈夫ですか」
「靭公園で煙草吸うてるだけや」
「会社にダブル専務が来てるんです」
「すぐに戻る」
何かあったかな。
「どうされたんですかお忙しいお二人が」
「忙しいのは君も一緒だと思うが」
「そこそこ忙しいですが今は少し余裕があります」
「その余裕をもらお思てな」
「何ですか」
「東京で月の半分ほど暴れてほしんや」
「先ほどの会議で東京支社を出すことを決めたところです」
「それはよかった」川上さんが初めて口を開いた。
「うちと川上さんところ総合さん、京浜さんが4月売り出しのマンションの仕事を用意してる」
「広告屋が決まってる仕事やないんですか」
「関係ない、君の活動費や思てくれ、石川課長は東京のリーダーで転勤や次長になりはるそうや」相川専務が嬉しそうに言った。
「大阪の新しいリーダーの高橋も次長にした、君も動きやすくなる」
「大阪での光徳と東京での活躍を楽しみにしてるよ」
二人は帰って行った。
話が繋がっている、上川が多分去年から根回ししていたとしたら、グランドの事件も作られたものか、そこまでのフィクサーではないはずである。
今回は上川に先に電話をすることにした。
「池中です、よろしいですか」
「どうされました」
「東京行きを決めました、会社でも発表し体制を今作り上げているところです、デベロッパーの関西のリーダーも次長に出世して東京で私をフォローしていただくおことになりました、お願いがあります今必要面積を出しています事務所を斡旋して下さい。私の会社が東京で仕事をする上で一番良い場所で無茶苦茶な賃料は払えませんが宜しくお願いします」一気にしゃべった。
「分かりましたあなたの覚悟が伝わりました面積が分かれば私達のいないビルを探します」
「では来週お待ちしています」
電話が切れた。
東興に向かった石川課長は直ぐに合ってくれた。
「聞きましたよ東京行き」
「池中さんのおかげで次長になり東京に帰れます」
「東京でも宜しくお願いします」
「あたりまえです私は1月10日付けで東京に行き、体制を先に作っておきます」
「私も同時期に東京に1度入り銀行と会います」
「楽しみですね、光は増々大きくなる、逃がしませんよ」
東興を出た、全て話が繋がるが流れに任すことにした。
会社に帰り稲田を探したが営業に出ていて5時戻りになっていた。営業部に顔を出し稲田が戻ると社長室まで来てくれと言って部屋を出た。
30分ほどで稲田が顔を出した。
「今日の予定は」
「特になしやけど」
「寿司食いに行こ、出れるか」
「5分待ってくれ」
「下で煙草吸うてる」
「マキ後で場所いうから来るか」
「6時には出れると思う」
「稲田とすし屋に行く会社出る前に電話をくれ」
「ラッキー」
下に降り来客打ち合わせテーブルで煙草を吸っていると西が通りがかった。
「社長、私も私のチーム全員東京行きOKです、必ず成果を出します」
「西、頼むで期待してる。東京の男どもをぎゃふんと言わせたれ、仕事は4社から4月売り出しをもろてる、まだ来るで時間がないから引き継ぎも急いでくれ下受けも探さなあかんやろ」
「任してください、東京には同期で広告会社に行ってる人間が何人かいますから今日から準備に入ります」
稲田が下りてきたので「じゃあな」と言って会社を出た。
「ロビーは誰がいてるかわからんから気を付けてくれな」稲田に注意された
タクシーに乗り新地に向かった大きな寿司屋をあえて選びカウンターではなくテーブルを選び後で一人来ると言った。
「今日はどうしたんや」
「平取りで済まんな」
「何言うてんねん、このお化け会社の役員に入社半年でなれるなんて凄いことや感謝してる」
「そう言ってくれると気が楽や」
「生でええやろ、生二つ下さい」
「東京の話な、かなり複雑やねん、仕事はすでに4月売り出しで4件もろてる、東興の石川さんが東京に次長で栄転で光の東京のバックや大阪と同じプロジェクトが始まる。東京にも荒らしが吹き荒れる、他の広告会社はうちのことなんか知らん、気が付いたときは遅いんや」
「何時の間に仕込んだんや」
「上川の話、ダブル専務の話、東興の段取り全てが一つの流れの中にある気がする、その中心の裏に上川が隠れている気がするんや」
「出来すぎやな、でもこの流れを拒否することはできんやろ」
生ビールが来た。
「新年初めての乾杯や」
「美味いは」
「それと西のチームに東京の石川次長の全ての仕事を受けさせる、大阪は直ぐに人の手配や頼むわ」
「この半年で広告会社の順位が大きく変わってる無茶せんでも今の光なら何んぼでも人が来る、たぶん求人出したら個人的に俺に電話が来る。安くてまともな同業者も受け入れる」
「何か頼めや」
適当に二人で肴を頼み飲んでいると携帯が鳴った。
「私ですどこですか、新地寿司屋で写楽や」
「あんなサラリーマンばかりの店に入ってるんですか、直ぐに行きます」
「マキがもうすぐ来よる、大事な話は終わりや、来たらもうちょっとええ店に変わろや」
「俺もそう思う」
マキが来そうな時間で店を出ると元気な声が聞こえた。
「店を替えるんですか」
「ここうるさいんや」
「二人で内緒話をしたかっただけでしょ」
「マキには全部バレバレや」
店を替え違う寿司屋に入った。
「稲田さん久しぶりやんか朝霧やめたらしいな」
「今はこの社長のところで働いてる」
「初めまして光の池中言います、嫁さん同伴です」
「小さい店ですけど宜しくお願いします」
3人でカウンターに座りゆっくりと寿司を楽しみ飲んだがマキは私と稲田を足したよりも食べて大将を驚かせていた。3人でバーに流れた。
「稲田さん店ようさん知ってますね」
「北新地で20年接待してるからな」
「経理で見てても稲田さんそんなに接待費、使てませんやん」
「このお化け会社にいてると、お客さんが酒飲ましてくれる信じれへん事や」
「光は光ちゃんが飲み代を経理に回してくるぐらいしか接待費無いし、西も月に5万円までや」
「だから光は儲かる会社やねん、客が仕事してくれ言うて酒飲ましてくれる」
「光ちゃんの力や」
「マキちゃんさっきから大阪弁と標準語が混ざり変な話し方になってるで」
「稲田さん分かる私昨日光ちゃんの前でうちて言うてもうてん」
「今の大阪弁は良かったで」
「だから東京支社が出来て東京から電話来たら大阪弁はあかんやろ、そうやのに『うち』が出たらあかんやろ」
「マキうちて言うてるとき可愛らしいで」
「おまえらの好き好き漫才はいらん」
「稲田さんこれから稲田取締役て呼ばなあかんねんな」
「マキちゃん揶揄んといてや」
「そう呼ばなあかん」私
「その呼び方に負けんようにする」稲田の背筋が伸びた気がした。
稲田の連れて行ってくれた寿司屋は美味しかった、7人ほどが入れるお店は帰るまで貸し切りだった、店の主人はこれだけ気持ちよく食べる女性は初めてや、また絶対に来てなと言われた。
稲田に別れを告げ家に帰った。
「今日は稲田さんと何の話やったん」
「タダシが常務で稲田が平取りで我慢しろと言っただけや、それと西を東京に行かした後の人事を任せたことや」
「会社大きなるね、光ちゃん1時間でも一緒にいてな」
「だから今日も呼んだんや、一緒におれるやろ」
