恨み貯金で大金持ち計画!

ちびまるフォイ

恨み貯金をためてみようぜ!

「ねぇ、あんた俺を殴ってくれないか」


「え、そういう趣味?」


「いいから頼むよ。この現代社会でストレスたまってるだろ?」


言われるままに男をぶん殴ると、男は逆ギレしてつかみかかって来た。


「てめぇ!! 痛てぇじゃねぇか!!」


「殴れって言ったのそっちだよ!?」


まっとうなツッコミを入れると男はすぐにスマホを確認してガッツポーズ。

理由を聞いてみると、恨みバンクというのがあるらしい。


「恨みを貯金するのさ。今月ぴんちだったから助かったよ。

 あんたにめっちゃむかついたから、金が口座に振り込んでた」


「すごいな……」


男は鼻血を流したままどこかへ行ってしまった。

俺はさっそく恨みバンクに登録してみることにした。


登録するとすぐに口座にお金が貯まった。


>上司に対しての普段の恨み:1万円


「おお、本当に恨みで金がたまるのか! すげぇな!」


上司とは折り合いが悪く、口げんかこそしないものの不満は募っていた。

その恨みがこうしてお金になるのなら、報われた気になる。

不思議とムカついていた上司にも腹が立たなくなっていた。




数日もすると、俺はすっかり恨みバンクの虜になっていた。


「お前のプリン、名前書いてあったから、お腹減ってないけど食べてやったぜ!」


およそ外道と言われる行動は進んで行った。友達なんていない。

だからこそ、誰の迷惑を考える必要もなく恨みを買い続けた。


口座の預金が貯まると自分の好きなものを買いあさる。


「わっはっは!! どうして今まで恨みを心にしか溜めなかったんだろう!

 こうして口座に貯めればもっと最高な人生を過ごせるのに!」


この調子でガンガン稼げば、札束風呂も夢ではない。

俺はますます恨みを買い続けた。


そんなある日、家に通知が届いた。



>謝金の返済がおこなわれていません。



「な、なんだこれ……しゃっ……きん?」


通知を読み進めていると、俺の謝金の返済が滞っていたために

恨みバンクの口座から全部使って言ってしまったとのこと。


「そんな!? 俺の大金持ち計画がぁ!!」


口座に残っているのは、謝金だけ。これでもまだ返済できてないのが恐ろしい。

いったい何をしでかしてしまったんだ。



>人に迷惑をかけると謝金が発生します、

 謝金は迷惑をかけられた人にお支払いされる迷惑料です。



「そんなの知るかぁぁ!!」


まだ残っている謝金はどんどん利子が増えている。

返済のために恨み貯金をしようにも、謝金が増えたら元も子もない。


「いったいどうすれば……ってまてよ?

 謝金の回収を逆に利用することはできないか?」


追い詰められた人間は何を考えるかわからない。

俺もそのうちの一人なのだろう。

神がかり的なアイデアが降ってわいた。


さっそく、「なんでも屋」の男を雇った。


「で、旦那。あっしは何をすればいいんで?」


「これから俺は謝金を返済せずに逃げるからその手伝いをしてくれ。

 そして、謝金の回収者がイライラして恨みが貯まったころに……。

 そいうの口座から恨み貯金を盗む」


「奪う側から逆に奪っちまおうという話ですか」


「ククク……我ながら恐ろしいことを思いつく……!」


男に協力してもらって、謝金取りから逃げる日々がはじまった。

口座が奪われないようにも工夫して、謝金取りから逃げること数日。


「また逃げやがった! いったいどこへいった!!」


「ふふふ……怒ってる怒ってる……」


謝金取りは足取りがつかめないことにいら立っていた。

俺にたいしてのうらみがどんどんたまっているに違いない。


「よし、そろそろ盗む頃合いだろう。作戦通りたのむ」


「へい、お任せください。なんでも屋は、依頼者の更生をお手伝いする仕事ですから」


男は謝金取りの口座から恨み貯金を盗みに向かった。

戻りが遅いので心配になって電話した。


「もしもし? どうだ? 上手くいったか?」


『へい。手間取りましたが、回収に成功しました』


「よし、それじゃ戻ってこい」


電話を切って、男が戻るのをウキウキしながら待っていた。

けれど、待てど暮らせど男はいっこうに戻ってこない。


ここでやっと自分のバカさ加減に気が付いた。


「って、あいつが裏切る可能性考えてなかった!! ちくしょおお!!」



※ ※ ※



『もしもし? どうだ? 上手くいったか?』


「へい。手間取りましたが、回収に成功しました」


『よし、それじゃ戻ってこい』


電話が切れると、なんでも屋の男は口座には寄らずにその場を離れる。

これも本当の作戦のうちだ。


自分が盗まずに姿を消せば、依頼者はきっと恨みが貯まるにちがいない。

ゴール目前にして裏切られたのだから。


そうすれば、きっと恨み貯金が貯まって返済もできるし、お釣りも来る。


「なんでも屋は依頼者の更生を手助けする稼業。

 依頼者のためには、憎まれ役もやらなくっちゃなぁ」


きっと今頃は怒り狂ったと同時に、お金を手に入れて返済しているだろう。

どうかお幸せに……。






男が静かに歩いていると、前から顔を真っ赤にした依頼者がやってきた。


「見つけたぞこらーー!! よくも裏切ったなぁ!!

 どんな手を使ってでもかならず追い詰めてやるーー!!!」


依頼者はたまった恨み貯金を男の追跡費用にすべて使ってしまっていた。

もう依頼者の頭には男を追いつめることしかなくなっていた。

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