Ⅲ-Ⅲ
「う、うう、羨ましイッ!!」
「は?」
「ど、どういうことだ友ヨ! 吾輩がモテないことを知っているだろウ!? 抜け駆けとは許せんゾ!」
「あー」
そういえば、そんなことを言っていた気がする。でも食事会の最中に聞いた愚痴だったため、聞き流していたような。
ゴブリンの王は拳を握り締め、過去の失敗を語り始めた。
「吾輩も、千年前から頑張ったのダ……でも最近じゃ、女の子に近付くだけで蔑まれてしまウ! いい加減次の王を指名しろと言うのダ!」
「まあドヴェルグ、千年も王様やってるんだろ? さすがに皆……」
飽きてるんじゃないか? と無責任な説明をしようとして、止める。なんて言うか、彼があまりにも哀れに感じるというか。
だって千年前から恋人を作ろうとして総スカンだぞ? っていうかよく続いたな。普通だったらとっくに諦めていそうな気がする。
一方、ミドリは見せつけるように俺の腕を取った。
世界の滅亡を目撃したように、ドヴェルグは愕然としている。
「……まあ、仕方ないよネ。友は魔王を倒した英雄だもんネ」
「な、なあドヴェルグ、そう気を――」
「では話題を変えよウ! 嫌なことは忘れるのが一番! 吾輩は早く、友がこの千年何をしていたのか知りたイ! いちゃついてたとはか無しで頼むゾ!?」
「いちゃついてたよ!」
ミドリが言葉で一刀両断する。
ドヴェルグはショックのあまり椅子から転げ落ちてしまった。そのまま立ち上がろうとせず、お手伝いのゴブリン達が必死に起こそうとしている。
「……オイ、コノママ放ッテオコウゼ?」
「ム、ソウダナ。ツギノ王ヲ選ぶイイ機会ダ」
「エ、サスガニ罪悪感ガ……」
などなど。
愛されてるんだか憎まれてるんだか、よく分からないコメントで部下達は話し合っている。……まあ何だかんだと優秀な王なんで、個人的にはもう少し見守って欲しい。
しかし彼らは容赦なく、ゲシゲシと倒れた王で遊んでいる。うん、きっと暴力じゃない。
と、そんな間にドヴェルグが息を吹き返した。
「ふう、羨ましすぎて脳が爆発しタ。……ところで友ヨ。先ほどゴブリンの声で、吾輩が貶されていなかったカ?」
「あー、し、知らないなあ。気のせいじゃないか?」
ちょっとした情けから出た、嘘の方便。いやほら、都合の悪いことは忘れた方がいい、ってドヴェルグ自身が言ってたし。
特に訝しむ様子もなく、彼は椅子へと座りなおす。その後ろではゴブリン達が親指を立てていた。
「む、そういえば友は人を待たせているのであったナ。あまり長話は出来んカ」
「悪いな。ああそうだ、一つ聞いていいか? ドヴェルグ」
「? なんダ?」
「お暗黒時代のいざこざで、魔物は人間の元を追われたんだろ? でも今はそうじゃない。昔みたいに友好を築こうとは思わないのか?」
「……難しいのが現状ダ。あの時代で、魔物と人間の交流に関する資料、歴史はすべて失われタ。ゴブリンだけではどうにもならヌ」
心底残念そうに、ドヴェルグは肩を落とす。
そこには俺も同感だ。魔王との戦いで、せっかく両者の間に和解の芽が出てきたというのに。俺達が駆け回ったのは何だったのか。
ならいつか、世界を元に戻す。
俺達の戦いを否定している世界を修正する。子供じみた八つ当りかもしれないけど、このまま黙っているなんておかしな話だ。アンブロシアは、俺達が作り出した平和の上にあるんだから。
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