第12話

 そこで男と別れ、ルーは通りをツァカタン神殿にむかって歩いた。夕暮れになって出歩くなという意味を考えてみたが、夕暮れてみないとわからないことだった。


 胸元からごそごそと土人形がはいでてきた。土人形はいままでの不在をわびるふうもなく、きょろきょろとあたりを見回し、ルーに話しかけた。


「春ひさぎは?」

「いまさがしてるとこだよ、あってどうすればいいのか、教えてくれないと」

「わかっていることでしょう? することはひとつだけじゃないですか」


 オムホロスのこたえに、ルーは肩をすくめた。


「なんて野暮ないいかたなんだろう。恋人かそれ以上の娘じゃなかったのか?」


 オムホロスは表情のない頭をふって、「べつにあなたが考えているような関係ではないですよ? 気にしてどうするんですか?」


「ふつうは気になるだろう? それなりに対応だってかえなけりゃ」

「春ひさぎですから、終えたら金子でも与えればいいのです」


 オムホロスは、ルーがなにを気にしているのか理解できぬとでもいいたげなようすで吐き捨てた。


 ルーはため息をつくと、「いままでなにしてたんだ?」


「いろいろとね……こちらは用意万端ですよ。日が沈まないうちにすませてしまいましょう」

「さっきのカタルガ人もいってたけど、日が沈むとどうなるんだ?」

「ツァカタンは報酬をもとめる神です。報酬はなにも金や食べ物だけではありません。ツァカタン神は、このカタルガが平和であれ、という国民の願いを聞き届けてやるのに、その人口の摘取を実行しているのです」

「だから?」


 ルーは視線を通りの横路地に走らせながらたずねた。


「夕方歩いてみなさい。すぐにわかりますよ」


 オムホロスは、ルーにとって辛抱強い教育者ではなかった。ルーは肩をすくめると、「そうしてみるよ」とこたえた。






‡‡‡






 地図から顔を起こして、オムホロスは魔法使いを横目で素早くみやった。マスターは試験管のなかを遊泳する細胞に悦々と見入っていた。


 オムホロスはとらえておいた鼠を結界のなかで殺し、自分の身体にその血をぬすくりつけた。眉間と心臓のうえに印をつけ、自分の気配を鼠のそれとおきかえた。鼠の死骸を、この日のために隠しておいた、自分の人形の体のなかに放りこんだ。


 ミドリフウキンチョウを肩にとまらせ、地図を丸めて腰にさし、こっそりと研究室を抜けだした。


 石殿の廊下をひたひたとひた走り、夕暮れのなかへと忍び込んでいく。


 風に葉がざわめき、樹木の輪郭がわさわさと波打った。ぼんやりと紫がかるオムホロスの姿が、密林のなかへとまぎれて消えていった。







 ルーは人通りの絶えない通りにたち、くまなくその注意を張り巡らせた。ひさぎ女らしき人影は、どの家屋の陰にも見当たらない。なかばあきらめかけ、手持ちの金をつかって別の楽しみをみいだそうと決めた。


 ふいにすそをつかまれ、よろけかけて足元を振り返った。どこに隠れていたのか、切れ長の目をしたおさな顔のひさぎ女が、にっこりと微笑みかけてきた。ルーもひきつった笑みを返した。


 少女は明るい砂色のまえ髪を目のうえでかりそろえ、まっすぐに胸までたらしていた。


 初潮のこない、女の匂いもしないような幼い少女が、ルーには性のない生き物にみえた。


 明るいクジャク色の目の青いくまどりが、かえって淫猥な印象を与えた。赤い唇がうっすらと開かれ、小さな白い歯がのぞいた。


 ルーはにわかにその気になるのを感じた。すそをひかれるまま、よろよろとせまい路地のなかへはいっていった。







 いまやオムホロスはゴドウのまえにたち、ミドリフウキンチョウは肩から飛び去った。


 そのときがきたのだと、オムホロスは傷の癒えた肌をゴドウのまえにさらした。


 少年の若々しい肉体に乳房が上向きにそなわり、下萌えの奥に隠された秘所がゴドウがくるのをすでに待ちうけていた。


 鋭くひきつった表情のゴドウが、じりじりとオムホロスに近寄り、オムホロスの筋肉で引き締まった腰を両手でつつみこんだ。


 オムホロスはひざを折り、キメラの金色の瞳をのぞきこんだ。


 荒々しい口づけを歯と血で交わし、オムホロスはゴドウの血を存分にすすった。口腔にひろがるさびついた味に、ゴドウの息吹がひそんでいる。からみあう舌に歯をたて、お互いの唇を血まみれにしていった。


 ゴドウにきざみつけられていく肢体の刻印を、みずからも返し、オスキメラの黒い肉体に赤い血がしたたった。


 力づくで組み敷くのはオムホロスであり、ゴドウでもあった。







 春ひさぎの少女は、家屋にたてかけられた木材の横に座りこみ、すそをからげて、下萌えを剃ったあらわな淡いピンク色の陰部を、無邪気にさらけだした。


 ルーはひざまずき、少女の襟元をぐいと開くと、なめらかな胸元を右手でまさぐった。


 ルーは少女の首筋に舌をはわせた。舌先にぴりぴりと塩気を感じる。左手でその陰部を開いた。


 しかし、少女はただ静かに呼吸し、呆然と宙をみつめるのみ。


 ルーは腰のファルスを右手にもちかえ、少女のやわらかな女性器にぐっと突きいれた。それは抵抗もなく、深々とはいっていった。ルーはうんともすんともいわない少女を、不審げな目でみやった。




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