第37話 不安的中
2月となり、明日はいよいよ亜弥の結婚式という時期となり、花村家はうきうきと、バタバタとしていた。
しかし、亜弥と親たちは忙しくても由梨はいたって、いつも通り…なのだが…。
スマホを眺めて由梨は震えそうになる。
そこには、彼氏のいる女の子なら必要なカレンダーアプリ。
前回はクリスマス前に来ていた、月のもの。それが、まだ来てない。身に覚えならたっぷりとある…。
しかし…。まさかそんな事があるのか…。人間のその確率はそれほど高くないはず。
由梨の動揺もよそに、そのカレンダーは『妊娠の可能性あり』と出ている。
(わかってるよ、わかってる…)
重い気持ちで階下に下りていくと、マタニティ用の服を買ってきた亜弥がタグを切っていた。
思わずまじまじと見てしまう。
「みて、由梨。今のマタニティ服っておしゃれだよね、これとか産後も着れるんだって」
「すごいねぇ~」
と、返事をして由梨はキッチンに入って炭酸水をだした。
「結婚式、つわりが落ち着いた時期で良かったわね」
「本当~」
そんな二人を横目に通りすぎようとすると、
「由梨、あなた来てないんじゃない?」
と美香子が言ってきた。
「何の事?」
「前はクリスマス前だったでしょ?ずいぶん遅れてるじゃない」
(母…鋭い)
「由梨、私、2本入りの買ったの。一本残ってるよ」
何の事かピンときたらしい亜弥は美香子と由梨の会話を聞いて、部屋に足早に向かっていく。
「亜弥、ゆっくりね」
「はーい」
亜弥は降りるときは慎重に降りてきた。
有無を言わさず、箱を手渡した。
「はい、これ。簡単よ、ここにかけるだけだから。早速使って来たら?由梨は早い方がいいよ、正式に婚約はしてないんだから」
亜弥に渡されて由梨はそのスティックを持ってすごすごとトイレに入った。
そして、そのスティックと共にトイレに籠って10分。
「由梨、大丈夫?」
美香子の声に由梨はおそるおそる外に出た。
ホルダーの上に置いたままのそれを、美香子は手に取った。
「ほら、やっぱり」
「…はい…」
「明日は貴哉くんも来るんだし、ちゃんと報告、しなさいよ?」
「…はい」
(…ほんとに…ほんとに…いるの?)
そっとお腹に触れてみる。触ってみても当たり前だけど返事はない。確かに熱っぽいようだし、むかむかもしてる。気のせいって言えばそれくらいの変化。
先月はストーカーに悩まされたり、渉に会ったり、家を見に行ったりと由梨にとっては色々と事件があり、時々遅れる事もあったが、さすがに2週間以上遅れることはなかった。
でも、まさかじゃない?
そのカレンダーを見ると、確かに危険日に、シてしまってるわけで。それは由梨も、わかってるけれど…
もし、本当に出来てるなら、9月頃には産まれちゃう訳で…。由梨は…奥さんで…お母さんで…。
(なんだか…怖い…)
全てがジェットコースターのように、由梨を乗せて走ってる。そんな気がしてしまう。
貴哉の事はとても好きだし、文句のつけようのない彼。こんなに短い期間で…本当に良いの?
けれど…現実はそこまで来ていて、何よりもし出来ていたら産む以外には選択しない。貴哉と会うのは明日…。
(…明日…!)
由梨はがばっと身を起こした。
「お姉ちゃん」
由梨は亜弥の元へ向かった。
「お姉ちゃんの行ってる病院ってまだ間に合うよね?」
「あ、今から行くの?」
「くよくよするよりも、行って確かめる」
「あら、じゃあお母さんが一緒に行ってあげる。そんな動揺したまま運転しちゃダメ」
由梨は母と共に病院に向かう。
当たり前だけど、待ち合いにいるのは女性と妊婦さんばかりだ。
由梨は問診に記入して、その時を待った。
医師に話をして、服を脱いで椅子に座ると、台が上がると脚台が脚を開くようになる。
モニターの画面を向けられて、
「花村さん、見えますか?」
「はい」
「ここに、しっかりと写ってますね。心臓もちゃんとチカチカしてるし、元気みたいね」
まだ丸い中に人の形にもよくよく見えるような…そんな姿。
「…ん?もしかして双子かな?」
「双子?」
「来週にははっきりするかな」
診察室に戻ると、
「胎のうと心拍がふたつ写ってたから、双子だと思いますよ。花村さんは、まだ結婚はしてないようね。早く話し合わないと、双子だと早くにお腹も大きくなるし、色々なリスクもあるから」
「あ、はい」
何もかもが呆然とすることの連続で、
エコーの写真をもらい、由梨は母の元へ向かった。
「どうだった?」
「うん…なんだかね、もしかすると双子みたい」
「えー?双子?」
「凄いじゃない」
今はまだスゴいより、戸惑いの方が大きい。
「…どうしよう…」
「なにが、どうしようよ。しっかりするの。しなくちゃ、ね?お母さんも、お父さんもまだまだ元気よ。手伝うから、安心しなさい」
安心しなさいと言われても、母が変わりに産めるわけではないのに。貴哉は早くから結婚を意識していたと由梨は思うけれど、本当に急がなくてはいけなくなってどう思うだろう?
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