第36話 燃える青い炎( 貴哉side ⑦)

由梨にストーカー紛いの事をしていた犯人はすぐに判明した。

貴哉と同じ会社に勤務する三木 なずなと、矢羽田 遥、安藤 真奈の3人だった。


仕事の合間に調べるのは大変だったが、貴哉は由梨を悩ませた彼女らを許すつもりはなかった。

彼女らを盗撮好きの男に、由梨の盗撮を依頼していたようで、それをポストに入れされるのも、また別の人物にしていたらしい。


らしい、というのは貴哉の友人である、陸人、秀悟、真也に協力を仰ぎ調査を依頼したからだ。


この内の藤原 秀悟は貴哉と同じ宝生のシステム部に在籍していた。そして、陸人はフレックス制の会社に勤務しており、真也は親の会社を継ぐべく修行中であるが、自由は利きやすい。


秀悟はすぐに安藤 真奈のパソコンを経由して、貴哉にパソコンに送られた事を調べたし、陸人は朝にポストに入れる男と、そして報酬を渡す三木 なずなの証拠を掴んだ。

真也は由梨をつけて盗撮している男を見つけて、その男と矢羽田 遥が知り合いで昔からいいように使っている事を突き止めた。


由梨は、このわずかの間に少しやつれていた。その事に貴哉は腹立たしく思っていた。


「秀悟、あいつら埃は出てきたか?」

「まぁな…なかなかの仕事できないぶりだよな」


3人は仕事もそっちのけで人事部のお荷物要因であり、悪い話はどんどん出てきた。つまり、容赦はしなくていい。


「しかし、これを理由に辞めさせる事は出来ない」

「わかってるさ」

貴哉は微笑を浮かべる。


「盗撮男を利用する」

「は?」

「あいつらは、自分がそうされたら、どんな気持ちがするかわかればいい」

「…で?」


「自分等が雇った男に盗撮されて、怯えればいい。そいつに、あいつらが実はそうされたいと望んでる。と囁いて金を渡せば喜んでするだろう。それに、三人ともかなりおサカんみたいだからなヤバイ映像ならいくらでも撮れるだろう」


貴哉はすでに、由梨宛の手紙はすべてポストに入ったらすぐに陸人に抜かせていた。盗撮男はすでに真也の手の上だ。


貴哉の思惑通り、ほどなくして彼女らの乱れた生活ぶりを赤裸々に物語る映像はあっけなく貴哉の手に入った。


「秀悟、これをあいつらのパソコンにこっそり送ってやれ」

「…3人だけでいいのか?」

「拡散すれば、会社の恥になる。あいつらが怖じ気づいて自分から壊れるのを待てばいい」

「恥じるかな?」

「ひとこと、入れればいい。ネット上に乗せるぞと」


貴哉は薄ら笑いを浮かべた。


「お前の血は青を通り越して黒だと最もな噂だぞ」

「安心しろ、この3人はもっと汚ない。掃き溜めだ」

「…お前を敵に回すなんて、愚かだな」


「これで、分からなければ、本当にどこでもばらまいてやれ、好きな奴は食いつくだろう」

「…まだ、辞職に追い込むほうがあいつらには楽だろうにな」

秀悟がボソッと言うと、


「女なのに、由梨の怖さがわからない奴は自業自得だ」

掃き捨てるような言い方で言うのも、普段冷淡な貴哉にしてはめずらしい事でもあった。

「お前が、そこまで惚れ込むとはな…その子も災難だ」

「ふっ」

ゾッとするほど美しい造形美は、秀悟には悪魔の降臨という言葉が脳裏に降りてきた。


「お前のその顔見たら、逃げ出すんじゃないか」


「逃げ出す前に、ガッチリ捕まえておく」

「…どうやって?無理矢理結婚したって、離婚は可能だぞ」

「いたって、普通の男がすることで」

「は?」

「心血を注いで、愛するだけだ」


「お前の愛は、とてつもなく怖いんだが?ホラー話か」

「ホラーでなく、ラブストーリーの住人のつもりだが?」

「ラブストーリー…、余計怖い。それに心血って、なんだ心血って」

「安心しろ、彼女以外に注ぐつもりはない」

秀悟は貴哉に薄ら笑いに、全身が青ざめていった。


「…お前を敵に回すのだけはやめておくよ」

「そうしろ。意外と、人を追い詰めていくのも愉しいかも知れないと思っている所だ。…由梨を傷つける奴は赦さない」

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