シャワーを浴び一人でビールを飲んでいるとマキもシャワーを浴びビールを持ちリビングにきた。
「光ちゃん苦しい時は、うちにも話してな絶体やで」
「必ず話す。信じてくれ」
抱きしめて頭をなぜてビールを飲み干し二人で朝まで眠った。
次の日からは東京の人事異動を社内で発表し、山田から預かって社員になった二人と大阪をどうするかの話をし頑張るように尻をたたいた。
石川次長と話をし東京での話を進めた、光徳の明日からの打ち合わせに誰と行くか聞かれた。
「稲田を連れていきます、平取りですが役員にしました」
「彼なら押し出しもあるし、背が高いからね、役員であれば十分でしょう」
「明日から光徳を落とし近日中に東京事務所の予定ビルを見てきます」
「明日の光徳との話し合い後連絡下さい」
午後からはタダシと話、事務所の必要面積を確定し上川に連絡を入れた。
「早かったですね、直ぐに見つけておきます派手なビルは避けますよ」
「結構です、ただ会社のフロアー面積ですがもう少し広くしてください私の必要な面積を忘れていました、すみません」
「分かりました少し広げて探します」
バタバタと面接や引継ぎをする稲田やタダシ、決算で走り回るマキを見ていたが会社を出た。
北浜のバーに行きマスターを肴に飲んでいると携帯が鳴り上川だった。
「今はどちらですか」
「北浜のバーです」
「少し何か食べませんか」
「店を指定下さい直ぐに向かいます」
向かった先は肥後橋で指定された店は拍子抜けする様な普通の居酒屋だった。
いつも通り上川はすでに座っていた。彼の座るテーブルに行き前に座った。
「驚きましたか、ここは美味しんですよ酒も多くの種類があるうえ私のような人種はいないです」
「大丈夫なんですか、あなた方は何時も狙われていると聞きますが」
「そんなことはない、どこかと戦争をしているわけではないボディーガードは些細ないざこざ対策ですよ、何を飲まれますか」
「生ビールを」
「私とは乾杯はされませんよね」
「いや池中と上川さんとの乾杯なら」
「では初めての乾杯を」
ビールのジョッキで乾杯をした。
「私はカワハギが好きで頼んでしまったのですがよかったですか」
言葉の後にカワハギの薄造りが肝醤油も出てきた。
「私も好きな魚です」
「これは事務所のビルの地図と間取りです今見られますか」
「さすがに早い、見せてください」
約80坪の広さの間取りはただの箱だけで壁はなかった、ビルのワンフロワーではなく隣に27坪の部屋があった。場所は八重洲からも歩ける京橋である、銀座にも近いうえ大手企業とのアクセスも良い、12階建てビルの7階であった。
「どうですか」
「場所も広さも十分です、隣の入居企業は」
「いませんよ、そこはあなたが最後に追加されたスペースです」
「分かりましたお借りいたします」
「来週のアートクラブの約束の日、東京に来てください事務所の契約を1時に始め6時にアートクラブでまたお会いしましょう」
「どこに行けば」
「明日不動産屋の場所と担当を伝えます」
「私は顔を出しませんが直ぐ近くでお茶を飲んでいます終わり次第連絡をください」
「分かりました」
「それでは飲みましょう、今日は少しぐらい時間をください」
「今日はそのつもりで来ました聞きたい事ともありますから」
「何ですか」
「私の周りで起こっていること全てにあなたの力を感じる」
「少しはあるでしょうが力は必要ですよ。企業の利益、個人の利益に私が少しだけ力を流し込んだだけです、参加者全ての人の利益が同じ方向を向いたということです、あなたがスケープゴードになったのではありません、私がさせません」
「あなたを信じましょう、このカワハギの刺身は上手いですね」
その夜それ以上は聞かなかった、ただ上川が同じ年で生まれは京都であること大学は私と同じで中退をしている、独身で一人で過ごす時間が好きなのだとか。
「池中さん今日はよく飲みました東京でお会いすることを楽しみにしています」
「必ず行きます」
よく飲んだモレッジの18年を彼はカバンから出して流石にこれはこの店には無いので買ってきましたと言って途中からはハーフロックで18年を飲み何故か楽しくてよく飲んだ。
別れを告げるとき上川は私に自分のライターを差し出し100円ライターは東京ではだめだと上川のライターと100円ライターを交換した。家に帰りマキにちゃんと晩御飯を食べたかと聞くと、天婦羅そばとご飯を食べシャワーを浴び今からビールを飲むところだと言う。私もシャワーを浴びるので寝ないで待ってくれと頼んだ。
「光ちゃん待ってる、今日は3時間も待ってた」
シャワーを浴びマキの横にビールを持っていくとマキはビールの缶を開けずに寝てしまっていた。
一人でビールを飲もうとするとマキは目を覚ました。
「起こしてくれてもいいやん」
「寝顔を見てたら可愛くて見とれてたんや」
マキは怠そうに立ち上がり冷えたビールと取り換えてきて私にもたれてビールを飲み始めた。
「今日は怖い人と会ってたん」
「なんでそう思うんや」
「光ちゃんそんなライター持ってないし使わないもん映画に出てくるやくざが持ってるやつや」
「そうやな俺もこんなライターはやくざかホストぐらいしか持ってないと思う」
「どうしたん」
「グランドホテルの事件を解決してくれた組長にもろた」
「なんで、なんで光ちゃんがやくざと直接会うん」
「経済やくざや俺の知らないところですでに動いていた、たぶんダブル専務や石川さんもこの流れは分かってる、ある意味試されている」
「何を、光ちゃんがやくざになれるかか」
「あほ大きな声を出すな、そうじゃない経済活動のダークサイドに俺がどこまで耐えれるかや」
「犯罪やない、合法の中にも色々な仕事があり大手企業の担当者さえその重荷に耐えられずに会社を辞める人間もいる。これから東京での仕事は心が痛むこともあると思う、それに勝って自分だけが儲ける人間か、その流れを誰もが納得し心を痛めることなく話をまとめることのできる人間か、前者は直ぐに稼ぐ事が出来るが長続きできない、後者は自分を殺し時間をかけて自分の立場と儲ける手段を築き上げる」
「光ちゃんはどっちと見られたん」
「後者や、だから東京の銀行の不良債権の処理だけだったら東京と大阪を行き来するだけで済む、俺は東京に足場を作り銀行の不良債権処理もするが自分の商いで稼ぐことを選んだ、東京に広告の足場を作ることを選んだ事で後者の立場の人間として認められたと思う」
「そうや、光ちゃんは今までも、これからも地に足付けて生きていくんや、うちは地を這って光ちゃんを応援する」
「地を這わんでも応援できる」
「これから東京行くことも多なるんやろ」
「そうなるやろな、泊りの日も出てくる」
「東京に行く日の前の晩は必ず抱いて、これが最後やおもて抱かれる」
「これが最後はない、これが最高や」
「光ちゃんてそんなに上手いんか」
「あほビールとってきて」
心配してくれる気持ちはありがたいし嬉しい、感の鋭いマキに見抜かれたのか俺があまりにも無防備に生きていて全てをあからさまにして人に接しているのか少しは考えてみようと思った。
「ハイビールや」と首に冷えたビールの缶を付けられぎっくり腰になりそうなほど驚いた。
「光ちゃん考え過ぎやからそんなに驚くねん、もっと馬鹿になり」
