第三章 約束以上の交流
Ⅰ-Ⅰ
身軽になったところで、俺達が招かれたのはギルドが管理する宿舎だった。
その二階端が、俺とミドリの部屋となっている。ちょうどベッドも二つ置かれており、一先ずの問題はなさそうだった。
あえて言うのだとすれば、
「うう、フカフカが……」
彼女が未だに、城にあった豪奢なベッドへ未練を持っていることだろう。
ぶっちゃけ金を使って宿舎を改造してもいいんだが、あまりにも軽率な行動になる。初日から約束を裏切るような真似はしたくない。
「……ねえねえ、ユウ君が本気になればさ、みんな倒せるんじゃないの? 余分に召喚された人達とその末裔をさ。そうすれば目立っても平気だし、貰ったお金でお城でも買って……」
「いくらなんでも駄目だ。そんなことすれば、世界中を敵に回すかもしれないぞ。……仮にそうなるだけの余力ごと撃破したとしても、身内から敵対者が出る可能性だってある」
「イオレーさん達が、ってこと?」
「そこは分からない。その下にいる貴族とかかもしれないし……この国まで敵に回したら、未開の荒野で生きるしかなくなるぞ」
「じゃあ逆らう人達は皆殺しでいいんじゃない?」
末恐ろしいこと言わんで下さい。
サラッと漏れたミドリの本音に、俺は呆れるしかなかった。そういえばこの幼馴染、わりと情け容赦ないところがあったな、とも。
「普通のフリをしてた方が、上手く立ち回れると思うぞ? 下手に能力を誇示すると、付け込まれたり利用されたりすることもある」
「確かに、イオレーさんは一般人のフリしててくれ、って言ってたね」
「だったらそれでいいだろ? ほら、急がば回れ、って諺もある。焦ったってロクなことにはならないさ」
「……分かった。しばらく我慢する」
突っ伏していたベッドから顔を上げて、ミドリは部屋の中を見回していた。
それからややあって、彼女は俺のいる出入り口へと近付いてくる。
「えっと、これからどうするんだっけ?」
「まずは町を回ろうと思う。俺がいた頃と、どれだけ変わってるか目で見ておきたいし」
「なるほど、デートってことだね!」
「……まあ、そう受取っていただいても。ああでも、エスコートするなんて無理だからな? あんま期待は――」
「はいレッツゴー!」
人の忠告を最後まで聞かず、ミドリは部屋の外へと飛び出した。
俺がカギを閉めたのを確認すると、彼女は俺の手を引っ張って歩いていく。初めての旅行に興奮している子供みたいに。
普段なら呆れるところなんだろうけど、今回ばかりは違っていた。彼女とよく遊んでいた、子供時代を思い出す構図だったからだろう。
そのまま階段を下りて、一階のフロントを横切っていく。
「おや?」
宿舎の外へ出た途端、出くわしたのはアデルフェだった。隣には気の良さそうな老婆の姿がある。
「二人ともどうしたんだい? もうそろそろ日が暮れるよ?」
「えへへ、これからデートです!」
特に恥ずかしがる様子もなく、ミドリは真っ向から言ってくれた。
反面、こっちは平常心でいられなくなる。大っぴらに言ってくれるのは嬉しいが、だからって恥ずかしいものは恥ずかしい。
アデルフェと謎の老婆は、温かい眼差しを向けるだけだった。
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