第44話 ホテルディナー

車をホテルの駐車場に止めると、正面エントランスから建物に入る。社長の隣に並んで歩いていくと、レストランの入り口が見えてきた。


「東条様、いらっしゃいませ」


社長に気付いた黒いベスト姿のウェイトレスが、頭を下げる。


「予約は入れていませんが、席はありますか?」


「はい、ございます。窓際の席をご案内いたします。お荷物をお預かりいたしましょうか?」


社長がコートを脱いで、彼女に手渡したので、私もコートを脱いで手渡した。



(良かった、今日はまともな服で!)


前に、急にバーに行った時は、何の飾りもない紺のカーディガンに白いブラウスっていう地味な服装だったから。また急に誘われてもいいように、あれからは服装に気を使っていた。


今日は、腰回りに淡いピンクのリボンがついたオフホワイトのワンピースに、リボンと色の似たカーディガンを着てる。


「どうぞ、こちらに」


ウェイトレスの後に続いて、私達はレストランフロアに入っていった。


「わぁ……!」


フロアに入って、思わずため息が漏れる。


海側に面した広いガラス越しには、夜の闇の中で、海に架かるブリッジがライトアップされ、いくつも連なる美しい光を放っていた。


「いい眺めでしょう?」


ガラス越しに見える夜景に目を奪われた私に、社長が微笑む。


そして、案内された窓際の席に、私達は座った。


純白のテーブルクロスが、明かりを抑えた照明と、テーブルに置かれたオレンジ色のキャンドルに優しく照らされている。


「ここ、すごく素敵ですね!」


席についてからも、見たことのない広大で綺麗な夜景から目が離せなかった。


「夜景が好きな私から見ても、ここは本当に綺麗です。そして……」


社長がそう言った時、ウェイトレスが二冊のメニューを持ってきて、私達に手渡す。


「料理も美味しいですよ、とてもね」


彼の言葉に、ワクワクしながら茶色の革製のメニューを開いた。


(えっ……)


開いて少しして「イタリアン好きです」と言った自分が恥ずかしくなる。


(ここのメニュー、菜々美と行く店と全然違う)


内容も、値段も。


「綾瀬さんの好きなものをオーダーしてください。アラカルトでも、コースでも」


「は、はい……」


選べって言われても。原材料が知らないものだったり、ソースがどんなのか分からなかったり。


いずれにしても高い!コースの値段は、いつもの店と一桁違うよ……。


そう言えば、レストランの入り口に「リストランテ」って書いてたよな。記憶が正しければ、確か「リストランテ」って、イタリアレストランの中で一番格の高いものの名前じゃなかったっけ?


フレンチは高級で、イタリアンはカジュアルなイメージあったけど。高級になると、どれも高いんだな……。


「決まりましたか?」


「あ、あの、えーっと……」


こんな時は、こう言えば。

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