第32話 社長就任の経緯

菜々美が、そういう話題に持ち上がるのは、よく分かる。


でも、菜々美と並んで、私が対比されちゃうのが、すごく意外。私なんて、美人でも、仕事が出来るわけでも全くないのに。


「……お前、今、引いてるだろ?」


「え?いや、引いてはないんですけど。……菜々美は、ともかく、私なんかが、そういう話題に上がるのが信じられなくて」


「そうか?まぁ、男と女の視点は、違うからな」


そう言って、佐倉さんは、残りのビールを一気に飲んだ。


「でも、当然、菜々美が圧倒的に人気ですよね?」


「いや」


「……え」


「五分五分か、むしろ、綾瀬の方が人気」


「えぇ~!?」


私が、菜々美よりも、むしろ男の人に、人気って……あり得ないんだけど!?


「白石は、美人で、性格さっぱりして。営業の仕事もソツなくこなして、イイ女だと思うよ。オレも」


うん、私も思う。


「で、綾瀬は、対照的。白石みたいに、ガンガン表に出るタイプじゃないけど。いると、その場が和む」


佐倉さんが、優しい視線で、私を見る。


「仕事で失敗しても、カバーしてやりたくなる。足りない部分を助けたいっていうか……」


そこまで言った時、佐倉さんは、ちょっと慌てて、言い直した。


「あっ、いや……これは、みんなの意見であって!オレ個人のじゃないからなっ」


「……え、はい」


そんな全力否定しなくても……。


「まぁ、そんだけ、綾瀬は、噂になるような存在だってことだよ」


自分じゃ、すっごく地味な人間だと思ってたのに。信じられない……。


私が、ビックリしている間に、佐倉さんは、店員を呼んで、注文の追加する。


「生と、オレンジジュース追加」


「……あの?」


「顔、結構赤いぞ?そろそろキツいだろ?」


佐倉さんが、私のカクテルグラスを見て、言った。


「あ……ありがとうございます」


ちゃんと、私のこと見てくれてるんだなぁ。


こういう気遣いが、すごいと思う。


営業をしてるから、そうなのか、元々そういう人なのか。両方、かな。


「まぁ、社内で噂と言えば。一番は、アイツだよな」


不意に、冷静さを帯びた佐倉さんの声が、響く。



「東条社長」


鼓動が、とくんと波打った。


確かに、社内で一番の噂の人物って言ったら、彼だと思うけど。


今、ここで話題に出るのが、何か、引っかかる。


「綾瀬も知ってるかもしれないけど、この会社は、元は、立花一族が仕切ってる、同族経営の会社だった」


うん、知ってる……。詳しいところまでは、分からないけど。


「で、オレが入社した翌年。東条は、社長に就任した。前社長を蹴落として」


佐倉さんが、そこまで言った時、生ビールとオレンジジュースが運ばれてきた。

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