Ⅰ-Ⅲ
見えているのは巨大な門。今まさに閉めようとしているのか、徐々に内側へ持ち上がり始めている。
その両脇には石で造られた頑丈そうな城壁が。どうやら無事、町の出入り口に来たようだ。
「おい、お前達」
正面の建造物に圧倒される暇もなく、女性の声で振り向かされる。
冒険者と同じく赤い衣装の女性だった。が、こちらはローブというよりも制服。軽く鎧も装備している。
「転移陣で移動してきたようだが、冒険者か? これから仕事を?」
「はい、そのつもりです。身分を示すものならこちらに」
「ふむ、能力証明書か。どれどれ……」
呪いの存在を訝しむこともなく、女性兵士は二人分の証明書を受け取る。……もしかすると、証明書を隠ぺいするのは珍しくないコトなのかもしれない。
大した時間をかけず、兵士は俺達に証明書を戻した。
「これから仕事か? 熱心なのは大助かりだが、いざという時に働いて貰えないと困るぞ? この時期は忙しいんだから」
「そうなんですか? ――俺達、今日この町に来たばかりで。よく分からないんです」
「今日? ……もしかして君、王女殿下で言っていた逸材の冒険者か!? 英雄王に並ぶ大器の持ち主と聞いているぞ!」
「――」
ここもかよ、おい。
いやまあ、話が通っているのは有り難い。下手な嘘をついて、墓穴を掘ったりするのはご免だ。こうして、王女の方から融通を効かせてくれることに反論はない。
でも前もって説明はして欲しかった。これじゃあ隠れてるのか隠れないのか分からんぞ。
「いやはや、お会いできて光栄だ。皆に知らせ――っと、複雑な事情があるんだったな。殿下から聞いたよ」
「え、ええ、まあ」
「困ったことがあったら、遠慮なく頼ってくれ。私達王国軍も、ギルドには散々世話になっているからな。その礼だ」
「……」
今後の不安を抱きながら、俺は女性兵士に一礼を送る。
彼女は門の方に向かうと、閉門の作業に当たっている同僚へ声をかけ始めた。彼女らは驚きで喉を振るわせると同時に、深々と礼を送ってくる。
「……ユウ君、すっかり有名人じゃない?」
「かもな……」
明日、王女に会えたら詳しい話を聞いておこう。ついでに文句も言ってやろう。
城門は閉じる流れから一転、徐々に外側へと動き始める。
まず見えたのは、夕陽に染まる草原だった。
せり上がった無数の斜面が地平線を隠しているものの、雄大な自然を感じる上では問題ない。かつての召喚でも味わった原初的な感動が、胸の中に押し寄せる。
ミドリもきっと同じ気持ちだろう、これから始まる短い冒険へ、その横顔は期待を膨らませている。
「よし、行くか」
「うん!」
異世界で生きる、その始まり。
不安よりも楽しみを抱きながら、俺達は無名の草原へと踏み出した。
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