第四章 ちょっと不幸なゴブリンの王様
Ⅰ-Ⅰ
「今から仕事かい? まあこっちとしては有り難いけど……」
カウンターにいるアデルフェの声が、
貼り付けられている無数の紙。いずれもギルドへの依頼であり、様々な種類の仕事が記されている。中には冒険の二文字と関係ないものすらあった。
「何これ、夕食の手伝い……?」
適当な一枚を取って、ミドリは怪訝そうな表情である。
それには俺も同意するしかない。昔の冒険者ギルドは、魔物退治や護衛がほとんどだった。対魔ギルド、とさえ称されていた程である。
しかし夕食の手伝いとやらには、魔物のまの字さえない。大人数を迎えるため、貴族の邸宅に来て欲しい、と書かれている。
「その依頼を受けるのかい? 内容にしちゃあ報酬は良かったと思うけど」
「いえ受けませんよ。ユウ君とお出かけるのが目的ですし」
ミドリは依頼書から目を離すと、その隣へ視線を動かしていく。
なかなか手頃そうな依頼はない。さっきのような仕事ならいくつかあるが、俺にも馴染みがあるものは見当たらなかった。
「……あの、ギルドって仕事の幅増やしたんですか? 昔はこういうの無かったって聞きましたけど」
いい加減気になるので、関係者へ直に尋ねてみる。
明日から張り出す依頼書を整理しているのか、頷くアデルフェの両目は下を向いたままだった。
ちなみに彼女、眼鏡をかけていたり。
「英雄王が活躍してた頃とは違って、魔物の数がだいぶ減ってきてるからねえ。まあ今でも脅威ではあるんだが……依頼としてみれば、減少傾向さ。今じゃギルドは便利屋みたいな扱いだよ」
「便利屋……」
「まあ魔物関係の依頼は、明日補充しておくよ。いまアタシの手元にあることはあるんだが、手続きが必要でね。探索系の依頼だったら直ぐに渡せるけど」
「あ、じゃあそれ見せてもらえます?」
いいよ、と彼女が頷いた頃には、カウンターの上へ依頼書が山積みされていた。
見るからにしてかなりの量である。これを昼間に見た仲間達と処分するのであれば、相当動き回る必要があるのではなかろうか?
「あ、全部処分してくれ、ってわけじゃないからね? 明日から数日かけて、この依頼をすべて片付けるのさ」
「もし余ったりすれば、どうなるんです?」
「信用ガタ落ちだねえ。ほら、さっき勇者どもの所為で、女社会になってることは話だろ? でもギルドは男が多いから、簡単に信用が落ちるのさ。ほらやっぱり、ってね」
「厳しい世の中ですね……」
今を生きる大半の男性に罪がない分、余計に同情したくなる。まあユキミチとか、昼間の馬鹿っぽさそうな二人組はさておいて。
「探索系の依頼は、町の外で終わるやつも多いからオススメさ。――特にデートなんかには持って来いだよ!?」
「よしユウ君、その中から選ぼう!」
やっぱり意気投合する受付嬢と幼馴染。
まあ時間をかけずに終わらせるのだとすれば、探索系の方が向いているかもしれない。祝いの席を用意しているアデルフェ達は待たせたくないし。
「……じゃあ、これで」
何となくな気分で選んだのは、薬草の回収を依頼する内容だった。
以外にもメガネをかけているアデルフェは、どれどれ、と依頼書を覗き込んだ。
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