第二章 ギルドの人々

Ⅰ-Ⅰ

「どう? 似合ってるかな?」


 この国の衣装に着替えたところで、ミドリはクルリと一回転してみせる。

 ギルドの関係者ということもあってか、雄々しい赤のローブだった。下はそのまま学校の制服を流用している。


 お陰で、そこまでギルドの冒険者という出で立ちではない。まあ戦闘要員じゃないんだから、それで構わないとは思うけど。


「ああ、よく似合ってるよ」


「えへへ、ありがと。ユウ君も格好いいよっ!」


「んー、そうか?」


 着替えたばかりの衣装で、俺は軽く身体を動かしてみる。


 同じく、真紅のローブと制服の組み合わせ。といっても制服の上着ブレザーは脱いでいる。ただでさえ運動に適していないのだ、少しでも身軽になった方が良いだろう。


 同じ理由で剣や鎧は装備していない。そもそも魔術を基本として戦う俺には、無用の長物とも言える品だし。


「んじゃ、まずはギルドだな。そこで冒険者としての登録を済ませよう」


「はーい!」


 元気良く手を上げて、真緑は俺の隣に並んでくる。

 現在地は城の前にある広場。大勢の人々が行き来する、都市の大動脈といっても過言ではない場所だ。


 辺りを囲んでいるのは、溢れんばかりに詰め込まれた建築物。

 素人目に見て、素材はレンガやコンクリートだろうか? 建物同士にある間隔は決して広くなく、限られた土地を有効利用しようとする意志が見られる。


 あとはそれぞれ、自己主張のためのアイディアを形にすることも忘れていない。食堂にしろ商店にしろ、客の目を引こうとする看板を上げている。


「中世っぽい街並みだねー。まさに異世界召喚、って感じ!」


「あんまりハシャぎすぎるなよ? 中の服装は結構目立つんだから」


「はーい。……でもローブの人達はそれなりにいるし、多少は誤魔化せるんじゃない?」


「まあな」


 俺達と同じ、赤のローブを纏っている者の姿は少数ながらある。屈強な体格をした男性が多く、女性の数は少なめだった。


 お陰でミドリは、少しばかり視線を集めている。容姿が整っていることもあるんだろう、すれ違う男女が一瞥を送っていた。


「これから向かうギルドってさ、どういう組織なの?」


 様々な感情が乗った視線を気にせず、彼女は素朴な疑問を送ってくる。

 俺は渡された地図と格闘しながら、ミドリの問い掛けへも返答した。


「魔物を討伐するための組織だよ。俺がいた頃は、の話だけどさ」


「魔物?」


「……」


 一旦、顔を上げて周囲の様子を確認する。

 ミドリへの興味は相変わらず尽きていないようだが、こちらの会話が聞こえそうな距離に人はいない。一番混雑していた場所は抜けたようだ。


 なら、と視線を戻しながら回答する。


「魔物って言うのは……まあ、魔術を使える強い野生動物、ってところだな。人類と敵対してて、ギルドがその討伐を担ってた」


「でもその親玉を、ユウ君が倒したんだよね?」


「ああ。当時ほどの勢いは、さすがに無いと思うんだが……」


 二度目の召喚を得てから、町の外に関する情報はほとんど得ていない。断定するのは性急すぎる。


 ギルドが残っているから魔物も残っている、なんて結論も通用しないだろう。何せここは千年後。イオレーは文明が一度衰退したと言っていたし、役割が変わっていてもおかしくない。


「あ、ユウ君、あれじゃない?」


「おう?」


 真緑が指差したのは、正面にある二階建ての建物。軒先には、剣を交差させた看板が上げられている。城から出る直前、イオレーに聞いた特徴と同じだ。

 昔は籠手と剣を交差させた看板だったが、長い時間の間に変わったらしい。

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