Ⅱ-Ⅲ

「じゃあ私はこれで。あ、素材を売り終えたら、このギルドにもう一度連絡するよ。もしかしたら倍ぐらいの売上になるかもしれないし」


「ば、倍!?」


「ああ。だからまあ、それまでにお金の使い道を考えといてね。死ぬまでに使いきれなくなっちゃうから」


 そうして、中年商人はギルドを後にする。

 残されたのは石が一つ。他には、未だに興奮が冷めない冒険者の声。最初に古代竜のことを尋ねてきた男も、魔物についての情熱を語っている。


「いくらで売れたんだい?」


 冒険者達が二階へ戻っていく中、一人アデルフェが話しかけてきた。

 大金のことを口にする抵抗感があって、俺は周囲に二人の女性しかいないことを確認する。


「十桁ぐらいで売れました」


「ほー、そりゃあ大儲けだねえ! ま、あれだけ持ってくりゃあ当たり前だけど。……今から二人で旅にでも出たらどうだい? 思い出は金じゃ買えないし、悪くないと思うよ?」


「旅、ですか……」


 何となくミドリの方を見ると、彼女は目を輝かせてこちらを見ていた。

 なら頷いてやりたいところだが、王女イオレーに頼まれたこともある。この国にだってまるで馴染んていないんだし、もう少し状況がはっきりしてからにするべきだ。


 視線に謝罪の意味を込めた後、俺はアデルフェの方に向き直る。


「今は遠慮しておきます。この国に来たばっかりですし、皆さんとも知り合えたわけですから。しばらくはここを拠点に動こうかと」


「――」


 背後で落胆する幼馴染。

 それを楽しそうに見つめながら、アデルフェは首を縦に振った。


「分かった、喜んで歓迎するとしようか。今夜、パーっと歓迎会でもしてね。いい店知ってるから、紹介してやるよ!」


「ああ、でしたら――」


 お願いします、と頷こうとした直前。また二階から、一人の冒険者が騒いでいた。


「姐さん! そりゃあユウの旦那の奢りですかい!?」


「馬鹿言ってんじゃないよ! 客を迎えてんのに、客に金を払わせる馬鹿がどこにいるんだい!?」


「えー!」


 わざとらしく文句を流しながら、彼は二階へと戻っていく。

 一喝した後のアデルフェは、軽く嘆息していた。その口元は仲間との馬鹿馬鹿しいやり取りで緩んでいる。


「すまないね、騒がしい連中で。悪いやつらじゃないから、気を悪くしないでおくれよ?」


「……もちろんですよ。それぐらい、分かってますから」


「分かってる?」


 妙な表現だと取られたのか、アデルフェは首を傾げる。

 そのタイミングで前に出てきたのはミドリだった。彼女は自慢げに、ただでさえ目立つ胸を反らしている。


「ああ、そっか。ミドリには読心のスキルがあったっけね」


「はい! ここの人達が底抜けに素直ないい人達だって、私には分かります!」


「底抜けに馬鹿、って言ってくれてもいいんだよ?」


 同じぐらいの、信頼と愛着を込めて。

 アデルフェは笑いながら、ようこそ、と改めて口にしたのだった。

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