Ⅰ-Ⅲ
「あ、アンタがあれかい? 王女殿下の言ってた、英雄王以来の逸材って男かい?」
「えっと……」
「ああ、そうか、複雑な事情があるんだっけ? 大丈夫、ここの連中は口が堅いからね。普通に振る舞ってくれて構わないよ。――そうだろお前ら!」
男と間違うような胴間声は、階段の向こうにいる冒険者達へと向けられたものだった。彼らはその期待に違わず、肯定する旨を返してくる。
「じゃあ二人とも、今日からしばらくはここで働くんだろう? みんな素直で良いやつばっかりだから、仲良くしてやっておくれ」
「……まさか、さっきの人達もですか?」
「ああ、ありゃ例外だよ。あの馬鹿ども――ティコスとファナクスって言うんだけどさ。アイツらは数百年前に召喚されたやつの末裔でね。いっつも威張り散らしてるのさ」
「まっ、末裔!?」
声を裏返して驚いたのは、それまで沈黙を維持していた真緑だった。
開いた口が塞がらない、とは今の彼女のことを差すんだろう。愕然としたまま、俺をじっと凝視している。止めろ正体バレるだろ。
しかし、時既に遅しと言うべきか。彼女が驚いている様は、受付の女性にしっかり見られていた。
「なに驚いてんのさ? ――あ、さてはアレかい? 魔王を討伐した英雄王の血を引いてるんじゃないかって、驚いてるのかい?」
「え、あ、その……」
「謝る必要はないよ。結構多いんだ、勘違いする人はね」
「ふえ……?」
話を聞いている間に落ち着いたんだろう。ミドリは、目を瞬きさせるだけの余裕を取り戻していた。
「英雄王が姿を消して以降、たくさんの国が勇者召喚を行い、召喚者の価値は暴落した。その称号を名乗るのに相応しくない連中も、大量に出てきやがったのさ」
「じゃあさっきの人達は、その――」
「ああ、何の偉業も成しちゃいない、粗悪品の一派だよ。……ああいうやつらは目立つからねえ。だから最近、英雄王自体を批難する声まで広がってる。王は何も悪くないってのにね」
「むう、酷い人達ですね!」
「だろ!?」
女達は意気投合して、去っていったティコスとファナクスへの罵詈雑言を語り始める。二人は今ごろ、くしゃみの連発で忙しいに違いあるまい。
ミドリと受付嬢の口汚いセリフは、徐々に勢いを増していく。傍から見ても怖いぐらいの加速っぷりだった。
なので割り込むことにする。続けてもらっても構わないと言えば構わないが、用事を片付ける方が先だ。
「冒険者としての登録を済ませたいんですが、どうすれば?」
「ああ、ごめんごめん、それが先だったね。んじゃあ……」
いい加減名前を聞かないとまずい姐御肌な受付嬢は、カウンターの下から掌サイズの水晶玉を取り出した。
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