そうかもしれん、缶ビールのプルトップを引き上げた気持ちのいい音と少しの泡が出てきた。
「今日は寝かしたらへんからな」
訳の分からんことを言うマキが抱き着いてきてビールをこぼしそうになりながら飲み干しベットに行った。
次の日は朝から青木さんに東京の補償金、内装工事代、備品代を借り入れ無しで捻出する事を検討してもらうことと増える人件費や一般経費をタダシと稲田と打ち合わせをして2月からの月次必要売り上げと利益を出し営業の単月最低目標設定を決算で忙しい中に入れ込んでもらった。
「タダシ忘れてた事務所決めてきたからこれが地図と間取りや隣の子部屋は俺の部屋や潰さんといてくれ」
「もう決めて決はったんですか」
「週明けに契約や付いてきてくれ」
「家賃も補償金も大阪と大差ないですけど良く直ぐに見つけられましたね」
「デベロッパー裏ネットワークや多分プロジェクトメンバーは事務所の場所もう知ってる思うで、東京支店2月1日開設のハガキ早めに作り出すために電話やFAX番号早く押さえや」
「相変わらず駆け足ですね」
「まだスローペースや」
「最近コンペ無いから書くことなくて暇でしょ。このデータ見てください最近のネットマーケの参加者のエリア、年齢、性別と趣味や購読新聞とにかくクロス集計もコレポンも重回帰もさせてます、解析の仕方は何でも言ってください、データで管理してますから直ぐです、新しい解析ソフトもありますから後でデジタルに来てください」
又何かきっと企んでる、何かをやろうとしてるのかは見え見えである。
「ネットマーケ登録者のネット販売のデータもあるんか」
「ふ、ふ、ふ、有りますよ」
「変な笑い方をするな」
「少し見破られたかな思て楽しくなったんです、東京でのデジタル第1号案件を考えてます、まだ秘密ですけどね」
「俺にもか」
「そうですまずはデータを見といてください」
タダシとの立ち話を打ち切り稲田を社内で探すが姿がなく予定表も空欄、西もさっきまで席にいらしたんですけどと、言うだけで仕方がないので応接を覗いた後1階に降りてみると二人の若い人と話をしていた、近くに行き後で部屋を覗いてくれと言うと
「紹介します」
「名刺ないで」
「今度でいいです」
「栗田君と赤坂君ですたぶん2月には私の下に来てくれるはずです」
「光の池中です」
初めまして栗田です、赤坂です。
「年次的には西と同じです経験はあります。うちよりも厳しい代理店出身です口説くのに時間が掛かりましたが、今うれしい返事を持ってきてくれました」
「そうなんや稲田取締役が見込んだ人や頑張ってください私は大歓迎です」
「感動しましたあの噂の池中社長にこんなに早くお会いできるなんて」
二人は私に会えたこと以上に自分の上司に当たる人間が役員になっていることが嬉しそうであった、私は二人に挨拶し3階に上がった。30分ほどして稲田が部屋に入って来た。
「なんや」
「光徳銀行との初物件受け渡しが決まった同行頼むで」
「何時や」
「金曜の3時に堺筋本町を少し下ったとこにある本店や」
「支店の頭飛ばしでか」
「そんだけ困ってる言うことや、沢山出てくるで、欲しい土地有れば稲田も買ったらええねん東興の子会社が全て段取りしてくれる家建てるならチャンスやで」
「家かマンション買うたばかりやもんな」
ぶつぶつ言いながら部屋を出て行った。
内線でマキを呼んだ。
「ハイなんでしょう」
「この部屋暗くて狭いんや、お客さんも増えると座ることも出けへんねん」
「少し広い部屋を調達してくれへんか」
「4階はまだすべて開いています、4階からは向かいに建物ないし窓も大きいです、ここの3倍ぐらい取って今の形の社長室と横に10人ほどが座れる応接を作ります家具も含めて10日ほど時間下さい」
「頼む、全て任せるがこの応接セットは営業部にでもやってくれ何かに使うやろ」
「そうそうに業者を呼んで進めます」
「今日の予定は」
「5時以降なにもない」
「すき焼き食べません」
「家でか」
「すき焼き鍋はまだないんです」
「分かったマキの探した店に行こ、どのへんや」
「ミナミ、三寺です」
「熱帯魚で待ってる」
「早く行きます」
「店の近くから電話してくれ、直ぐに店を出る」
ニコニコしながらマキが部屋を出て行った、時間を見ると既に4時を少し回っていた。
心斎橋筋の新しくできた本屋にでも顔を出すか会社を出た。
新しい本屋はアメリカ村に対抗して名付けられたヨーロッパ通りと心斎橋筋とが交差する信号のある交差点の北西の角にあった、1階は雑誌が中心で心斎橋筋を通る若者を対称にしているんだろう若い人で通り抜けるスペースもないほど溢れていた、2階は新刊の小説と売れ筋の小説が中心で年齢も性別もバラバラだが多くの人が入っていた、3階は小説と専門書が中心だが専門書の多くは建築関係であった、私は興味を惹かれる本もなく小説を読まないので喫茶店にでも行ってタバコでも吸ってバーが開くまでの時間をつぶそうと『まほろば』まで歩きレモンティーを頼み煙草に火をつけた。
昨日もらったライターは頭部分が全体の15%ほどの蓋を開けるとピーンと綺麗な音が鳴り横にあるゴールドで縦筋の付いた円柱を回すと火が付き煙草に火をつけた、蓋を閉めるときにも綺麗な音がした。私がこのライターを使うのを見ていた女性がいた、気にしてはいなかったが本屋にもいたのではないか、そんな訳はない考えすぎだ。煙草を2本ほど吸い時計を見ると5時を回っていたのでバーに向かった。
「すみませんまだ用意できてないんですよ」振り返り私だとわかると。
「池中さんやん座ってビールでいいか」
「悪いな早く来てビールで」
「こんなに早くどうしたん、若い嫁さんに逃げられてんやったら、慰めたるよ」
「逃げられてないし慰めてもらわんでも、まにあってる」
ビールがカウンターに出された。3分の1ほどを一気に飲み煙草に火をつけると。
「デュポンやん、やくざライターなんかどうしたん」
「これデュポン言うんか」
「別名がやくざライターや」
「昨日やくざにもうた、100円ライターはあかん言うて交換した」
「そのまま当たりやんか、池中さんやくざ何かと付き合うてるんか」
「付合うてない、仕事絡みや」
「やめときや、あいつらは最初だけや」
「ママもなんかあったんか」ビールを飲み干した。18年でハーフロックを作りながら
「友達が最初やくざやと知らずに付き合い部屋に転がり込んで来てからは殴るけるでクラブ勤め最後は風呂に売られて5年も借金返すために体を売ってたんや、その屑は借金終わるとまた違う風呂に売ろうとして友達に刺されて死によった5年刑務所行って一度だけ店に顔出したけど連絡はない、やくざは嫌いや」
「俺も嫌いや」
携帯が鳴った。
「今『まほろば』のそばまで来てる」
「直ぐに出る」
「ごめん勘定して」
「めんどくさいから次一緒にして」
「悪いな、忘れんようにする」
道に出るとマキは交差点まで来ていた。
「早やかったやろ。青木さんが今日は終わりや明日からの地獄に体力付けてこい言うてくれて終了したんや」
「三寺のどのへんや」
「これ地図のコピーや」
「清水町がここやから直ぐそこや」
