Ⅱ-Ⅰ

「こ、こりゃあ凄い! 古代竜の一本角じゃないか! 貴族の邸宅を買ってもお釣りが来る貴重品だぞ!」


「しかも純度が高けぇ……なあユウの旦那! こいつはどこで手に入れたんだ!? 古代竜なんざ名前の通り、今じゃ滅多に見ない魔物だぜ!?」


 などと。風呂敷を広げながら、冒険者たちは口々に驚いている。

 商人の方も同じだった。こんな素材は本でしか確認していない、と新しい物が出る度に驚愕している。


 なんだかどんどん正体がバレそうになって、冷や汗が出る一方。

 というかあの竜が古代竜と呼ばれているなんて知らなかった。昔は完全に別の名前だったし、珍しくもない魔物だったぞ。希少種になってるなら、予め知らせて欲しかった。


 まあここまでくれば、冒険者や商人達を信じるしかあるまい。何か企んでいる場合には、ミドリが知らせてくれるだろうし。


「な、なあユウの旦那、教えてくれよ! 古代竜なんて、角だけでも一生遊んで暮らせるんだ! 遭遇した場所でいいから――」


「おいおい、ランクBのお前さんじゃ、古代竜の餌になるので精一杯だろ。身の丈にあった仕事を選びな」


「アデルフェ姐さん、そりゃないッスよー!」


 どっと、ギルド一階に笑いが溢れる。

 構図は単純で、希少な魔物の素材に憧れる一般冒険者と、それをからかうアデルフェの図だ。まあ一般といっても、建物の中にいた冒険者全員が加わっているが。


「……しっかし、本当にとんでもない品を持って来たもんだね。これじゃあ噂はあっと言う間に広がるんじゃないかい?」


「うっ、どうにかなりませんかね?」


「まあウチの連中については大丈夫だろうけど……問題は貴族だね。結構自慢したがる連中が多いからさ。そうだろ?」


 同意を求められたのは、俺とミドリの向かいに座っている商人。彼は鑑定らしき作業を進めながら、アデルフェに頷きを返す。


「貴族のお嬢様方は、とにかく自慢するのがお好きだからねえ。こんな希少品の情報が流れたら、あっという間にユウさんへ辿り着くよ」


「なんかいい方法はないのかい? 二人とも、あんまり目立ちたくないって話だよ」


「そうだねえ……まあ、王国の外で捌くのが一番かな。時間はかかるけど、足はつきにくくなるだろうし。とっておきのルートも持ってる」


「さすがだね。――ってわけでユウ、ミドリ、この中年商人のこと、信用してくれないかい? 商売事に関しちゃ、アタシらよりも口が堅いやつなんだ」


「おいおい、それじゃあ他のことは言い触らしまくってるみたいじゃないか」


「実際にそうだろ? この守銭奴」


 言われて、商人は短い顎鬚を撫でながら笑っている。

 どちらにせよ俺は、もう彼を信用すると決めていた。ミドリの方も同じらしく、向こうに対して頷きを送っている。


「ユウ君、この人達は嘘ついてないよ。心の中から正直に言ってる」


「もしかして、読んだのか?」


「うん。周りの人達も、教会で呼び出された時の皆とは全然違う。隠し事なんて一つもしてない」


「……そっか。そりゃあ心強いな」


 国の権力者が味方してくれるとはいえ、民衆の協力があるに越したことはない。王女とは別の方向性で力を発揮してくれる筈だ。


 なんだが、こっちだけ隠し事をしているのが申し訳なくなってくる。

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