Ⅰ-Ⅴ
「私の目の前で、ナンパは良くないと思うんだけどなー?」
「すみません……」
「あははっ、別に怒ってないからいいよ。落ち着いてて優しいのがユウ君なんだから、王女様を励ますのは当たり前。あそこで彼女を叱ってたら、私の方こそ怒ってたよ」
ミドリは俺を追い越して、広場にある噴水の前へと移動する。
黄昏色に染まっている憩いの場は、もうほとんど人がいなかった。俺と彼女が独占していると言っても過言ではない。
夕日で赤いのか、それとも身体の熱で染まっているのか。
彼女は悪戯っぽく笑みを浮かべながら、一つ前置きを作っていた。
「ユウ君はさ、どうしてこの世界で活動しようと思ったの? 勇者を倒そう、ってどうして思ったの?」
「そりゃあ責任だろ。……信じられないかもしれないけど、俺は千年前の英雄王と同じ人物だ。だから、この世界の行く末に責任があると思う」
「ユウ君が悪いわけじゃないのに?」
試すような問い。
噴水を囲っている淵に腰を下ろしながら、ミドリは吹き出ている水へ手を伸ばす。
「王女様も言ってたけど、昔の人達が勝手にやったことなんでしょ? ユウ君が世界を救った後の時代の人が。……あの人達に背を向けたって、誰も文句は言わないんじゃない?」
「でも、俺は納得できないぞ」
単純なことだ。自分に誇れるような生き方をしたいっていう、単純な願いが心にある。
「アンブロシアの人間に、存続する選択肢を与えたのは俺だ。見知らぬ他人が面倒を起こしたからって、無視を決め込んだりは出来ないよ」
「真面目だねえー。損、するかもしれないのに」
「……じゃあその損を帳消しにするぐらい、ミドリが毎日楽しませてくれ。この世界に固執して良かった、って思えるぐらいに」
「それは告白?」
言われて、耳まで赤くなるのを自覚した。
確かにその通りなような、でも違うような。もともと異性として意識している分、誤魔化すなんて器用さは発揮できない。
「ふふ……」
もちろん、黙っているだけでも証拠にはなるわけで。
ミドリはこっそり俺の手を握ってくる。重ねるように、愛でるように。
「もちろん、まっかせて! 私がずーっと、ユウ君と一緒にいてあげるから! 具体的には孫に囲まれて死ぬまで!」
「ず、随分先の話だな……」
「でも拒否はしないんだね?」
もちろん、好ましいには決まっている。
しかし面と向かって言うだけの度胸もなく、俺は熱が上った頬を掻くだけだった。ミドリはそれを、微笑混じりに眺めていたり。
「約束だよ? せっかく周囲の環境も洗い流せそうなんだしさ。私達は私達がやりたいように、自由に生きようね?」
「今ごろオジサン達は大騒ぎだろうけどな……」
「別にいいじゃん、娘が家出したぐらいなんだから」
いや大問題だろ。
しかし本当に、彼女は何とも思っていない様子だった。割り切りが早いというか、案外冷たいというか。
まあ俺の方だって言える立場ではない。育ててくれた恩よりも、自分で獲得したものを選んだのだから。
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