すき焼き屋は古い門構えで和風建築、古い建物が歴史を感じさせる店で中に入ると着物を着た女の人がご予約ですかと聞かれた。
「株式会社光の池中です」
「はい伺っております、御2階の部屋になりますがこちらです」部屋に案内された。
テーブルの前に胡坐をかくとおしぼりが渡され
「お飲み物は」
「生でええよな、生二つお願いします」
「銘柄はアサヒお願いします」
「アサヒの生はスーパードライになりますが」
「それでお願いします」
すき焼きを待つ前に突き出しが数種類出てきてビールが進んだ。仲居さんが肉や野菜を運び込み最後に鍋が運び込まれ仲居さんが肉を焼きだした。焼いた肉に割り下をかけた肉を卵で研いだ器に入れてくれ次ぎ次鍋に肉や野菜を入れ、ごゆっくりと言って部屋を出て行った。5分すると肉と野菜がさらに運ばれてきた。
「マキ何人分で予約を入れた」
「3人分やからそんなにないよ」
冷やした日本酒と焼酎を追加した。めんどくさいので仲居さんがお酒を食んできたときに焼酎のダブルロックを2杯追加した。
「光ちゃんも何人前も一度に頼むやん」
「お酒と肉は違うと思うが」
「お酒のめへん人が見たら同じや」
「屁理屈いらんねん」
マキは残さずに綺麗に食べた、マキの提案で北浜のバーに行く事にしタクシーに乗る前に100円ライターを買った。
「マスター角ハーフロック」
「うちもお願いします」
「マスター、マキ今すき焼き2人前食べて苦しいんや」
「マキちゃんまた大食いしたんか」
「昨日の夜頑張りすぎたからや」
「あほなこと言うな」
カウンターにグラスが二つ置かれた。
焼酎が高級品で芋臭さもなく癖もない何飲んだかわからん酒で口直しに角を二口で飲み18年を頼んだ、何時もなら私より早く飲み私が頼むのを待っているマキのグラスにはまだ半分ほど酒が残っていた。
「すき焼きはお腹の中で膨らむんや」
「どの具材が膨らむん、マキちゃん」マスターが聞いた。
「ふうや、きっとあれが膨らんで苦しいんや」
「違う最後のうどん1人前でええいうのに2人前頼んで全部一人で食べたからや」
マスターが声を出して笑った。
エレベーターが開き新しいお客さんが来たようである。
いきなり肩を軽く叩かれた、振り向くと石川さんと高橋さんが立っていた。
「楽しそうな笑い声が聞こえてきてね」
「どうぞカウンターがサイコーの席ですよ」
二人はマキにもこんばんわと軽くあいさつしマキとは反対側の私の横に座った。
「池中さんそれは」石川さんに聞かれた。
「年末の18年です」
「マスター私も18年同じ飲み方で」
「私も同じで」
グラスが二つテーブルに置かれ4人でもう1度乾杯をした。
「お二人で何かあったんですか」
「いや二人で飲んでいて池中さんの顔が見たくなってここにいれば少しだけお話をして、いなければ携帯を鳴らすような無粋なことはせず新地に流れようと」
高橋さんが石川さんを見ながら言った。
「マキちゃん、あんまりお邪魔せえいへんから」石川さんがフォローした。
マキは笑顔で邪魔してください、今ピンチなんです。
「食べ過ぎでダウンしてるんです」
二人は少し笑った。
「石川さんが東京に行き池中さんも東京が増える、稲田さんを光徳に最初から入れて欲しいんです」
「そのつもりで広告営業を光徳案件中心にするようにとシフトさせてますし、銀行員に対する少しだけの見栄ですけども取締役にしました」
「やっぱり池中さんは私らが気付いたことは必ず先にしてる大したもんです」
「東京事務所も決めました」
「どこにしたん」
「京橋です」
「便利な所やし、広告屋さんの溜まり場や」
「隠れ蓑も予定しています、銀行も皆さんも来やすくなるように27坪ほどのミーティングルームも用意します。私は東京の人は誰も知りません石川次長頼みますね」
「池中さん光徳終わらせたら俺も東京に行かなあかんみたいや」高橋
「結局メンバー全員東京になるンちがいます」
「そんな感じで上は話してるみたいや、外部に漏れるのを最小限にしたいからね」
「関西は光徳の後は池中さんところに色んな銀行が押し掛けますわ、情報が漏れない大手に必ず繋がる、やくざは絡んでない、最高条件や」
「頼みますよ、大阪も」
「努力します」
「東京は土地が高い上にストップしているプロジェクトは大きいのが多い、対銀行戦略がいるよ」
「すでに始めてます、ダブル専務の推薦もいただいてます」
「安心しました、池中さん新地に流れます」
二人は私が支払うと言うのを断り私達の分まで支払っていった。
「池中さんデベロッパーの次長クラスが追いかけてきて金払って帰るなんてこの店では初めてのことですよ、どんな悪い事してるんですか」
「うちの光ちゃんは悪い事してない人気があるんや」
「マキちゃん復活したか」
「うん、マスターうちも18年で」
「マキちゃん完全にうちになってるな」
「光ちゃんがうちて言うマキが可愛いて言うてくれてん」
「ごちそうさん」
私のグラスを確認してマスターは新しいグラスを二つ出してきた。
「マスター最近目つきの悪いやつ来んかった、女もありや」
「まだ年明けて3日しか店開けてないけど今日別嬪さんが来てたわ」
「フランシスアルバートを1杯のんでデュポンのライターで煙草に火を付けてた、やくざの情婦みたいな感じやないねんけど素人やないと思う、それぐらいかな」
「光ちゃんどうしたん」
「警察か税務署に狙われてるん、ちがうか思てんねん」
「多分決算終わったら消えるは、脱税はせんし違法行為もせん」
本屋とまほろばは偶然じゃない、その上にデュポンやこれはこのライターに気を付けろと言われたのかもしれない、やくざじゃなければ国税、、、違う何か別の組織か機関、銀行を追いかけてる奴らか大蔵省銀行局が使える手は国税局これが当たりな気がする、上川と話し合う必要がある。ご機嫌なマキを連れて家に帰り二人でシャワーを浴び少しだけビールを飲んで休んだ。
光徳との第1回の打ち合わせは本店の専務の部屋で行われた、資料は難波銀行よりも整理されていて持ち出しは禁止だが時間をかけスキャナーで取り込まれデータ処理がされていて箱を持ち出す等のやばい作業はなかった。
「池中さんこれからはバイク便で直接会社にお送りします、こちらに来られるときは稲田さん御一人でお願いします銀行局が動き出し、和歌山で第1号の銀行の業務停止が出ました当行も急ぎますプロジェクトも急がせてください」
「忘れていたこの書類は会社でお読みください」
稲田の鞄にMOを1枚入れて帰った。
会社に帰りプリントアウトをデジタル事業部に頼んだところA4サイズをA3サイズに拡大しA3に4枚の資料が張られていて苦労しました全部でA3で200枚ありました。
「このデータメールで送れるか」
「一晩掛かりますし先方が受けきれるかです」
高橋さんに電話を入れ事情を説明すると。
「今からうちのデジタルオタクとそちらに行かせてもらう」
「直接8階に来てください」
10分もかからず高橋次長が当社に来た。
「銀行が大分ビビりが入りこのMOにデータで渡され出力したものがこれです」
「これは凄いな銀行の規模が大きくなると出てくる不良債権の額が違う」
「これ持ってうろうろしていいものかと」
「どうする高木」
