Ⅱ-Ⅱ

「ではでは改めて。しゅっぱーつ!」


「……おう」


 本当に子供みたく、ミドリは後ろで騒いでいた。


 なあなあに応えながら、二人だけの探索隊が出発する。完全に浮かれている幼馴染が心配ではあるが、自分がいるんだから大丈夫だろうと考えることにした。


 彼女はさして姿勢を起こさず、背中にピッタリとくっ付いてくる。

 お陰で女性の感触が直に伝わってきた。着ているローブとか制服とか、そんなものは全然関係ない。煩悩を揺さぶる一撃が、一歩進む度に撃ち込まれた。


「えへへ、幸せだなあー」


 挙句の果てには、頬ずりまでしてくれやがった。

 一週回って注意したい気持ちになるものの、好意を示しているのは間違いないわけで。冷静になれ、冷静になれ、とひたすら頭の中で繰り返す。


「……ユウ君の背中っておっきいんだね。子供の時と比べて、ずいぶん逞しくなった感じ」


「そうか? 全体的な体格は昔と変わらない気がするんだけど……」


「確かに今も昔も、ユウ君は細い方ではあるね。でもこう、精神的な? 頼りがいとか、色々感じるような気がする」


「気がする、か。じゃあ錯覚かもしれないぞ?」


「そんなことないよ。だってユウ君は、この世界を一回救った英雄でしょ? その経験は、凄いプラスになってると思う」


「かねえ? ま、ミドリがそう言うんならそうなんだろうけど」


 嬉しいものだ。魔王を倒してから、そうやって褒めてくれる人もいなかったし。

 ミドリは相変わらず、肩の辺りに頬を擦り付けてくる。幸せそうな独り言も一緒で、聞いているこっちまで同じ気持ちになりそうだった。


「?」


 と、何の脈絡もなく頬擦りが途切れる。


「あー、ん」


「ほうぁっ!?」


 次の狙いは、耳だった。

 全身に鳥肌が走る。オマケに舌が耳を這ってきて、いろいろと凄いことになってきた。吸い付いてきたりもしている。


 何なんだミドリのやつ。こんな趣味あったのか?


「おいひ……ちゅっ、れる」


「ちょ、おま、やめ……」


「んー、ろうひて? おいひいよ?」


「い、いや、美味いわけないだろ!? 人の耳だぞ!」


「ん――別にそこまで嫌がらなくてもいいじゃん。ちょっとは変なこと、想像したりしてたんじゃないの?」


「う」


 図星だった。

 というか何も連想しない方が無理に決まってる。こちとら健全な男子高校生なのだ。耳を甘噛みされた上にしゃぶられたら、イロイロ刺激されて当然。


 今度は耳に吐息をかけて、ミドリは楽しそうにしている。


「まあまあ、気にしないでよ。こんなことするの、ユウ君だけだからさ」


「いや余計に気になるぞ!?」


「お、じゃあ作戦は大成功だね。……そのうち、我慢できなくて寝る気も起きないようにしてあげるから。楽しみに待っててね?」


「……」


 とびっきり甘い声で、ミドリは煩悩に呼び掛けてくる。


 それはそれは嬉しい展開だけれど、順調すぎて逆に怖い。異世界に来たせいでタガが外れているとか、そういう理由か?向こうにいた時は、普通の友人に近かったのに。

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