第57話 新たな疑惑

「今なら話を聞けますよ」


え……電話で?


電話で済ませたくない。


「あの……電話じゃなくて、ちゃんと会って話したいんです」


「会って、ですか」


「はい……」


「会ってとなると、もう少し先になってしまいますが、それでも構いませんか?」


「大丈夫です」


「では、二日後の金曜日。綾瀬さんの仕事が終わってから、車で迎えに行きます」


「分かりました」


「それでは、また」


そう言うと、東条社長からの電話は切れた。


「また、金曜日か……」


ふと呟く。


最初のバレンタインから始まって、金曜日の夜に、私達は会っている。


東条社長は……休みの日には、何をしているんだろう?休みの日でも、仕事が入っているんだろうか?そんな時も、あるよね。私みたいに決まった時間に働くってわけじゃないと思うし。


だけど、もちろん仕事のない日だってあるわけで。そんな時、彼は誰と過ごすんだろう……?



そして、金曜日。


「お先に失礼します」


夕方の6時半過ぎ、私は挨拶をして、退社する。


今日のお昼頃、社長から、また電話があって、遅くなるだろうから、ご飯を済ませておいた方がいいと言われた。


「どこで食べよう?」


街を歩きながら迷った後、私は、前から気になっていたけど、まだ一度も入ったことがない洋食のお店に入ってみることにした。


店内は程よく照明を落としていて、オレンジがかった明かりが、どこか優しい。店員に案内された席に座り、注文をしてから、手を洗おうと化粧室のある店内奥へ向かっていると。


「あ……」


一番奥のテーブルに、佐倉さんと菜々美が座っているのに気付いた。


「菜々……」


二人に声を掛けようとしたけど。


「何で、お前、綾瀬を止めないんだよ?」


怒りを含んだ佐倉さんの声に、言葉を飲み込んでしまう。


「そんな話をするために、今日誘ったの?」


菜々美は、そう言うと、赤ワインの入ったワイングラスを傾けた。


「お前……綾瀬の友達だよな?」


佐倉さんの言葉に、菜々美はワイングラスを口から離すと、クスリと笑う。


「なに、その言い方。なんか高校生みたいね、佐倉」


さらりと流すような菜々美の態度に、佐倉さんは真剣な眼差しで言った。


「真面目に聞いてんだよ」


菜々美はワイングラスをテーブルに置くと答える。


「友達だよ。一番大切な」


「だったら、何で東条とのこと止めないんだよ?お前だって、過去にあんな傷ついて……!」


菜々美の言葉に、佐倉さんが語気を強めた。


(過去にあんな傷ついて……?)


一体、何のことを言ってるの?


まさか……菜々美も、東条社長と何か関係があった?


思わぬ話の流れに、二人の話を聞き入ってしまう。

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