「私のパソコンに今5分割して送りましたそれと個々の会社には1度に5枚のMOにデータ移動さす機材がヒカリさんにあるので借りて10枚作ります、今日中に帰りバイク便で各社に送ります次長は電話お願いします」
「そういうことや今度からは今の段取りで行こうや」
「このペーパーは君用ということで私は手ぶらで帰るし高木は来た時と鞄の中身はそれほど変わらん大丈夫や、銀行さんも大変や」
「会議は土曜の昼から飯屋押さえる勉強会名目で予約をして全て手配した、池中さんにはメールで店の場所を入れとくわ」
高橋次長は帰って行った。
「稲田、今の手順見てたやろ次からは頼むで、バイク便もうちから送れば目立たん」
「俺は悪いことしてるんか」
「違うんや、俺らは何も悪いことしてないけど銀行の不良債権の飛ばしに絡んでる、俺らは頼まれて買うだけや」
「見つかっても正直に話すだけや、ただ俺らが欲しい物が手に入らんようになるだけや、時間稼いで多くの物件を銀行から引き出すんや、頼むで、社内でも幹部以外には話したらあかんで」
東京の不動産会社に朝から新幹線でタダシと向かった。新聞2紙を新大阪で買い指定席に乗り込むと「社長だけでもグリーに乗りはったらいいのに」
「お前が一緒なら乗る言うたやろ」
「帰りは羽田ですね」
「そうや、羽田から伊丹や」
「移動がめんどくさいねんけど大阪でも約束がある」
東京駅八重洲口前のタクシー乗り場は混雑していた10分ほどでタクシーに乗り込み行き先を伝えた。不動産屋は大きな店舗で担当を呼ぶと直ぐに応接に通された。
「事務所一つで待遇がいいですね」
「お待ちしていました担当の木下です、お話は上川さんから聞いています」
「契約に際し本日朝1に補償金、手数料、日割り家賃と来月分を振り込んでいます確認をしてください」
「確認はすでにしております」
「見学はどうされますか」
「結構です」
「では契約を進めます」
「これが私の宅地建物主任の証です確認ください、重要事項を読み上げます、お送りいただいている契約書に印鑑をお願いいたします、印鑑証明1通はお持ちですか」
タダシが差し出した。契約が終了しカギを3セットとカードキーを受け取った、カギはワンフロアーであるためエレベーターの開閉を最後のものが1階で制御できるようになっている朝も同じで1番に来たものがカギを開けるとエレベーターのボタンが反応するカードキーは事務所のカギで追加は1枚3000円らしいタダシがコピーを作るのでこれは金庫にしまいますと言っていた。
タダシは後から来るデジタルの責任者と西と待ち合わせをしていてビルを見に行く、私は羽田から飛行機でトンボ帰りをする。不動産屋は上川さんのご紹介と言っていた東京では完全にやくざのはずだが今の不動産屋もフロント企業なのか。
羽田に向かうタクシーの中で携帯が鳴った上川からの電話で今日の夜の確認であった、契約のお礼も言っておいた。羽田で軽くサンドイッチを食べ遅い昼食を済ませて搭乗した。
伊丹からはバスで梅田に出てタクシーで会社に戻った。
「マキがすぐに内線を入れてきた、お帰りなさい、急ぎなんです。高橋次長が連絡欲しいそうです」
高橋次長に電話を入れた。
「池中さん、今回の不良債権は関西一円の案件があり整理段階でよだれが出た、ただ1回の決済100億以上になることは間違いない、大阪湾銀行押さえておいてください、それと今週の土曜の食事会の時間と場所メール入れてますから見ておいてください」
「私は何をお持ちすれば」
「ゴルフクラブでも、お気軽に来てください」電話が切れた。
「内線でマキを呼んだ」
「社内ラブはあかんで」また訳の分からんことを言っている。
「4階の手配は」
「すべて手配済みです、土曜から工事に入ります」
「2階はどうするん」
「2階は経理部、財務部と戦略会議室と銀行用の応接を作ります、社長は当分営業部の隅です」
「10日ほどですから実質出張の日と土日が2回入りますから4日だけです」
「ありがとう楽しみにしてるは」
「今日は」
「今日は6時に人に会わないかん、もう会社を出る」
「残念、帰る前に電話くださいね」
「架けるよ」
アートクラブに上川の姿はなかった。
ビールを飲んでいたら5分ほどで来た。
「済みません、ここまで空港からの高速が混むとは思いませんでした」
「なにを飲まれますか」上客と意識しているママが飛んできた。
「私にもビールをそれと18年の用意を」
「あの高速は夕方にかけて異常に混むんで私達は新御堂まで中間を走り、新御堂で下ります」
「次からはそうします」
乾杯グラスを重ねた。
「契約も、上手いきビルを見に行った者からは、いいビルだと連絡がありましたありがとうございました」
「池中さん驚いたんではありませんか私が紹介者として名前が出たので」
「そうですねフロントかと思いましたがきっと担当者は上川さんには会ったことがなく別の紹介者がもう一人いるんじゃないかと」
「さすが正解です、あなたをフロントの不動産屋に行かせませんよ」
「デュポンは国税ですね」
「それも見破りましたか、彼らはあなたを狙っているんじゃない、今のところは的外れです、あなたの異常といえる不動産取引に目をつけてある都市銀行の飛ばしを繋ぎ廻っているが時間の問題で消えますよ、光徳もデータに切り替えたでしょ」
「何もかも知っているんですね」
「違います国税に諦めさすためにある議員を使い銀行にデータを使えと連絡させたんです」
「国税はうちの別の団体が狙われてます、それで知りました」
「デュポンの女性は、あなた方の世界の人とかと思いましたが直ぐにライターのおかげで理解できました」
「私はあなたをこちらに引き入れることはない安心してください」
「ビール空きましたね18年はハーフロックでしたよね」ママがお酒を入れに来た。
二人の前のグラスとナッツが出された。
「今日は、また行きたい店があるんです。ただ西成なので遠くからですがボディガードが付きます移動はタクシーですから二人です」
お酒を飲み干し店を出た。
二人でタクシーに乗り込むと西成の地下鉄岸里に行ってください駅を超えて歩道橋のところで降ります。二人で歩道橋を渡り千本通り商店街に入り30メートルほど歩いたところに有る、お好み焼き屋に入った、カウンターとテーブル席があるそこそこのお好み焼き屋さんであった。
「上川さん久しぶり、今日はお友達と」
「そうなんです無理を言って連れてきました、ここの料理を食べると彼も常連になりますよ」
「ウイスキーですか」
「先日お持ちしたので同じ飲み方です彼に教えてもらいました、食事はしていませんお任せします」
「どうして京都ご出身の上川さんがこの店を」
「私がもっと若いころに仲の良かった奴がここが好きでよく来たんですよ」
「彼は今ここのママの旦那として頑張っていますよ」
「堅気さんですか」
「時間は、かかりましたが堅気になりました」
「店には出ないのですか」
「仕込み関係をすべてして夜はテレビを見ながら子供と遊んでいるらしいです、彼は私には会いません、私も彼には会いません、それで良いんだと思います」
グラスにお酒が入っていた。
「ありがとう」上川が女将に言った。
豚平に始まり鉄板料理が色々出た、お酒も進み雑多な話をした。
9時を回ったところで出ましょうと言われ席を立った。
