第28話 翻弄
お正月に行った紺野家も、こちらの貴哉の暮らす部屋もどちらもとても衝撃的だ。
あちらは豪華すぎて、こちらは物が無さすぎる。
「男のひとり暮らしなんてこんなものだよ」
「そうなんですか…」
ソファに座ると、
「シャワーはいってくるから、ちょっと待ってて」
タブレットを出すと
「TVでも見てる?」
「あ、はい」
何もついてないと、そわそわしてしまいそうだ。
タブレットを操作して、TVをつけてくれる。TVを見たいわけではないけれど目のやり場がなく、なんの番組かも頭に入らないくらい眺めるのみだ。
少しして、貴哉が濡れた髪のまま出てくると、その色っぽさにくらくらしてしまう。
自分の部屋と言うことで、いつもより寛いだ雰囲気なのだ。
「由梨も、入るだろ?」
「あ、はい」
「着るの持ってきてる?」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ、タオル」
と渡される。
男の人って…こんなに甲斐甲斐しいのかな…。
「どうかした?ちゃんと、洗ってあるよそれ」
くすっと笑われて由梨は慌ててバスルームを借りる。
(どうしよ…今さら、だけど恥ずかしいかも…)
貴哉のバスルームは、彼の匂いがするし、お風呂を使ったあと、由梨はどうするべきなのだろう…。貴哉が綺麗にしすぎてて戸惑う。
(髪とか…絶対落ちちゃうし…)
由梨は出来るだけ最後綺麗にして、バスルームを出てドライヤーを使う。
そうっと、部屋に戻るとソファは足おきが長く伸ばされていて、貴哉はそこに寛ぎつつビールを飲んでタブレットを見ていた。
ちょこんと、由梨は床に座ると
「なんでそこ?」
貴哉に笑われて、由梨は腕を引かれて貴哉のそばに座り直す。
「ちょっと、画面小さいけど、なんか見ようか」
貴哉が映画の見放題リストの中から探している。
「あ、それ、見たいです」
「これ?」
由梨が示したのは、洋画であった。
「よいしょ」
貴哉がテーブルにタブレットを置いて、由梨を傍らにして映画を見始める。
前に一緒に見た映画はヒューマンドラマだったけど、今度は恋愛物を選んでみた。少しのコメディ要素もあり、楽しく見れた。
疲れたのか、途中から貴哉は眠りに落ちていた。
由梨は、回りを見回して、布団を探す。
少しさわると、背もたれが倒れてフラットになりそうで、由梨は貴哉を起こさないように動かした。
(ちょっと…残念…)
微かな寝息をたてて眠る貴哉は何だかとても、可愛く見えた。
***
「あ…」
短い叫び声がして、由梨はうっすらと目を開けた。
貴哉が寝てしまったので、由梨もその隣に横になりいつの間にか眠っていたのだ
「やべ…俺、寝てたな…」
しまった、と言うように前髪をかきあげている。
「最悪だな、俺」
「疲れてたんじゃないですか?」
「せっかく…由梨と過ごしてたのに」
体温で温まったベッドの中で、ぎゅっと抱き締められる。
「由梨は…いつも俺に文句とか、言わないな…」
「そうでしたっけ?」
「うん」
「貴哉さんがいつも、私を大事にしてくれてるから、文句を言えないんじゃないですか?」
由梨は小さく笑った。
「俺はやっぱり由梨の笑顔が好きだな…」
軽くキスをされて、由梨はうつらとしながら微笑んでキスを返した。
「そんな事をしたら、止まらなくなるけど?」
由梨はそっと目を開けた。
「ん…止めないで…」
ぼんやりとしているからかついそんな事を言ってしまった。
由梨は貴哉の背に腕を回した。
「…ここ薄くなったな」
そこは、貴哉のつけた所有印のあった胸の谷間である。
同じ場所をまたきつく吸われて由梨は、吐息を漏らした。
貴哉のキスが、由梨の唇からはじまり、あちこちに散っていく。
次第に由梨の息は荒くなり、時おり喘ぎが漏れ出す。
「あっ…!」
由梨が身を震わせた、その時である。
部屋の壁に何かぶつかる音と、隣で誰かが『うるせぇ』と叫ぶ声がして、由梨は口を塞ぎ、貴哉は動きを止めた。
「わ、私…そんなにうるさかったですか…!」
恥ずかしくなり、聞くと
「いや…もっと出させたいくらいだけどな…」
貴哉はそう言うと、その壁がわに向かい、由梨の体にキスをしていく。
「や、ダメ。聞こえちゃう」
「だったら我慢して…」
「…やだ…こんなかっこ」
「こんな、ってどんな…?」
(やだ…完全に黒い貴哉さんになってる…)
わざわざ壁際で由梨は貴哉にさんざん翻弄される。
「…言ってみたら?」
くすっと笑みを交えた、艶っぽい声だ。けして大きくはない声なのに、由梨の耳を刺激してゾクゾクさせる。
「ぃ、や…」
「静かにしないと、聞こえてしまうよ隣に」
その声と共に激しくされて由梨は、我慢が出来なくなっていく。
「エロい声が聞かれるよ?…」
「やぁ…意地悪、しないで…」
わざとしているに違いない貴哉に由梨はひたすら翻弄されていく。
そこでくったりとするまで貴哉に攻められた由梨は、ようやくベッドに戻されて、またそこでも喘がされる。
その時には隣の事など由梨の脳裏には残っていなかった。
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