第45話 夜景を見ながら

「社長と同じものを……」


こう言えば、無難だよね?


「分かりました」


彼は軽く手を挙げると、近くにいたウェイターを呼んだ。


「オルトのコースを二つ。セコンド・ピアットに、牛フィレ肉のマルサラソース。ドルチェは、チョコレートのカッサータを」


「食後のお飲み物は、いかがなさいますか?」


ウェイターの言葉に、社長がこちらに視線を送ってきたので、私は答える。


「あの、紅茶でお願いします」


「私はエスプレッソを」


「かしこまりました」


ウェイターは頭を下げると、テーブルを去った。


「本当は赤ワインでも開けたいところですが、今日は運転が有りますからね」


「そうですね」


「この店は、イタリアに本店があるんです。この店のシェフは、以前その本店に勤めていたので、味は確かですよ」


「そうなんですか、すごく楽しみです!」


私は、もう一度窓の外の夜景に目を向けた。


「あれ?さっきと色が変わってる」


ブリッジのライトアップの光の色が、最初見た時と違う色になっている。


「そう。あの光は、時間毎に色が変わるんですよ」


「そうなんですね!ほんとに綺麗……」


高層のグランドスクエアから見えた夜景も、すごく綺麗だったけど、このレストランから見える夜景も、ずっと見てて飽きないくらい綺麗。


うっとりと風景に見とれていると、食前酒や前菜が運ばれて来た。



(美味しい!)


バルサミコ酢風味のマグロのカルパッチョもすごく美味しいし、スモークサーモンとホタテのテリーヌも美味しい。思わずあっという間に、前菜を食べてしまった。


(あ……普通に食べちゃったよ!何か話をしなきゃ)


「あの……東条社長は、ここにはよく来るんですか?」


そう聞くと、彼の瞳が私に向けられる。黒い夜のような瞳を仄かにキャンドルの灯りが照らしている。


「初めは、仕事でこのリストランテを使ったんです。それからは、個人的にも来ていますよ。頻繁と言えるほどではありませんが」


そう言いながら、彼はとても慣れた手付きで、ナイフとフォークを扱う。


きっと、いつも、こういうところで食べてるんだろうな……。



それから、私達の食事の速度に合わせて、パスタや肉のグリルが運ばれて。


最後のドルチェが、テーブルに並べられた。それは周りにベリーソースが散らしてあるチョコレートケーキのようなもの。


(あ、これ美味しい!)


カッサータって名前だけ聞いた時は、何か分からなかったけど、食べて分かった。


アイスケーキだ。


「ドルチェといえば、ティラミスやジェラートがありますが、カッサータも美味しいでしょう?」


「はい、すごく美味しいですね!」


「チョコレートとも良く合う」


そう言って、東条社長は微笑む。

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