支払いは上川に任せた
「多いです何時も無茶苦茶です」
「取っておいてください、次に来れる保証はない」
店の前に立っていると見た事のある大男が少し離れたところに立っていた反対側にも立っていたたぶん4人はいるんだろう。上川が出てきた、もう1件付合ってください。
26号線からタクシーを拾い向かったのはミナミというか難波であった。店は若い人が入りそうなバーで若いサラリーマンやOLが飲んでいた。カウンターの空いている席に座りお酒を頼んだ。
「ここも我々とは違う世界です、私も多分池中さんも浮いていますよ」
「そうかもしれないが絡まれる事は無い」
酒が出された。
「あのお好み焼き屋マキさんと1度行ってやってください」
「マキが好きなんで来週にでも行きますよ」
「そろそろ本題に移ります」
「今からいうことはメモに書かないでください。私の目的は今付き合っている中堅ゼネコン難波建築工業を大阪2部上場から東京の1部上場にすることです、これから仕事を多くとらせます、人材も揃えます池中さんには迷惑はかけません。東京は私の紹介する銀行からも土地を出させます大手デベロッパーに流してください借り入れを受けていただける銀行も紹介します」
「想像していた事に近いです、頑張りますが体は一つです大阪では大型ホテルをすでに決めています」
「3年ほどでメイン看板を取るゼネコンにします、大阪では石川さんも応援していただきました、東京でもお願いしています。でも全てのキーマンは池中さんです、東京ではあなたには分からないようにボディーガードを付けます必要です」
「私に必要ですか」
「あなたの大阪での動きは我々の業界では有名です、ただ大阪本社の2社の専務が神戸の上と話を付けていた、誰も手を出しませんよ」
「しかしやくざと揉めました」
「あんなのはチンピラで上のお達しも聞こえないランクのやくざです」
「東京はあなたを待っているバブルの夢をまた見れるかもしれないと、私が多くの組織に話をつけていますが抜け出す馬鹿は多いんです、金だけのやくざなら頭を使えばいいんですが頭が悪くて根性もない直ぐに素人に絡む最低なやくざが多いんですよ」
「分かりましたお願いいたします」
「渋いおっさんが二人でひそひそ話して気持ち悪いんやけど」
3人ほどの酔っぱらった20代の男たちが絡んできた。上川は無視をした、
「おっさん」と次に言った瞬間5人のスーツを着たプロレスラーの様な男達が壁を作り上川と私を守る体制を作り何か言った。何を言ったのか分からないが20代の男たちは静かになった。
「帰りましょう」財布を出し一人のボディーガードに渡し支払っておけと言って外に出た。
「今のは酔っ払いに絡まれただけで何も問題はありませんがやくざが来たのであれば面倒くさいですよ」
「東京には早ければ1月の終わりに行き銀行に接触したいと考えています」
「それまでに1度お越しください、東京を案内いたします」
「分かりました中旬にお伺いいたします」
彼は数人の男たちとネオンの向こうに歩いて行った。時計は11時を回っていたマキに電話を入れ家に向かった。
家ではマキが遅い夕食を食べていた。
「今日、凄く忙しくてうちもさっき帰って来てシャワー浴びて今夕ご飯なんや」
「俺もシャワーを浴びて来る」
シャワーの後ビールを取りマキの横に座るとマキは自分の夕食を片付けウイスキーのセットを持って戻って来た。
「少しだけ付き合って」
「朝まででも付き合うよ」
「そうか明日は休みか、今日な西成のお好み焼き屋さんに行って来てん、すごく美味しかったマキ今度二人で行けへんか」
「明日行こ」
「2日続けてお好み焼きは勘弁や」
「大阪の人は1週間続けて、お好み焼きと蛸焼は平気やて誰か言うてた」
「分かった明日行ってみよ」
「何食べたん」
「豚平焼き、牡蠣の鉄板焼き、ミックス野菜炒め」
「お好み焼き食べてないやん」
「店の人が3分の1ほどの豚玉出してくれてすごく美味しかった」
「お腹空いてきた」
「あほな今食べたばっかりや」
「心が食べたいて言うてるんや」
「あほなこと言うてんとウイスキー入れてくれ」
「明日土曜日やから北浜のバーも開いてるし、最高のお休みや、携帯の電源落としや」
「それは出来ん、分かってるやろ」
「明日のスケジュールを稲田さんが聞いて来たから危険やねん」
「稲田の用事は察しが付く電話か喫茶店で終わらせる事や」
「それなら安心や」
「光ちゃんが東京に取られたらうちも転勤するから」
「人事異動の辞令を自分で出すんか」
「稲田さんに出してもらう」
「そうか、あいつは役員で人事権あるけど営業とタダシが置いて行くデジタル事業部だけにしか人事権はない、お前の人事権は俺にしかないんや」
「それなら光ちゃんが辞令出して」
「俺は東京では1泊2日以上はする気がない、出来る限り日帰りや」
「約束やで2泊3日は付いて行くから」本当に付いて気そうな気がした。
「今日のお客さんは東京の危ない人やろ」
「そうや、大阪では多分会う事は無くなった」
「東京で会うの」
「友達として合うかもしれんけど多分仕事で会う事はない」
「友達になったん、信じれんわ」
「名前覚えとけよ上川や、長い付き合いになりそうや」
「何でうちが名前を覚えとくん」
「覚えておけば良い事が有るかも知れないし、助けてくれる事も無きにしも非ずや」
「光ちゃんが言うやから信じて覚えとく」
移動の疲れが出て睡魔に襲われまだ飲むと言うマキを引きずりベットに行った記憶だけで次の日は目が覚めた。
「光ちゃん、お仕置きやで昨日ベッドに連れて行ってマキに抱き付いた瞬間に寝てもうたやろ」
「すまん疲れてたんや」
「でも嬉しかったで、光ちゃんが初めて朝までマキに抱きついて寝てくれた」
朝ごはんを食べた時に稲田から電話が入った。
「光徳の資金繰りやろ」
「人が話す前に俺の質問を話すな」
「昨日高橋さんからも電話があったから資金の話かと思たんや」
「銀行には手を打った、稲田の思うようにJVであろうが単発であろうが何一つ逃しなや」
「分かってるけど凄い作業や」
「光が抱く期間は最短や頼むで」
「全力で取り組む、休みに電話して悪かった、ゆっくりしてくれ」
稲田は電話を切った。
「出て行かなあかんの」
「話は終了や、どこにも行かん」
「お好み焼き屋は昼ご飯にしよ」
「光ちゃん夜はゆっくり飲まれへんやろ」
「お昼お酒なしにして赤いので行こ」
「西成にあれで行くのは無茶や」
「忘れてた」
「うち西成に行ったことない、初めてや」
「俺は隣の阿倍野に住んでたからよう知ってる」
「怖いとこなん」
「普通の下町や、テレビで報道してるアイリン地区何かは極端な話や」
「それはそうと家の引っ越しの家具は考えてるんか」
「リビングや応接、カーテン、敷物は近鉄さんやし何がいる」
「お母さんらが泊まりに来るときのベッドや衣装ケースなんかもいるし細かいもんも新しくしたらどうや」
「中身そのままで外を双替えするんか」
「それでもええよ」
「このテレビは来客用の部屋に置こ」
「贅沢や」
「ただなモデルルームは現実の半分だけやったから図面見てみ倍有るんやで」
図面集とパンフレットを出してきたマキは声をだした。
