Ⅰ-Ⅳ

「……我が王。代表戦会、というのは女神から聞いておりますか?」


「いや、それっぽいのは何も。ユキミチと関係があるんですか?」


「はい、大ありです。代表戦会というのは、いわゆる代理戦争でして。それぞれの国で召喚された勇者を戦わせるのです」


「ああ、それで国の代表と。……? でも疑いの目で見られるんじゃないんですか? 勇者って」


「その通りです。故に先ほどのような監視をつけますし、代表戦会の存在は一般に告知されていません。王や貴族によって交わされた、密約のようなものです」


「はー、なるほど」


 それでも任せていいのかどうか、正直不安になってくる。

 まあ駄目というわけではないんだろう。誰だって、多少の勝算がなければ送り出すような真似はしない筈。


「国家間の闘争は、ほとんどが代表戦会によって解決されています。まあ今回送り出した者達が勝つ確率は低いのですが……これで一層、王の存在を隠すことが可能となるでしょう」


「い、いいんですか? そこまでして」


「はい。城で申しました通り、急を要する状況には至っておりませんので。代表戦会と勇者達の役目についても、頭の片隅に入れておく程度で構わないかと」


「了解です。……ところで、一つ聞いてもいいですか?」


「はい、何でしょう?」


「イオレー王女はどうして、俺に協力するんです?」


 当然と言えば当然の、改めて知りたい事情。

 女神からの指示、と定型的な答えが出てくる様子はなかった。変装を保ったまま、王女は俯いて動かない。


「……ねえユウ君、まずいこと聞いちゃったんじゃない?」


「――」


 ミドリの問いを聞きながらも、あえて返答を待ち続ける。

 ややあって、イオレーはようやく視線を上げた。


「王女としての意地です。何もかも我が王に投げ出してしまったのでは、わたくし達の責任を放棄することになる。……王が残した平和を、先祖の浅ましい考えが原因で壊してしまったのです。この身をもって王に尽くことが、わたくしの義務です」


「――」


 どことなく、共感があった。

 王族としての意地。イオレーの根幹にあるのはそれだろう。そして俺も、魔王を討伐した者としての意地が背中を押している。


 心の在り方が同じ者へと、俺は手を差し出した。


「立派だと思いますよ、それ。……これから、よろしくお願いします」


「っ、は、はい!」


 見た目とまったく合わない声だが、王女は嬉しそうに手を握り返す。

 つい部分的に変身魔術を解いてしまったのか、返ってくる感触は年相応の少女だった。一方、背後からは突き刺すような視線が向けられている。


 複雑な環境下にあるのは言うまでもなく、俺は早急に手を離した。


「そ、それじゃあ俺達はこの辺で。少し町を見て回りたいもんで」


「でしたらご案内しましょうか? これでも人々の生活には詳しい方ですよ」


「大丈夫です、じゃ!」


 どこか逃げるように、今度は俺がミドリの手を引っ張った。

 しばらくイオレーからの視線はあったものの、城前にある広場へ到着した頃には途切れている。


 代わりに、幼馴染から批難がましい目を向けられていた。

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