第34話 忠告
「私から、なんです!」
「……綾瀬から?」
佐倉さんが眉根を寄せる。
「先週の金曜日、バレンタインでしたよね?あの日、社長に渡したんです、チョコを」
あの夜を思い出しながら、私は言った。
「昨日のことも、私が電話したから会うことになったんです。だから……」
佐倉さんの目を見る。
「社長が悪いんじゃないんです」
そう言うと、彼は、ため息をついた。
「綾瀬、一個質問あるんだけど」
「え。あ、はい……」
「お前ってさ。男と付き合ったことないの?」
「なっ……!?あ、ありますよ、付き合ったことくらい」
思ってもみない振りに、力を込めて否定した。
「経験が少ないのか、たまたまイイ奴に当たったのか」
独り言のように小さく呟いた後、佐倉さんが続ける。
「あのな……男なんて、好きじゃなくても、女の方から寄ってくれば、相手するもんだよ」
バッサリと、佐倉さんが言い放った。
「後で、綾瀬が『こんなはずじゃなかった』ってゴネても。相手は社長。そんなの都合のいいように揉み消されるのが、オチだ」
「……」
佐倉さんは……きっと、私のこと心配して言ってくれてるんだとは思う。
でも……そこまで言う?
東条社長とのことで、佐倉さんに、何か迷惑をかけた訳じゃないじゃない?
「綾瀬。つまんないことで、キャリアを棒に振るなよ……。まだ仕事始めて、2年。これからだろ?」
私の中で、少しだけ苛立ちが募っていくのも気づかずに、彼の言葉は突き刺さるように続く。
「もう今後、個人的に会うのは止めた方がいい。あくまで噂だけど、立花 葵とのこともある。ただ利用してるだけとも、付き合ってるとも言われてるけど。……とにかくお前が、そんなややこしい世界に、首を突っ込む必要なんてない」
いつになく、真剣な眼差しの佐倉さんから、私は視線を逸らした。
「……あの、佐倉さん」
「何だ?」
「心配してくれてるのは、嬉しいです。でも、これって、もうプライベートの範囲で……」
彼と視線を合わせないまま、続ける。
「仕事のこと言われるのは仕方ないと思います。だけど、恋愛のことまで、どうして言われなきゃいけないのかなって……」
「お前、それ本気で言ってる?」
「……」
顔を見なくても分かる。
佐倉さんは怒ってる。
「あの……何で、そこまで言うんですか?言い方が、あれですけど、佐倉さんには、そんなに関係な……」
そこまで言ったところで、佐倉さんの声が遮った。
「関係ある」
「……?」
ふと顔を上げて、彼を見る。
「関係あるよ」
もう一度、はっきりと彼が言った。
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