Ⅰ-Ⅱ

「ああ、これかい。定期的に頼まれる薬草のやつ。みんなあんまり引き受けてくれないから。大助かりだよ」


「まあ確かに、報酬額少なさそうですしね」


 どんな金額だろうと、今の俺達にははした金でしかないのだが。

 しかしそんな考えを裏切るように、アデルフェはかぶりを振っている。


「少し前この辺りにね、魔物が巣を作っちまったんだよ。町の方まで来ることは無いんだけど、結構な大物らしくてね。襲われたらひとたまりもないから、ウチの連中はこのところ拒否してるのさ」


「……その辺りを考慮して、せめて報酬を膨らませるべきでは?」


「だろうけどね、そうはいかない事情があるんだ。これは探索系の依頼に限った話なんだが、報酬はすべて依頼者が用意しなきゃならない。ギルドのルールでね」


「あれ? 魔物の討伐って、国から報酬が出ますよね?」


「ああ、そうさ。昔は探索系の一部報酬金も国が賄ってたそうだけど……ギルドにもプライドがあってね。探索系の依頼が増えすぎないよう、何らかの歯止めを用意したかったのさ。魔物が減少した弊害ってやつさ」


 それが、報酬金の全額負担。

 件の魔物を討伐する依頼があれば万事解決なんだろうが、強力な種であれば難しくなる。それこそ受ける者が出なくなるだろう。


「とりあえず行ってきますよ。場合によっては逃げますから」


「ああ、分かったよ。……なあ、出来るなら数日中に、ユウの方で討伐依頼を引き受けてくれないかい? 目立たないよう、アタシらの方で細工はするからさ」


「んー、構いませんよ。今向かえば、ちょっとした現地調査も出来そうですし」


「そりゃあ助かる! じゃあほら、横の転移陣でも使っていきなよ! サービスさ!」


「転移陣?」


 千年前にはなかった単語に、俺はもちろんミドリも眉を潜める。


 アデルフェが指差したのは、建物の左。階段や掲示板がある側とは、逆の方向だった。


 何やら複雑な模様をした円陣が刻まれている。淡い光も放っており、魔術的な何かであることは言うまでもなかった。


「あれが転移陣さ。これと対になる転移陣が町の出入り口にあるから、そこへ飛べるよ。あとは城門の連中に、アンタ達の証明書を見せればいい」


「え、でも中身を見られると――」


「まずいんだろ? そう言うと思ってね、証明書に細工をしておいた。アンタ達か、ギルドの関係者しか見れないって呪いをね」


「呪いですか?」


 明らかに攻撃的な匂いがするんですが。

 そんな内心の声を無視して、例えば、とアデルフェは前置きを作る。


「これ、アタシの証明書を複製したものだ。下半分はどう見える、二人とも」


「……空白ですけど?」


「? ユウ君?」


 ミドリは、頭上にクエスチョンマークでも浮かべそうである。

 となると彼女には見えているんだろう。位置的にはスキルの欄か。能力を隠ぺいする上では、かなり役立つ魔術かもしれない。


「なんで、アンタ達は心配する必要はないよ。さっさと片付けて、美味い飯でも食いに行こうじゃないか」


「……アデルフェさん、死亡フラグみたいですよ」


「は?」


 まあ平和そうな街中で、凄惨な事件が起こるなんて考えたくないけど。


 怪訝そうな顔の彼女に見送られながら、俺達は転移陣の上へと移動する。なお、隣のミドリはぴったり俺に抱きついていた。やめい恥ずかしい。


「ほい、転送っと」


 アデルフェが口にした直後。

 俺達が目にしていたギルドの建物は、綺麗さっぱり消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る