夜に抱かれて

第60話 疑問の答え

「それで、話というのは?」


「あ、あの……」


一度、深呼吸してから聞いた。


「秘書の立花さんとは、どういう関係なんですか?」


「……」


少しの間、流れる沈黙。


「今日は、それを聞くために?」


私は、小さく頷いた。


「そんなに気になりますか、葵とのことが?」


(葵……。やっぱり呼び捨てなんだ……)


自分で切り出したくせに、この先の答えを聞くのが、怖くなってくる。やっぱり、今日会わなければ良かったと思ってしまうような弱い気持ちを押し込めて言う。


「夜、二人で社長の車に乗っているのも見ました。仕事の関係だったのかもしれませんけど……。それから、立花さんが営業フロアに、わざわざ下りて来て、私のところに来たこともあります」


私は、一気に言い切って、社長の答えを待った。少しだけ間があった後、東条社長が話し始める。


「私にとって、葵は……」


緊張で、心拍数が上がっていく。


その時、部屋の入り口のドアがノックされた。東条社長が立ち上がり、リビングを出て行く。


さっき社長が頼んだルームサービスが来たようで、赤ワインのボトルとオレンジジュースが来た。社長は、それらをテーブルに置く。


「どうぞ」


グラスに入ったオレンジジュースが目の前に置かれた。それから社長はワインを開け、グラスに注ぐ。私のグラスと軽く乾杯した後、社長が再び口を開いた。


「私にとって、葵は、大切なパートナーです」


ズキッと胸が痛む。


「それは、やっぱり……付き合ってるってことですよね?」


膝の上の両手をぎゅっと握って聞いた。


すると、東条社長は答える。


「仕事のパートナーという意味です。私と葵の関係は、社長と秘書です。それ以上でも以下でもない」


「……」


きっぱりと言い切った彼に、力が抜けていった。


「葵と特別な関係だと思っていたんですね」


「……すごく親密そうだったから、そうなのかなって不安だったんです」


私の言葉に、東条社長はワインを一口飲むと言う。


「葵とは、男女の関係になることがありえません」


そんなにきっぱり言い切ってくれるのは嬉しいけど。あんな美人な人なのに、何でそんなに言い切れるんだろう?


「誤解が解けましたか?」


「あ……は、はい」


葵さんのことは分かった。


でも、もう一つ……。


「葵さんのことは、分かりました。あの、それから……」


「まだ何か?」


菜々美のことが、どうしても気になる。


葵さんのこと以上に聞くのが怖い。


でも、今夜を逃すと、もう聞けないような気がするんだよね。


「……営業部の白石さんって、分かりますか?」


たどたどしく聞いた私に、社長が言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る