Ⅱ-Ⅰ
翌日。
霊草の依頼者が感謝していたことを聞きながら、俺とミドリは
探している依頼は探索系、討伐系の双方。ただ可能であれば、少し遠めの場所まで行きたい。周囲の地理を把握することはもちろん、ドヴェルグ以外の魔物を捜索するためだ。
無論、見つけたところでコミュニケーションが取れるかどうかは分からない。
過去を例に出すのなら、単独で活動している魔物は難敵だ。彼らは非常にプライドが高く、説得するために難を要する。まあ力で捩じ伏せればいいだけなんだけど。
「……なあユウ。初日から悪いんだけど、少し多めに依頼を引き受けてくれないかい?」
「はい? 別に構いませんけど……」
「悪いねえ。いやほら、昨日飲みまくっただろ? だから男どもがダウンしちまってさ。あんまり仕事に出られそうなヤツがいないんだよ」
「あれ、依頼って期限ありますよね?」
「あるねえ。張り出してるやつの中には、今日までの依頼もあるねえ」
他人事みたいに言ってくれるアデルフェだった。
焦燥感に駆られながら掲示板を眺めてみると、期限が近いものはいくつかある。まさかすべて、二人で片付けろとは言うまいな?
「えっと、今日って四月二十日でしたっけ?」
「ああ、穏やかな春の季節さ。で、そこには二十日までに済ませなきゃならん依頼がいくつかある。ざっと十五ぐらいかね」
「十五……」
内容によっては出来そうな気もするが、どうだろう? 移動時間だって必要なわけで、転移陣は移動先を限定されている感じだった。
ミドリに見せた魔術での高速移動は、町中だと使えない。もとい、人目を考えて使い辛い。
「まあいくつか片付けてくれりゃあ構わないよ。信用の低下も最小限で済むだろうし、すっかり忘れてたアタシも悪いんだからね。いやあ、つい騒ぎまくっちまったよ」
「アデルフェさんは大丈夫なんですか? その、二日酔い」
「まったく問題ないね。ジュピテル王国の女は酒に強いんだよ?」
カウンターで仕事をしながら、アデルフェはサムズアップしながら笑っていた。
昨夜の戦果を知っている俺とミドリは、何とも言えない表情を返すしかない。確かにアデルフェの周囲だけ、積まれているビンの数は多かったし。
「……お酒が一杯飲めても、自慢になるわけじゃないからな? ミドリ」
「え、そこで私? 昨日は一滴も飲まなかったよ?」
「あ、そうなのか。っていうかこの国、いつからお酒飲めるんだ?」
さあ? と幼馴染が眉を潜めた、その後ろ。
「チィーッス!」
昨日の宴会には姿を見せなかった、二人組が姿を現した。
勇者の末裔である冒険者、ディ――いや名前はいい。問題なのは彼らが、もう一度こちらへ因縁をつけようとしていることだ。
肩を大きく揺らしながら、図に乗った顔で二人は近付いてくる。
「おいお前らっ!!」
「ひっ」
そんな彼らを止めたのは、アデルフェの一喝だった。
細かい作業には必須らしい眼鏡を外し、彼女は厳めしい面構えで掲示板の前へ。本日の期限が記されている依頼書を、無造作に五つほど引きちぎる。
誰に渡すのかまでは、考えるまでもない。
「仕事しな! いつも遊んでばっかなんだから、こういう時ぐらい男を見せるんだよ!」
「は、はあ? 何言ってんスか姐さん。俺達は今日、休み貰ってるじゃないッスか! そこに可愛い女の子いるんスから、デートに……」
「は? ここにもいるだろう、女の子が。デートする代わりにそのお願いを聞いたらどうなんだい?」
「えっ」
アデルフェの発言に、二人の色事師は固まっている。失礼ながら俺も同じだった。
お陰で彼女の怒りは頂点に達し、俺を除く加害者にのみ落雷が振り落とされる。
「馬鹿にしてんじゃないよ! アタシだって結婚願望はあるっつーの!」
「い、いやでも、姐さんは女の子というより、姐さんで……」
「そ、そうッスよ姐さん! 別に貶してるわけじゃ――」
「う、うるさいよっ! むしろ傷を抉ってるじゃないか、馬鹿どもが!」
要するに詰みらしい。
アデルフェの突きつけた依頼書を、ディコスとファナクスの二人はじっと見つめている。マジで? とも顔に書いてもあった。
「この依頼を午前中に片付けな。でなけりゃ、ギルドマスターの権限で首にしてやるよ」
「ええっ!? そんな殺生な! 何の準備もしてない――」
「うるさいっつってんだろ! 日ごろの罰が当たったと思って、さっさと働きな! 女達の人気が買えると思えば、安いもんだろ!?」
「はっ――」
天啓を受けたかのように、ディコス&ファナクスは固まっている。
ややあって、二人は自信に満ちた顔付きへと切り替わっていた。
「やろうぜ相棒! 町の女の子は俺達のもんだ!」
「そうだな相棒! 姐さんは女の子じゃないと思うけど!」
三度目のうるさい宣言を受けつつ、二人は意気揚々とギルドの外へ。
出る直前にミドリへ手を振っていたが、当人の方は相手にもしていなかった。他の依頼を探して、掲示板と睨み合っている。
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