「部屋4つもあるやん、お風呂も2か所トイレも2か所ある、図面集を見るの忘れてたわ」
「そうやろと思た、カーテンはあと2部屋分要るし、その部屋をどのようにコーディネイトしとくかも考えなあかん」
「二人に4部屋は多いんちゃうのん」
「もう契約済みや、手遅れや」
「あと2つの部屋にもキングサイズのベッド入れて気分を変えてHする」
「何を考えてるんや、一部屋はお前の個人部屋、もう一つは俺の書斎にする」
「光ちゃん、ずるいちゃんと考えてるやん」
「だからお前の部屋の必要なドレッサーや俺の書斎用の机や本棚を買わなあかんやろ」
「今から堀江に見に行こ」
「図面集だけは持っていかなサイズ分からんようになるで」
「30分で用意するから」
マキと堀江の家具屋を回り家具があまりにも古いタイプが多く、最後の店で無ければ大丸かそごうに行くと決めていたが最後の店で若い店員さんが自分のオリジナルデザインを話す姿勢と1点物のベッドやテーブルそして机に目が留まり見ているとマキも先ほどとは違い熱心に話を聞いていた。マキが食いついた。
「これ部屋の図面で半分は決まってるんですけど残り半分の家具を探してるんです」
「期限は何時までですか」
「3月の末には入居するのでそれまでにお願いしたいんです」
「しかし大きな部屋のマンションですね」
「超高層の最上階で1件だけ何です」
「私にチャレンジさせていただけませんか」
「光ちゃんお願いしてもいい」
「マキがしたいなら任せるよ」
「これね、会社の名刺なんですが、デザイン画は見せてくれますよね」
「主人のも渡しておきますけど連絡は私にしてください」
「10日でデザインを仕上げお持ちいたします、御予算は」
「良ければ金額に関係なく全て買い取る」
「トイレ、バスルームまで全てデザインしてお持ちいたします」
「お願いいたします」
「光ちゃん決まって良かったね、お好み焼き行こ」
2人でタクシーに乗り岸里のお好み焼屋に向かった、外は少し曇り寒い土曜日の午後の始まりであった。
「綺麗な店やん」
「中も綺麗で早く入ろ、寒いわ」
店に入ると女将さんが昨日のお客さんですよねと聞かれた。
「嫁さんに話したらどうしても連れて行けと言われまして」
「どうぞどうぞお好きなところにお座りください」
「光ちゃんうちカウンターがいい」
2人でカウンターに座り生ビールを頼み乾杯をしたがマキはメニューから目が離せずにいた。
「ミックスの焼きそばに、豚平焼き、ミックスのモダンに豚のネギ焼きにエビ入りチジミをまずは下さい」
「大丈夫ですか」
「大丈夫だと思いますよ、多分追加もしますよ」
マキは生ビールを飲みながら次から次に鉄板の上に広げられる具材を見ながら出来上がるまでの工程を楽しんでいた。
「いただきます」
マキの怒涛の快進撃が始まった。私は生ビールをお代わりしマキの食べる5分の1のスピードで食べていた。
「あと何が出ますか」
「後はチジミだけです」
「それじゃミックスの野菜炒めと生ビールお代わりください」
「すいません豚平焼きも、もう一度食べます」
「私は見ているだけで十分で冷酒をもらい漬物盛り合わせを頼んだ」
「私も冷酒を下さい」
お好み焼き屋で1万円以上を使ったのはこれが初めてというか良くもこれだけ胃に入るもんだと感心した。
「凄い食べぷりですね」
「何時もですよ」
「昨日の上川さんと同じご職業ですか」
「全然違います、彼は友人として付き合っています、私は堅気です」
「すみません、また何時でも来てください」
マキの手を引き立ち上がらせて店を出た。
曇り空から少しだけ雪がちらつき26号線を走る車の景色が美しく見えた。タクシーで上六に帰り食べ過ぎで転がっているマキをそのままにし、一人で缶ビールを持ち外の雪景色を見ていた。
「光ちゃんうちにもビールを下さい」
何とか座り込んだマキにプルトップを開けたビールを手渡した。
「光ちゃん雪景色が好きなん」
「そんなに見れない景色だから」
「大阪は雪があまり降れへんもんな」
「美味しかったやろ」
「次は1品減らすわ」
「2品減らせ」
「あかん1品だけや、その代わり光ちゃんもしっかり食べて」
夕方までリビングでゴロゴロし元気になったマキを連れて北浜に向かった。
北浜ではマスターとマキと3人の時間が続きマキがお腹が空いたで切り上げて食事に出た。
「今日の1日分のカロリーは十分取ってるやろ」
「カロリーは関係ないんや胃と頭が何かを食べたいと私を奮い立たすんや」
「俺はあっさりした物がええねんけど」
「鶴橋のお寿司に行こ」
「まあええか」
鶴橋の何時ものお寿司屋でお腹を満たしたマキと千日前通を歩いて家に帰った。
社長室の完成とマンションのデザインのプレゼンがほぼ同時期で新しい社長室でマキと二人で彼が書いてきたデザイン画を見た。
「これで決まりや」
「マキが良ければ俺は問題ないよ」
「ありがとうございます、申し訳ないのですが半金だけでもいただけないでしょうか」
「材料の仕入れか」
「そうなんです、売れれば新しいものを作るのパターンで経営と言うか何とか店を続けているので」
「マキ後でお金卸して届けるか振り込んであげ」
「ありがとうございます、池中さんはこのビル全ての会社の社長さんなんですか」
「このビルには光と言う会社しか入ってないよ」
「大きな会社の社長さんなんですね」
「君はネットを利用してるのか」
「私はデザインも全て手作りでパソコンは苦手なんです」
「お金は売れて何ぼでうちのネットに商品を並べてみないか多分4日か5日で完売するよ」
「マキ、デジタルの人間を店に行かせて撮影してうちのネットで販売できるようにしたり」
「いいんですか」
「それでは一緒にデジタル事業部で少し打ち合わせをしてから銀行に行ってお金を渡します」
「費用は」
「売り上げの10%を下さい、君は販売額を15%上げておけばいい」
「売れればの話だよ」
家具職人でもあり店主でもある若者はマキと社長室を出て行った。今度マンションのモデルルームのコーディネイトもさせてみようと思った。
翌日は東京事務所に朝1のシャトル便で羽田に行く。当然のことで東京に行く前日はお約束をマキに守らされた。東京事務所に顔を出すと、机や椅子等が全て整い営業体制は完成していた。
「社長どうしたんですか」タダシが驚いていた。
「別件でこちらに来る用があってついでに覗いたんや」
「ついでは酷いな」
「西は何時からや休み明けからです、土曜に引っ越しで東京入りしてきます」
「マンションは社宅扱いで借りてやったか」
「全員同じマンションに掘り込みました」
「こないだの不動産屋に頼んだらすぐに見つけてくれました」
「タダシはどこに決めてん」
「まだホテル住まいですわ、土地勘を付けてからにします」
「嫁さん逃げるぞ」
「逃げませんて東京で遊んでますわ」
「ダブルの部屋借りて私は仕事、嫁さんは東京ぶらぶらして家探してます」
「それが1番ええかもしれんな」
「東京事務所開設の案内状は」
「今日あたり付いてるはずです」
「デジタルは」
「そこのパーテイションの向こうの島です」
顔を出すと作業をしていた全てが立ち上がりお疲れ様ですと言った。
「作業を続けて邪魔しに来たん違うから」
