Ⅰ-Ⅳ
「これに手を当ててくれ。加入する前に、現時点での能力値をこっちで写しとかないといけないんでね」
「……はい」
二つ返事で頷いて、俺は水晶へと片手で触れる。
城の方で受け取った紙と同様、そこには万単位の数値と、仰々しい言葉が並んでいた。最初は驚くだけだった受付嬢の顔も、徐々に呆れたものへ変わっていく。
正直、正体を見破られないかどうか不安でならない。素直に水晶へ触れるのを断れば良かったんだろうが、逆に怪しまれそうな気もするし。
と、正面にいる彼女はいきなり眉を潜めた。
「あれ、おかしいねえ? クラスが表示されなくなってる。……まあスキルとかは写せたから、良しとしようか」
「……」
気付かれない程度に、俺は安堵の息を零した。
クラスはこの世界において、神が定めた役職を示す。基本的に変わることはなく、人の一生を縫い付ける要素だ。
もし水晶が正常に動いていれば、英雄王、だの原初の召喚者、だのといったクラスが表示されていたことだろう。
都合よくクラスを表示させなかった誰かに、俺は心の中で感謝する。
「名前はユウ・タクイっと……はは、英雄王と同じ名前だねえ」
「――」
「まあこの世界じゃ珍しくない名前さ。他人と間違えられないよう、気をつけなよ?」
「あ、はい」
ここも難なく乗り切れた。
でも確かに、珍しい話ではないんだろう。世界を救った者の恩恵に預かろうと、名前を同じにするのは誰でも考えそうだ。
これは正体を隠す上で好都合かもしれない。ギルドの人達も、一見悪そうには思えないし。
「あ、そういや自己紹介がまだだったね。アタシはアデルフェ。宜しく頼むよ、二人とも」
「はい」
「宜しくです!」
元気よく頷きながら、ミドリは俺の隣に出て水晶へ触れる。
アデルフェは頬杖をつきながら、楽しそうに薄ら笑いを浮かべていた。
「さて、お嬢ちゃんはどんな逸材なのかねえ。先に来たのが化け物だったから期待が高まるよ」
「……あんまり期待しないでくださいね?」
「は?」
真緑の言葉に首を捻った直後、ミテラは眉間にしわを寄せていた。
何に驚いているのかは想像するまでもない。真緑の低すぎる能力に、大きなギャップを感じているんだろう。
「う、嘘だろ? この能力値で冒険者は……」
「駄目、ですか?」
少し涙声になりながらの問いだった。
それでアデルフェも空気を察したんだろう。腕を組みながら、必死に慰めの言葉を探している。
「うーん、駄目ってわけじゃないけどね、大きな制限は受ける。読心のスキルは珍しいから、どうにか普通の待遇にしてやりたいけど……」
「あ、あの、ユウ君と一緒にお仕事が出来ればいいんです! なので――」
「? それでいいのかい? えっと、ミドリ? の成果はあんまり反映されなくなるよ? 冒険者として一旗上げたいのなら、こんな怪物と一緒に行動するのはオススメしないけど」
「いえ、いいんです! 彼と一緒にいられれば!」
「ほほう」
意味ありげな視線を、アデルフェは俺に向けてきた。セリフをつけるなら、この幸せ者! といったところだろう。
彼女は俺の時と同じく、能力値を真っ白な紙に書き写していく。
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