Ⅱ-Ⅳ

「ふ――!」


 腕を横に振り抜いた直後、魔弾の瀑布がゴブリンを覆い尽くした。

 一斉に飛びかかってきた数十の雑兵は、一人残らず蹴散らされる。無事な個体もいるにはいるが、再び襲うような真似は犯さない。


 それでも敵は尽きなかった。

 今度は右手。魔弾による掃射の隙を突くように、彼らは再び群れを成す。


 視界にその陰影が映った、直後。


「――」


 声すら漏らさず、何体かのゴブリンが失神する。

 魔眼だ。暗示と呼べるほど上等な命令は描けなかったけど、退け、の一念で効果は出る。個体の能力が低く、数が特徴な魔物なら当然だ。


 運悪く逃れた数体へは、再び大量の魔弾を叩きつけて粉砕する。

 戦いの趨勢は完全に俺達へ傾いていた。相変わらず無謀を犯す彼らが、返って哀れに思えるぐらい。


 なら、もっと早く。

 一瞬で蹴散らしてやる――!


「止めぬカ! この馬鹿モノッ!」


 追加の魔弾を生成しようとする直前。やや訛りのある怒鳴り声が、ゴブリン達を怯ませた。


 突如として敵意を消した彼らに、魔弾を打とうとする手が止まる。後ろのミドリも、安全を感じ取ったようで力を抜いていた。


「済まなかったな、人間の客人ヨ。吾輩達は気の短い種族。特に一般のゴブリンは、人を見ると直ぐに襲いかかってしまうのダ」


 正面にあるゴブリンの群れ。それが、割れるように左右へ動いていく。

 間から現れたのは、三、四十センチぐらいしかないゴブリンの、倍近い背丈を持つ個体だった。手には杖を持ち、王様のような雰囲気がなくもない。


 恐らく一族を統べている者だろう。蹂躙される仲間達を想い、自ら前に出てきたのか。


「……アレ?」


 王のゴブリンは、俺の顔を見るなり首を傾げる。

 もっとも、そうしてやりたいのはこっちも同じで。


「――ドヴェルグか?」


「ゆ、ユウ殿!? なぜここニ!? というか千年間、何をしていたのだネー!?」


「ああ、それは色々あってだな……ま、元気そうで何よりだよ」


「うむ。吾輩も会えて嬉しいゾ、戦友!」


 会話についていけないミドリを放置して、俺とゴブリン王・ドヴェルグは固い握手を交わす。


 もっとも、ついていけないのは俺達を襲っていたゴブリンも同じ。王を覗く彼らの寿命は人と変わらないため、魔王との戦いを知らないんだろう。


 一同はただ、首を傾げるだけだった。


「ささ、ユウ殿、せっかくダ。大した持て成しは出来ぬが、昔話でもしようではないカ」


「あー、俺、人を待たせてるんだけど……」


「ならほんの少しでいい、吾輩の話し相手になってくレ! 他のゴブリンは、吾輩の話を聞いても信じてくれんのダ!」


「そりゃあまた」


 昔と同じで、苦労してる。

 土下座すらしそうな勢いのドヴェルグへ、俺は素直に提案を飲む。当時を知っている人物との再会は、正直心にくるものがあるし。


 照明用魔弾の光に照らされる彼は、今にも泣き崩れそうで。

 相変わらずだな、と二度目の安心感を口にした。

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