Ⅱ-Ⅱ

「しっかし困ったな……」


「ああ? どうしたんだい守銭奴」


「持ち合わせの金じゃ、ユウ君の持ってる素材を換金できない。桁が違いすぎる」


「じゃあアンタ、例のモノを使えばいいじゃないか。いつも余分に持ち歩いてるんだろ?」


「でもかなりの大金だよ? きちんと上の許可を取ってからでないと――まあ、バレなければいいんだけどさ」


 商人は肩を竦めた後、自身の大きなバッグから何か取り出そうとしている。


 机の上に置かれたのは、緑色の石だった。

 ほのかな光を放っており、何か神秘的な雰囲気を漂わせている。具体的に言うと魔術。その源である『魔力』と似た光を、目の前に置かれた石は放っていた。


「これは……?」


「アラウネ石さ。魔石の一種でね、設定した銀行の口座と繋がってる。――これの場合は私の口座に繋がってて、指定された金額分が使えるって寸法さ」


「へえ……」


 ようはクレジットカードだろうか? 俺が魔王と戦った千年前は、こんな便利な物なかったんだけど。


 魔石は半透明で透けている。中を覗き込むと、たくさんのゼロが並んでいた。 数えてみると九桁ほど。最後の1も含めると計十桁である。


「……は?」


 いや待て待て待て待て。おかしい、いくらなんでもおかしい。


 十桁って、地球で言えば億単位だぞ? 確かこっちの物価は日本と似ていたし、どう考えても大金な気がする。

 もちろん千年前。今と比べていいのかどうか、不確かではあるが。


「あ、あの、この金額は?」


「? 市場の平均価格を足してみたんだ。古代竜の一本角とか、希少な魔物の素材がたくさんあったからね。これぐらいは軽いと思うけど」


「か、軽いって……」


「いやほら、さっき冒険者の一人が言ったろう? 古代竜の一本角は、売りさえすれば一生遊んで暮らせる金が手に入る。まあ……ユウ君が持ってたやつは、鮮度が抜群にいい。こんな値段でいいのかどうか、こっちが悩むぐらいだよ」


「そんなに……」


「千年近く前に存在した伝説の生物だからねえ。英雄王の物語にも宿敵役で出てくるし、魔物の中ではメジャーな存在だよ。お陰で貴族たちは、王の子孫であることを証明するために欲しがるってわけさ」


「……」


 でもあの竜種、当時戦った魔物としては中の上ぐらいだった。宿敵なんて言われても、百頭近く狩っている筈なので実感が湧かない。


 まあこれも、千年の間に歪められた情報なんだろう。よくある話だ。

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