第31話 思わぬ評価

「っはぁ~、やっぱり美味いわ。仕事終わりのビールは!」


一気にジョッキの半分くらい飲み干した佐倉さんが、満足そうに言った。


「そうみたいですね」


私は、少しだけカクテルを飲んだ後、答える。


「酒の美味しさ分からないなんて、綾瀬かわいそ」


「別に、いいんです。他にも楽しいことありますもん」


「はは、拗ねんなよ」


「佐倉さんは、強いですよね」


「まあな。仕事の上でも、飲みって絡んでくるからさ」



確かに、それはある。


私みたいに、内勤だと、社内の人間と飲みに行く程度だけど。


佐倉さんみたいな、外回りの人だと、取引先の人と飲みに行くこともあるみたいだし。


そうなると、飲めないのって、ちょっと損しちゃうのかも。



「まぁ、今は、無理しなくていいよ。最初の1杯だけ付き合って欲しかっただけだから」


「はい」


「それにしても、お前も入社して、もう二年か。早いな」


「そうですね。何かあっという間でした」


「最初は、お前さ。電話も上手く取れないわ、取引先の人間来ても、社名も個人名も覚えてないわで、ほんと、どうしようかと思った」


「わっ……!そ、そんな、前の話掘り起こさなくてもっ」



当時を思い出して、顔が熱くなった。


ほんとに、毎日テンパってしまって、自分が何をしてるのか分からなくなるくらいだった。



「そんな綾瀬もさ。取引先の人間から『綾瀬さんの声、電話で聞くと、落ち着く』なんて言われるようになったしな」


「え?何ですか、それ、初めて聞くんですけど?」


私が驚いて聞き返した時、注文していた料理が、運ばれてくる。


ぼんやりしている私をよそに、佐倉さんが手際よく、私と自分の分を取り分けてくれた。



「まあ、こういうのはさ。面と向かって、本人に言うの、アレじゃん?オレは、そう聞いてるって話」


「そ、そうなんですね!全然知らなかった。何か、嬉しいです!」


内勤って、社内にこもりっぱなしで、外部の人とのつながりがないって思ってたけど。


何か、ちゃんと自分も繋がれてたんだ。


この会社の一員として、機能出来てたんだって、ちょっとだけ嬉しくなる。



「まぁ、確かに綾瀬の声って、聞き心地いいよな。男だけで飲みに行った時、綾瀬と白石は、よく話題になるし」


「えっ。私と、菜々美が……?」


私が、佐倉さんに聞き返すと、彼は「しまった」といった風に、苦笑した。


ちなみに、白石とは、菜々美の名字だ。



「……いや、今のはなかったことに」


「え……ちょ、そんな気になりますよ!そこまで聞いたら。どんな話してるんですか?」


「んー。こういうの言うと、『これだから、男は』みたいに思われるだろうけどさ……」


バツが悪そうに、佐倉さんは続ける。



「酒の場の、話のネタにするわけだよ。もし、付き合うなら、白石と綾瀬のどっちだって」


「……え!」


ビックリした。


そんなこと言われてるの、男の人の間で!?

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