第2話 玉砕提案
「
オフィスのあるビルに入っているパスタ屋で、同じテーブルに座る菜々美が聞いてくる。
「どうって……普通だよ?」
私がそう答えると、菜々美は、カルボナーラを巻きつけていたフォークをピタリと止めた。
「普通って……誰かにチョコあげたりとかしないわけ?」
私は食べかけのパスタを飲み込んでから、もう一度答える。
「チョコなら、あげるよ。同じ課の人たちに」
「いや、それ義理でしょ?そうじゃなくてさ。本命だよ、本命」
私はフォークに再び、パスタを巻きつけながら言った。
「そういうのはないよ。だって、渡せる人いないもん」
すると、菜々美は、私の顔を真っ直ぐに射抜く。毎度、美人の目力には圧倒される。
「あんた、まさかさ。まだ、東条さんのこと好きとか言わないよね?」
「え?……好きだよ」
そう答えると、菜々美は、テーブルの上のナプキンが吹き飛びそうな溜め息をついた。
「結衣。いい加減さ、夢見るの止めなよ?」
「い、いいじゃない。夢見たって……」
「見る夢が問題なのよ。よりによって、東条さんとか笑えないから」
「べ、別に、東条さんと付き合いたいとか、そういうんじゃないもん。見てるだけでいい、憧れの……」
「そういう叶わない幻想見てるから、いつまでも、現実の恋愛が出来ないのよ!」
菜々美は一気に捲し立て、フォークに巻きつけたままのカルボナーラを一口食べると言った。
「じゃあ……玉砕してきな」
その鋭く響いた一言に、私は飲もうとしていたオレンジジュースのグラスを止める。
「……え?」
キョトンとする私に、菜々美の容赦ない言葉が続いた。
「頑固な夢は、破るに限るわ。結衣、あんた、バレンタインに東条さんと直に会って、チョコ渡して玉砕してきな」
「ちょ、ちょっと待ってよ……!何で、そんな話になるわけ!?だいたい、東条さんと直に会って、チョコ渡せるような時なんか……!」
「あるわよ」
菜々美が落ち着いた声で、一言。
「……え?」
再び、驚く私。
「結衣、あんたも聞いたことない?東条さんの噂」
「噂?」
「あの人、夜の11時に会社を一人で見回るんだって」
「ああ、それね。私も、聞いたことはあるよ。でも、東条さんが一人で見回るとかあり得な……」
「それがさ。実際、受付の子が見たことあるのよ」
「え……嘘?」
「いや、マジよ。確かに、東条さんだったって」
「……」
私は、完全に飲むタイミングを失ったオレンジジュースを見つめた。
「だから、結衣。その夜11時の見回りを狙って、東条さんにチョコ渡してきな」
アドバイスというよりも、むしろ命令系な菜々美の声が、私の心を震わせる。
私が、東条さんにチョコを渡す……?
そんなこと考えてもみなかった。
「イタイ失恋して、一皮むけてきなさい。少なくとも……」
菜々美は、私のパスタ皿を見つめながら、一言。
「イタリアン来て、毎回ミートソースばっか頼むようなお子様を卒業しなさい」
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