Ⅰ-Ⅵ
「とにかくほら、指きりしよ、ユウ君」
「恥ずかしいんだけど……」
「誰も見てないって。ほらほら、童心に帰った気持ちで」
ね? と最後に一押ししながら、ミドリは握った手から小指だけを出している。
ゴツゴツした感じのない、柔らかそうな指。子供の頃、家に帰るときは毎日のように握っていたっけ。
懐かしい感触を思い出しながら、俺達は小指を絡ませあった。
「ゆーびきりげんまーん……嘘ついたらどうしよ? 針千本って微妙に現実味ないよね? 用意するの大変そうだし」
「えっ、そういう着眼点なのか?」
「うん。んー、どうしよ。ユウ君は何がいい?」
「罰ゲームみたいなもんなんだから、俺に聞いても仕方ないだろ……」
「あ、そっか。でも私は考えが浮かばないし……とりあえず指切りだけ終わらせちゃおっか。嘘ついたら何かする、ってことで」
「りょーかい」
お約束の台詞が再開される。
それを言い終えた、直後だった。
ミドリの唇が、俺の唇を塞いだのは。
「――」
「ん……」
呼吸が止まったのは一瞬だけ。軽く触れ合うような口付けで、ミドリはゆっくりと離れていく。
突然の出来事に、俺は唖然としながら幼馴染を見ることしかできない。あるいは、急激に大人びて見える彼女へ魅了されているのか。
ミドリは恥じらいながらも、可愛らしく頬を緩めている。
「初めてもーらいっ。交換こだよね? 千年前、女の人とこういう関係になってないよね?」
「そ、そりゃあ、なってないぞ。忙しかったし」
「ならよし。……まあキスが駄目だったら、その先を上げちゃっても良かったんだけど」
「そ、その先!?」
「あはは、ヤらしい顔ー。他に人がいないからって、駄目だよ?」
言って、人差し指で鼻を突いてくる。
慌てて周囲に視線を配るが、その光景は先ほどと変わらなかった。人の姿があるとしても疎らで、こちらの様子を注視している物はいない。
安堵の息を零していると、ミドリは静かに立ち上がった。
「それじゃあ遅めの初デートに行こっか! アデルフェさん達とのご飯もあるし、大して時間は無いかもしれないけど」
「そもそもどこ回るんだ? 参考資料なんて全然ないし……」
「仕方ないから、ここで喋るだけにする?」
「いくらなんでもそれはなあ……」
でも本当に代案が無い。いっそ町の外に出て、探検でもした方が有意義になるんじゃないか? ギルドの仕事も経験できるし。
だからか、
「そうだユウ君、ギルドのお仕事やろうよ! 簡単に終わりそうなのでいいからさ!」
「……マジで?」
「うん!」
二つ返事のミドリ。
同じことを考えていたのかと、俺は感心しながら頷くのだった。
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