Ⅰ-Ⅲ

「へえ、お前をぶっ飛ばした時に聞いた悲鳴は幻聴か何かだったのか? あの場にいた全員が、同時に聞く幻聴なんて随分都合が良いな」


「っ……あ、アレはただの偶然だ! お前みたいなどこにでもいそうなヤツが、この僕に勝てるもんか! 僕は正義の使者ってクラスを与えられてるんだぞ!」


「じゃあ俺に構ってる暇なんて無いだろ? ――ああ、正義の使者って人は、分け隔てなく人助けをしてくれるのか? だったら有難く利用しようと思うが」


「っ――」


 幸道の顔が、面白いぐらいに赤くなっていく。今にも錬金を発動させ、俺に聞きかかろうと歯をむき出しにもしていた。


 仕方ない、一発黙らせよう。派手に魔弾を撃たなければ、そこまで目立つこともない筈だ。

 まあ目立つのだとしても、コイツについては例外で構わないけど。


 直後。


「ちょっとー、ユキミチ様ー」


「私達のこと、置いてかないで下さいよー!」


 緊迫した空気を弛緩させる、無数の声が割り込んできた。

 いずれも女性で、薄いドレスのような衣装を纏っている。ボディラインがくっきりと浮き出た、扇情的な衣装だ。


 彼女達を見るなり、ユキミチは表情を良くする。


「ああ、ごめんごめん。この人が僕に絡んでくるからさ。ちょっと相手をしてたんだ」


「え? そうなの?」


「大変ねー、ユキミチ様も」


 黄色い声を上げながら、彼女達は愚者ユキミチの手を取る。

 髪の色からして、一緒に召喚されたクラスメイトではない。異世界・アンブロシアに住んでいる現地民の少女達だろう。


 ユキミチは彼女らに作り笑いを向けてから、こちらの方を睥睨した。


「おい、英雄王と同じ名前だからって、調子に乗るなよ? お前みたいなヘタレに魔王討伐なんて出来っこないんだからさ、ははっ」


「そうだな、お前にも出来無さそうだし」


「ぐっ……」


 最後の最後まで俺とミドリを睨みながら、ユキミチはギルドの前から去っていく。


 何処かへと歩いていく彼の周りには、続々と少女達が集まっていた。軽く十人を超えている。向こうにいた時と同じで、口説くのが随分と早いらしい。

 だが彼女達には、少し妙なところがあった。


「?」


 うちの数名が、ユキミチの死角からこちらに礼をしてきたのだ。

 謝罪とかの類じゃない。敬意や畏怖を込めて、忠誠に近い意思を示している。


「なんだ……?」


「我が王の正体を知る者達です」


「!?」


 突然声をかけてきたのは、さっき宿舎の中へ戻っていったマーテル。

 だが、皺枯れた声では既にない。喉を通して聞こえるのは、凛とした少女のそれだった。


 恐らくは魔術による変装だろう。俺も何度か、敵地へ潜入する時に使用したことがある。動物になったりと、いろいろレアな体験をさせてもらったっけ。


「い、イオレー王女?」


「イオレーで構いません、王よ。……で、あの者達についてです。彼女らは王と共に召喚されたオマケを監視・補助・暗殺する役割を持っています」


「か、監視? しかも今、だいぶ不吉な言葉が聞こえたんだが……」


「幻聴ではありません。……彼らはこれから、国の代表として戦う身。下手なことを仕出かさないよう、監視する必要があるのです」


 老婆に化けたイオレーは、去っていくユキミチ達にもう一度目をやる。

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