第20話 チョコレートカクテル

「お待たせ致しました」


私の思考をそっと止めるように響くウェイターの声。


テーブルに置かれる二つのカクテル。


「ブラックルシアンと、チョココラーダでございます」


白くて可愛いカクテルが、私の手元に置かれる。



「チョコってことは、これって、チョコレートが入ってるんですか?」


初めて見るカクテルに、私は社長に聞いてみた。


「それは、モーツァルトホワイトチョコレートというリキュールが入っているんですよ」


モーツァルトかぁ……お洒落な名前だな。


グラスの上部には、小さなパイナップルと、レッド・ツェリーが添えられている。



「それから、そのカクテルにはラム酒も入っています」


ラム酒と言われて、私は少しだけドキリとした。


「あの夜、君がくれたチョコレートにも入っていたでしょう」


彼の言葉に、あの時のキスが甦ってきて、顔がさらに火照る。


「そのカクテルは、あのチョコレートのお礼です」


そう言って、東条社長は、手元にある琥珀色のカクテルグラスを手にすると私に向けてきた。



「あらためて、乾杯しませんか?」


「……は、はい」


私もチョコレートのカクテルを手にして、社長に向ける。


「乾杯」


二つのグラスが傾いて、小さく鳴った。


薄闇の中、オレンジ色のキャンドルが揺れる……。




それから、30分程二人でカクテルを飲んだ後、私達はバーを後にした。


「大丈夫ですか?」


隣に歩く東条社長が、聞いてくる。


「大丈夫……ですよ」


ふわりとした感覚の中、私は答えた。


いつもなら飲んでも一杯だけなのに、今日は二杯のカクテルを全部飲み切った私。


エレベーターの前で二人立ち止まった時、肩に掛けてあるバッグの中で、カサリと音がする。


……あ、これ、渡すの忘れてた。



「あの、東条社長」


「はい」


私は、バッグから小さな淡いピンクの包みを取り出す。


「これ、買ってきたチョコレートです。結構、雑誌とか載ってる有名なお店のですよ」


そう言って、社長に包みを差し出した。


「チョコレート、食べたかったんですよね?」


私がそう聞くと、少しだけ間をおいた後、微笑しながら彼が言う。


「そうですか、ありがとう。なら……」


彼の闇色の瞳が、私を捉えた。



「一緒に食べませんか?そのチョコレート」



東条社長がそう言った時、エレベーターが45階に着き、静かにドアが開く。


私達はエレベーターに乗った。


1階のボタンを押すと、エレベーターが下降してゆく。



「じゃあ、箱開けちゃいますね」


私は淡いピンクの包装紙を取ると、箱を開けた。


箱の中に並ぶのは、小さな四角い生チョコ。


「どうぞ」


私の言葉に、東条社長の手が伸びてきて、その長い指先にチョコが挟まれる。

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