ルービックキューブ

Jack-indoorwolf

第1話サリンジャーの少女

「先生はつまらなくなったね」  

 ダブルベッドの上でルービックキューブをいじっていた先生は顔を上げ、ブレザーの制服を着て帰り支度したくをする結菜ゆいなを見た。

「人間として落ちぶれたみたい」

 結菜が17歳特有の残酷な表情で先生を振り返り、言った。


 二人がいるラブホテルは崇高すうこうでなおかつ下劣極げれつきわまりない。その、欲望の熱情ねつじょうと汗をうばってきた部屋で結菜はひときわつみ作りな美しさを放っていた。

ーーオマエ、制服のままここ出るんだ、すげぇな

 先生は驚きを隠したままルービックキューブをいじる。


「次は?」

 先生の問いに結菜は鼻で笑い、そのまま部屋を出て行った。

 ラブホテルの個室で一人きりになった先生も結菜を真似て鼻で笑う。

「俺は人間として落ちぶれたから大人になったのさ」と、ため息をつく先生。


 先生は六面そろったルービックキューブを、ベッド横の飾り棚にある、結菜が忘れていったサリンジャーの上に置いた。

 外では雨が降っているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルービックキューブ Jack-indoorwolf @jun-diabolo-13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