Ⅱ-Ⅱ
「他に何か、質問はございますでしょうか? 王の時代から千年以上が経過しておりますので、気になることがあれば――」
「は? 千年!?」
「はい。王が魔王を討伐し、既に千年以上が経過しています。文明は一度衰退していますが、王の時代とは……王?」
「――へ? あ、ああ、すみません。ちょっと驚いて」
千年後? この世界が?
そりゃあ女神からの説明で、少し時間が経っていることは予想していた。仲間達と再会するにしても、当時の面影は無いんだろうなあ、と呑気に考えていた。
でも千年って。いくらなんでも経ち過ぎである。
当然のごとく、仲間達に当時の面影はないだろう。皆、冷たい墓石にでもなっているに違いない。お疲れ様。
「……でも、千年経ってるなら俺の顔を覚えているやつはいないわけですね」
「そうなります。ですがその……極力で構いませんので、目立つ行為は控えてもらえませんか? 王ほどの実力を、隠し通すのは不可能であると重々承知しておりますが……」
「不要な敵対を避けるため、ですね?」
「はい。王の存在をしれば、各国が兵を上げて我が国を襲うでしょう。そのため王には、あくまでも冒険者ギルドの構成員として振る舞っていただきたいのです。もちろん、可能な範囲で」
「……分かりました、問題ないですよ」
「あ、ありがとうございますっ!」
背骨が折れるんじゃないかって勢いで、イオレーは何度も頭を下げている。
まるで、鬼か悪魔への懇願が通ったような喜び方だ。話しか聞いていない俺の存在は、彼女にとってそれだけ畏怖するべきものということかもしれない。
なんだか、千年後の自分の扱いについて心配になってくる。伝承が曲解されるなんて珍しい話でも無いんだし。
城から出たら、まずはその辺りを調べるべきだろうか?
「ああ、このご恩は決して忘れません! 我が王、それではこの世界での日常を――いえ、ジュピテル王国での日々を楽しんでください!」
「は、はいっ」
鼻と鼻がぶつかるような距離で、イオレーはまたもや感謝した。
後ろからムッとした視線を感じながら、俺は退出する王女を見送る。外に待機していた付き人も、俺に会釈を送ってきた。
直ぐ、部屋は俺と真緑の二人きりに戻る。
「……さて、そういうわけだ。ミドリはどうする?」
「ど、どうって?」
「クラスの連中についていけば、表だって活躍できる。俺と一緒に来るなら、のんびり生活することが出来る。……どっちがいい? なんだったら元の世界に帰っても――」
「後者で」
即答だった。
俺は頷く中、こっそりと笑みを深くする。憧れの少女と、最低でも一つ屋根の下だ。これで期待しない男子がどこにいるのか。
生活資金がつまった袋を担いで、さっそく扉の前に立つ。
「じゃあ移動するか。ギルドの構成員が城で寝泊まりしてるなんて、噂になるかもしれないしな」
「えっ、このフカフカベッドは!?」
「お預けです」
「えー!!」
よっぽど気に入ったのか、ミドリは子供のように頬を膨らませる。……まあ、金に余裕が出来たりすれば考えよう。
ベッドシーツを掴み、彼女は必死の行きたくないアピール。
仕方がないので、一人で部屋を出ることにした。
「わー! 待って待って! 置いてかないでー!」
「はいはい」
ミドリは慌てて追いかけてくる。ベッドへの未練を、綺麗さっぱり捨てながら。
お妃。
ここに来る直前、イオレーは確かにそう言った。……なら色々な問題が片付いた後、彼女があのベッドを堪能できる日がくるんだろうか?
不意に横目を使うと、ほんのりと顔を赤くしたままの少女がいる。
絶対に苦労はさせまいと、俺は心に誓うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます