第13話 恋の悩み

まるで小説かドラマかというようなイヴの夜を過ごせば、もう年末がやって来る。

貴哉の会社はすぐ側なのに、クリスマス以来会うことも電話のタイミングも合わず話すことすらままならない。


「…はぁ…」

由梨のついたため息は、思った以上に深く大きかった。

その時はちょうど、採血の準備をしていた。そんなため息を聞き付けた結愛は

「なぁに~色っぽい顔しちゃって」

と検体をボックスになおしながら由梨の顔を覗きこんだ。


「あの、イケメン彼の悩み?ランチでも一緒にしよっか?」

「なになに?花村さんのノロケでも聞かせてくれるの?」

ちょうど点滴の準備をしにきた夏菜子も話に入ってきた。


「花村さんはいつもお弁当だよね?私たちも何か買ってきて一緒に食べよ」

結愛がワクワクといった顔でこれで決まり!という雰囲気である。


ソノダクリニックは1時頃に午前の診察が終わり、夜の診察は4時から始まる。


つまり、その間は休憩となり仕事のないときは自由になる。

そんなわけで、たっぷりとある休み時間を由梨は夏菜子と結愛とスタッフルームで過ごすことになったのだ。


受付事務のスタッフたちは外出していて、この日は3人だけであった。

由梨はお弁当を広げて、夏菜子と結愛は近くのランチのテイクアウトを買って帰ってきた。


「で?」


「で、って…」

「その、なんともいえない色っぽいため息は、彼とついにしちゃったからなんでしょっ!」

ふふふっと笑いながら結愛がいってきて、由梨は頬を染めながら


「それは、そうなんですけど…」

隠しきれてないのかと暴露する。

「花村さんはそれで、なんで悩んでるの?良くなかった?イケメンなのにもしかして、下手くそ?」

夏菜子がズバリ踏み込んできた。


「それは…ものすごく…良かったんです…」


かぁっと、赤くなりながら由梨はついポロリと漏らした。

「だから…会社はこんな近くにあるのに…そこで働いてるのに、なかなか会えないと思ったらつい、ため息が」

「会いたくて仕方ないってやつね!ときめくわ」

結愛はしなをつくってくねらせる。


「あと…それと…」

躊躇いつつ由梨が言い出すと

「なに?この際言っちゃいなさいよ」


由梨はその時は気づかず、思い返すと、あれ?と思った事がある。


「アレを着けずに…だったと思うんです。後から思えば…」

「つまりは避けてくれなかったの?」

夏菜子がヒソヒソと言い、由梨は頷いた。


何せその時は貴哉は素敵で、由梨は彼に夢中だしそんな事は脳裏をよぎらなかった。けれど翌日、少しだけ冷静になってみるとそうだったと思うのだ。

何回かいたしたうちの一回は確実にそうで…つまりは後のも、そうであろうと思われた。


「水川さんは…相手はちゃんとしてくれてましたか?」

「そこは私もビシッと言えなかったかな…」

「私は言うよ!まだ出来たら困るもの」


「結婚とか約束はしてるの?」

「それは…何て言うか、結婚を前提に付き合いましょうって…」

「はぁーなら、彼は出来ても良いって思ってるんじゃないの?」

「でも…のろければつもりはないんですけど…あんなに格好いいのに…どうしてっ?て思うんですよね…出会ってから間もないし…変な事を聞いて…嫌われたらと思うと」

「そっか…さらりと言えるキャラでもないよね。花村さんも」


「うーん?私たちも彼は一瞬みたくらいだしね…、あ、慎一に聞いたらいいのか」

夏菜子があっ、とスマホを手に取った。

「慎一?」

「この間、彼が合コンセッティングしてくれたでしょ?その彼の先輩なんだって」


「いえいえ!そんな!ダメですよ」

由梨は焦って止めた。

まさか貴哉の先輩にこんな事を聞いてもらうわけにはいかない。

「…よね…」


「花村さんが、望まないなら、薬ピルとかって言う手もあるんじゃない?」


結愛が言うと、

「花村さんが気になるのは、彼の真意でしょ?」

夏菜子がそう代弁してくれる。

「あぁ…そっか…」


「もうちょっと待ってみたら?次に会うときの様子をまた聞かせてよ」

ねっ、と結愛が

「悠太にも彼の会社での様子聞いておくから~」


「ありがとうございます」


結局、会えないまま由梨は実家で大晦日を迎えたのだった…。

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