第26話 不可解な行動
送信者は、佐倉さん。
それはいいんだけど。
メールは件名なしで、本文だけ。
『今夜、時間ある?』
これって……単なるプライベートのメールだよね?
(どうしたんだろ、佐倉さん?)
佐倉さんは明るい人で、面白いこと言ったり、よく私もからかわれたりするけど。
仕事で、ふざけたことする人じゃない。
『あの、これ、仕事のメールじゃないですよね?』
そう書いて返信した。
そして、他の業務用のメールを開いて、確認していく。
(え……また?)
佐倉さんから、再度すぐに返信が来た。
メールを開けると、
『仕事終わったら、飲みに行こう』
まただ。
何なの、佐倉さん?
私は困惑した。
どうしたんだろ、ほんとに……。
綾瀬:『もう、ふざけないでくださいよ。これ、会社のパソコンですよ?』
佐倉:『ふざけてない』
私は、デスクでパソコンに向かう佐倉さんの方を見た。
気付いた佐倉さんが、ちらりと視線だけで、こちらを見たけど、素知らぬ顔でパソコンを打ってる。
綾瀬:『仕事と関係ないこと、ここに送っちゃダメですよ』
そう書いて、送信した。
また即、返信。
佐倉:『じゃあ、今日いいんだな』
何か、これ……エンドレスだ。
業務用のメールの間に、佐倉さんのメールが、すぐ割り込んでくる。
仕事にならないよ……。
綾瀬:『もう、分かりました!行きます!行きますから!』
半ば、やけくそになって、私は返した。
佐倉:『了解』
佐倉さんから、そう返信があって、そこから意味不明なメールは来なくなった。
「はぁ……」
ため息をついた後、もう一度、業務用のメールを開けていく。
少しして、鞄を持った佐倉さんが、私のデスクのところに来た。
「じゃ、行ってくる」
今日は、佐倉さんは外出で、直帰の予定だ。
佐倉さんを見上げて、私は言う。
「……いってらっしゃい」
そうして、彼はフロアを後にした。
「はぁ……」
妙なことになっちゃったな。
部所の何人かで飲みに言ったことはあるけど、佐倉さんと二人でっていうのは初めてになる。
ふと、さっき突然現れた東条社長の顔を思い浮かべた。
ただ、社員証を渡しに来てくれただけでも嬉しかった。
次いつ会えるのかなって、ぼんやり思ってたとこに不意に会えたから、何か気持ちが高ぶってしまう。
また会いたい。
せめて話だけでもしたい。
お礼くらい……言っても変じゃないよね?
そうだ。
さっき、わざわざ社員証を届けに来てくれたお礼を言うのは全然変じゃない。
でも、本当は。
理由なんて、何でもいいのだ。
ただ、彼と少しでも繋がりたい。
もしも彼が誘ってくれたら、また会える……。
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