第4話 (貴哉 office ①)

加島 優菜は、営業課の事務でその中でも、社内で営業成績第一位という同期入社の紺野 貴哉のサポートとして、忙しい彼の事務作業を引き受けている。


外回りから帰って来た彼の席には山のように書類が積み重なり、貴哉が処理するともに優菜も処理をしていく。

その作業には本当に泣けてくる。

第一位、というからには、やはりその仕事量は半端ないのだ。


「加島さん、これも」

「は、はい~」

「ほら、甘いもの置いてあるから、頑張ってな」


これは決して、彼が優しい訳ではなくて優菜をキリキリ働かせるための賄賂だと今ではわかっている。


パソコンに向かい鬼のように仕事をしていると、近くの貴哉のスマホが一回だけ鳴る。


貴哉の仕事用の携帯ならジャンジャンなるが、プライベートのは珍しいな、と横目で見ていると、なんと貴哉はそっと席を立ってかけ直しているようだ。


残業中の営業課が、そんな珍しい光景にビシッとカタマる。仕事でもないのに、貴哉がかけ直すなんて本当に初めて見たかも知れない。


そんな聞き耳をたてられているそんな空気の中、貴哉は


「もしもし?由梨さん」


と聞いたことのない優しい声で話し出したではないか!


(おいおい、誰だよオマエ)


くらいの変貌ぶりである。

「俺はまだ仕事終わらないんだ。明日は早く終わらせるから、ご飯でもどう?」


すると相手が何か言ったのか

「うん、じゃあ。駅に着いたらまた電話して」

と言って切った。


振り返った貴哉と優菜はばっちり目が合ってしまう。


「よそ見してると、帰りがもっと遅くなるけど?」

冷たく言い放たれて優菜は飛び上がった。

「す、すぐにやります!!」


「紺野、彼女が出来たのか~?」

課長の黒田 修平がからかうように言っているが

「はい」


淡々と答えているのに、優菜は素直に驚いた。

こんな風に明らかにするなんて、一体どうしたと言うのだ…。


「先輩、どこの人ですか?会社内?取引先?」

後輩の下島 悠太がわくわくと聞いているが

「…社外」


まるで冷凍ブリザードのように冷たい響きだ。


貴哉はとても見た目はイケメンで、女子社員に人気があるのだか、ある日ランチに誘われた貴哉は


「もしかして、付き合いたいとか思ってる?」

といきなり言い、戸惑う彼女らを前に

「ランチに付き合ったら俺にいくら払うわけ?」

と、どサイテーな事を言ってのけて。


それ以来、その噂が広まり、彼はイケメンにも関わらず女子社員に敬遠されているのだ。

そんな奴ではあるが、取引先では実にそつなく振る舞っている、らしい。


しかし、彼も入社してしばらくは同期の来宮きのみや 初夏ういかと付き合っていた事は知っている。

なぜなら同期だから。しかし、半年も持たなかったことも知っている…。


そんなサイテーブリザードな男が、あんなに優しい声を出すなんて…。

相手の彼女はきっと騙されているに違いない。


(…うう、お悔やみ申し上げます…)


きっと貴哉は本性を隠して付き合ってるに違いない。何せ見かけだけは上質だから…。

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