第40話 連絡

次の日。


私はずっとスマホの着信を気にしていた。不在着信は残ってるはずだけど、まだ社長から折り返しの電話はない。


ただでさえ彼のこと、いつも気になっていたのに。あれからは、いつ電話が掛かってくるかと、気になって仕方ない。



『期限は、二日かな』


菜々美の言葉が浮かんできた。


『忙しい立場だろうから、二日は待ってみようか。二日間の間に、向こうから電話がなかったら』


全く脈がないと思いなさい。菜々美は、そう言った。


二日間って、何の根拠があるのか分からないけど。恋愛経験豊富な菜々美に言われると、そうなのかなと思ってしまう。


普通の恋人同士なら、着信あったら、その日か、少なくとも次の日には、折り返しの連絡あると思うけど。社長っていう特殊な立場を考慮して、もう一日プラスって、そんなところかな?


まだ連絡ないから、社長がどう思ってるのか分からないけど……。


少なくとも、私の方は彼からの連絡が気になって仕方ない。


デスクの引き出しを少しだけ開けて、スマホの画面を確認する。


「ないな……」


落胆して、また引き出しを戻しかけた時、すぐ隣で女性の驚いた声が響いてきた。



「えっ!?今日中に用意しておいてって言った会議の資料ないの……!?」


一気に捲し立てられて、隣を見上げると、事務のお局的存在の楠田 敏子(くすだ としこ)が、吊り上がり気味の目を見開き、私を見下ろしている。


(えっ……?会議の資料?)


社長からの電話のことばかり考えていて、楠田さんに話しかけられたことに、全然気づかなかったみたいだ。


「あ、あの……その資料なら、ちゃんとあります!」


私は慌てて、デスクに立ててあった一つのファイルから、資料の束を取り出し、彼女に手渡す。


「何よ、あるじゃない」


楠田さんは、大袈裟にため息をついてみせた。


「あなた、ここのところ落ち着かないっていうか、仕事に集中してない感じがするわよ?どうなってるのよ?」


いきなり痛いところをつかれる。


それは100%社長とのことが関係してる。


でも、そんなこと言えないから……。



「すみません、ここのところ疲れがたまってて……」


何気なく言った私の言葉が、お局様の神経を刺激した。


「はぁ?疲れてる?ちょっと……そういうのはね、私みたいにバリバリ働いてる人が言う台詞でしょう?」


「……あ、はい。すみません」


「もう新人じゃないんだから、しっかりしてよね」


言いたいことだけ言い放つと、楠田さんは自分のデスクに戻って行った。


少しして、ニヤニヤ笑いを浮かべた菜々美が、私のところに来る。


「敏子様に小言くらった?」


私にだけ聞こえる小声で言ってきた。

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