Ⅰ-Ⅴ
「――よし、これで終わり。んじゃあ今からこれを複製するから、大切に持っておくんだよ? ギルドに所属していることを示す唯一の品だからね」
「はいっ!」
「おお、元気な子だねえ」
アデルフェは腰を上げると、カウンターの奥にある部屋へと移動していった。
恐らく紙を複製するための道具だろう。魔術を使用する品だろうから、この場合は魔導具と呼ぶべきか。
彼女が戻ってくるまでの間、俺達はその場に棒立ちしているだけだった。
「……なあ、ミドリ」
「? 何?」
「さっきの言葉なんだけど、さ」
「――」
急に羞恥心が押し寄せて来たのか、幼馴染は顔を赤くして俯いた。指先も合わせて可愛いったらありゃしない。
反面、一つの証拠としても受け取れる。彼女はそういう意図があったのだと。……まあ本人からもう一言ないと、確証を持つのは難しいが。
アデルフェはもう少し、戻ってくる気配がなさそうだった。
それを俺もミドリも確認しつつ、静寂の中を過ごしていく。
「あのね、別に嘘を言ったわけじゃないんだよ? ユウ君と一緒にいると凄く落ち着くし、幸せになれるし……」
「お、おう」
「もう少し色々言いたいんだけど、ここは人も多いし……二人きりになったら、大切なこと話してもいい?」
「――」
下から覗き込みながら、潤んだ瞳で彼女は言った。
俺が無言で首肯したところで、向こうからアデルフェが戻ってくる。その手にはたったいま複製されたのだろう、二枚の紙が握られていた。
「それじゃ、大切にしておくように。……しかし何度見ても凄いね、ユウのスキルは。魔弾生成【A+】に、神々の寵愛はランク【EX】だろ? しかも希少な魔眼持ちときた。これじゃあ一国の軍隊だろうと蹴散らせるんじゃないかい?」
「買い被りですよ。俺だって人間なんですから、国と争ったりしたら体力が尽きます」
「つまり、尽きる前に蹴散らせば余裕ってことだね?」
「……」
不敵な笑みを浮かべながら言われると、頷くしかなかった。
俺達はそのままギルドを去ろうとして――ふと足を止める。背中にある荷物を、早急に処分したいからだ。それなりの重量があるし、長々と持ち歩くのは疲れる。
「あの、この近くに物を売れる場所ってありますか? いろいろと売り捌きたいものがあるんですけど……」
「ああ、んだったらギルドによく来る商人を紹介するよ。魔物の素材とかも買い取ってるからね、早めに会っておいた方がいい」
「助かります」
二階で待ってなよ、とアデルフェから進められて、俺達は階段を上っていった。
目に入るのは同じく冒険者と思わしき者達。大半が男で、自然とミドリの姿は目立っていた。好奇の視線も多く、またもや彼女を警戒させる。
部屋は休憩所を兼ねているのか、椅子とテーブルがいくつも並んでいた。ちょうど奥の方が空いているので、遠慮なく使わせてもらうことに。
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