「タダシ、東京で新人の女性一人直ぐに採用し」
「何でですか」
「東京生まれで東京育ちが条件や、西や大阪スタッフの水先案内人や地下鉄乗るのにも便利やろ、仕事も教えや」
「そうですね、そんな人が一人ぐらいいても助かりますね」
「俺は11時に八重洲口で待ち合わせやから行くで」
上川に電話を入れ八重洲のどこに行けばいいのか聞いた。八重洲口の新幹線入り口に迎えが来ると言う。歩いて八重洲口に着くと女性が「池中様ですか、お迎えに来ました」と車が用意していると言われ付いて行った。車は赤坂のホテルの地下駐車場に止められ部屋に直接案内された。
「私が出迎えに行けず申し訳ない」
「そんな事はいいんですが社宅も上川さんですよね」
「丁度押さえていたマンションがありましてね、それだけですよ」
「今日はこの書類を持って帰ってください」
「これは」
「あなたがこれから付き合う予定の不良債権を出す銀行と、あなたが大手デベロッパーと買う土地を決めて融資を受ける銀行です、担当者名も入っています」
「これで決まる仕事の何%をそちらのゼネコンにお出しすれば良いのですか」
「総予算の30%は頑張ってください」
「分かりました30%以上になるように努力いたします」
「こちらサイドの銀行プロジェクトも始まります、そちらはどれぐらい出せば」
「それはお任せします」
「多分コンペが多くなるかと」
「私が何とか石川次長と話し最安値金額を事前にお渡しできるように努力しますが、あからさまにすると他の参加者が嫌がりだす可能性もあるので慎重にいたします」
「お願いいたします」
「お昼は食べられましたか」
「まだです」
「東京の下町に行きましょう」
「ありがたい肩の凝る店は苦手なもんで」
「実は私もこのあいだのお好み焼き屋みたいな店が好きなんです」
「次の日に嫁さんに連れて行かされました」
「感想は」
「食べ過ぎたですわ」
「それは良かった」
「たまには行ってやってください」
「あの店で1万円以上も食べましたからね」
「店始まって以来の量じゃないですか」
「女性のチャンピオンだとも言われていました」
車の用意が出来ました。私と上川は車で上川の言う下町に連れて行かれたがどこだったかは忘れてしまった。定食屋さんで豚汁定食と生ビールをもらい食べた。豚汁が美味しかった、これだけでご飯が食べれると思った。食事の後少し歩きませんかと誘われて商店街を2人いや正確には6人で歩いた。
「東京は大阪より少し元気ですよ、住宅市場は大阪の3倍はあります大きな仕事が出来ますよ」
「そうですか私が気を付ける事は何かありますか」
「女性ですね」
「私はそれほど女性を追いかけないですよ」
「銀座には魔物のような女性が沢山生息してます、池中さんでも危ないですよ」
「銀座には行きません、今決めました」
「それがいい銀座に行って食事をし、どうしてもの時は私に電話を下さい、安全な店を紹介します」
「そうします」
「今日の予定は」
「帰るだけです」
「それじゃ少し飲みますか」
私達は新橋のガード下の開いている店に入り二人で飲み5時の飛行機に間に合うように車で送ってもらった。
「あなたが東京を主戦場にしてくれる日を楽しみにしています、それではお気をつけて」
上川に礼を言い飛行機に乗った。伊丹からマキに電話をすると今日は残業で遅くなるので先に何か食べて帰っていてくれと言われ一人で新地に出た。この間稲田に連れて行ってもらった寿司屋に行こうとしたら携帯が鳴った。
「一人で寂しいんやろマキチャンに聞いたで今どこや」
「今、新地に付いた、こないだのすし屋に行こうと思てたところや」
「鍋にせいへんか、寿司は寒いわ」
「どこに行けばいいんや」
稲田に教えられた店に行くと稲田が電話を入れてくれていたようで4人ほどが入る部屋に通された。何も頼まないのに冷えたビールが出て来た。ビールを飲んでいると賑やかな声が聞こえ稲田が部屋に入ってきた。
「頼む物は全て頼んできたから、後は飲んで食べるだけや」
「ここも昔の接待御用達か」
「そうや、この仕事をもらわなあかん言う時はここで土下座したこともある」
「大阪は順調か」
「仕事が多い、多過ぎるぐらいや」
「ええことや」
「ピークが見えへんから人の手配が怖い」
「まだピークやないで」
「東京市場は大阪の3倍以上はある、なんぼでも人は必要や育てて送り出すんや」
「俺は広告学校の先生か」
「そうや、稲田は大阪で人を育て東京に送り出す。東京に顔を出すとみんなが大阪に連れ戻されるんちゃうかとビビル位までやってくれ、稲田学校のスタートや」
鍋はシンプルな湯豆腐で野菜はなく鳥肉と豆腐だけで稲田鍋と言うらしい。
「今日の戦果は」
「これや見てみ」
「これみんな別ルートか」
「そうやダブル専務以外のルートや」
「しかしお前は何をするにも早いな」
「早ない、光徳は全部出揃てる明日当たり、うちから光徳に買い付けを出し大阪湾銀行に融資手続きを依頼する127億や」
「その中に俺と高橋次長と何人かの住宅用地が入っているので宜しくな」稲田
「全物件に1億乗せるけどかめへんのか」
「誰がそんなあほな土地買うねん」稲田
「冗談や、格安で卸したるわ、マンションどうするねん」
「賃貸に出す、今売っても安くたたかれるだけや」稲田
「家は近鉄か東興に建ててもらえや」
「そのつもりしててんけど京浜不動産の部長がどうしても建てさせてくれ言うて」
「それも、お礼のつもりや顔立てたり」
「それとな朝霧クラスの代理店出身者の若手が、また合ってくれ言うてんねけど」
「稲田取締役が決める事や」
「分かった結果を報告する」
「酒まずなるから仕事の話は無しや」
「それやったらお前と何の話しするねん」
「それもそうや、俺とお前から仕事取ったら何も残らんもんな」
「このかしわ美味しいわ」
「大阪生まれは直ぐに鶏肉をかしわて言うな」
「子供の時から鳥はかしわて親も言うてたからかや」
「豆腐も味が濃いくて上手いわ」
「締めが上手いんや」
仲居さんが黄色い中華そばを持ってきた。
「最後はここの店の御出汁を少し入れてこの黄蕎麦を入れて食べるんや」
たしかに鳥の出汁で食べる黄蕎麦は上手かった。
「2月1日の事務所開きは稲田も東京やでマキも連れて行く」
2人でバーに行き少し飲んで別れた。
タクシー乗り場に向かう途中で声を掛けられた。
「池中社長ですね」
振り向くと知らない男だった。
どちら様ですかと聞くと、少しお時間を頂きたいのですがと言うが、やくざ者に似ている匂いがしたが、グランドホテルの傷害事件の時に苦労を掛けた私服の警察官だった。
「あの時はお世話になりました」
「社長一人歩きは気を付けて下さいね」
「大丈夫です無茶はしません、懲りてますよ」
「私は今度、警察を退職し別の会社に就職することになりました、一度ご訪問してもいいですか」
「何時でも来て下さい、大歓迎しますよ」
「それでは2月以降にお邪魔します、お名刺を頂けないでしょうか」
彼に名刺を渡し別れた。
少し酔っている、もうすぐ東京支店がオープンする、頑張らなければと自分に言い聞かせた。
第2部完
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