第28話 因縁の相手を追い払ったけど、それで重要な事柄を暴露してしまった件
「何ですって!?」
サワジリとかいう女が目をつり上げて余に食ってかかろうとするが、余が睨みつけると怯んで反論の言葉が止まる。そこで、余はさらに言葉を接いだ。
「考えてもみよ。そなたが選ばれたのは、その女よりも実力があるからである。指導者は、勝つための最善手としてそなたを選んだのであるからな」
「だけど、わたしは一年生でバレー経験だって大して無かったんだよ! ただ身長が高かったから、それでレギュラーに選ばれて……」
「それは違うぞ」
スズナが反論してきたのを遮って話を続ける。
「経験の有無よりも、そなたの資質の方が上だっただけの話よ。実戦で活躍できなければ、選手からは外されるのであろう? 活躍できたのだから、そなたの方が上だったということだ。ただ、それだけの話である」
と、余の言葉を聞いて、先ほどは黙った女が今度は食ってかかってきた。
「何勝手なこと言ってるのよ! 私だって、試合に出れたら、こんなヤツより、よっぽど活躍できたのよ!! それなのに、二年間がんばってきて、やっとレギュラー取れたと思ったのに、ただ背が高いだけのヤツが私のポジションを奪うなんて、許せるはずがないでしょ!!」
そこで、余はスズナをかばうように女の前に立つと、その戯れ言を切り捨てた。
「そなたの二年間の努力とやらが、その『背が高いだけのヤツ』に劣る程度でしかなかっただけのことよ。スズナの資質は確かに高いかもしれぬ。だが、スズナも何もしていなかったわけではないぞ。スズナとて努力していたのだ。それでも、もしそなたの努力がスズナの資質と努力を合わせたものを上回れば、そなたの方が選手に選ばれていたはずだ。それを認められずに、相手の資質に嫉妬して、競技の技量で相手の資質を上回る努力を放棄し、人間関係で
「な、な……」
絶句した女に、余は冷たく最後通牒を突きつけた。
「失せるがよい。余は寛大を旨としているが、それでも忍耐に限度というものはある。愛する女を不当に貶められて許すほど、余の堪忍袋の緒は長くはないぞ」
そうして睨みつけると、女は何も言わずに
「愚か者め」
余が吐き捨てると同時に、余の背中に何かが押しつけられた。いや、これはスズナの顔か?
「ありがと、魔王。わたしのために怒ってくれて」
くぐもった、小さな声が背中から聞こえてくる。
「そして、わたしを認めてくれて」
軽い嗚咽が漏れ聞こえてくる。
「悔しかった……わたし、悔しかったのよ! わたしの背が高いのは、どうにもならないことじゃない!! それを、まるでズルしてるみたいに言われて……わたしだって、レギュラーもらったからには、それに恥ずかしくないようにしようって頑張ったんだよ! なのに顧問と
アカギというのは、前に聞いたスズナが恋した『バレー部の先輩』とやらの名であろうな。
と、そこで背の圧力が消える。そして、先ほどまでとは一転した明るい声が聞こえてきた。
「だけど、それも今日でおしまい! もう、あんな詰まんない過去はポイして、前に向かって進むのよっ!! だって……」
そこで、スズナが余の前にひょいっと顔を出して、ニコっと笑って言った。
「『愛する女』なんて言ってくれる人がいるんだもんね♪」
そこで、余は先ほどの自らの発言を思い出し、瞬時に赤面した。
な、何ということであるか! どさくさに紛れてとんでもないことを言ってしまったではないか!!
「あ、う、いや、その、あれはだな……」
どぎまぎと慌てる余を見て、スズナの笑みがニヤッとしたものに変わる。
「あれぇ? 今更ごまかす気? 今までだって、さんざんわたしのことが好きだって匂わせてたくせに」
「匂わせていたとな!?」
驚愕する余に、スズナはさらに追い打ちをかける。
「そりゃそうでしょ。まず、好きな人が婚活パーティに『参加していない』って否定しようとして、すぐに『いや、参加してたな』なんて言い直したじゃない。婚活相手として見てなかったけど婚活パーティに参加してた女って、わたし以外にいないじゃない。この前だって、わたしが『好きな人が猫嫌いだったらどうするの?』って聞いたときにも、わたしが猫好きだって聞いて『なら問題ない』とか言っちゃってたし」
「で、では?」
「バレバレだったよ、魔王の気持ち」
「うがあっ!!」
余は思わず奇声を発して頭を抱えた。何ということであるか! 余の今までの苦悩と苦労は、ただの空回りだったのではないか!!
と、そこで気付いたことがあったので、スズナに問う。
「気付いていたのに、そなたは知らぬふりをしていたのか?」
「そうだよ。だって、きちんと告白して欲しかったんだもん。それが女心だよ。……まあ、今回のも『告白』かっていったら微妙だけどさ、はっきり『愛する』って言ってくれたからね」
「むう……」
そう言われると一言もない。
「それに、わたしだって何とか早く告白して欲しいと思って焚きつけてたんだよ。『本気ならちゃんと告白しなきゃ駄目だよ』とか『相手の女の人も待ってるかもよ』とかアドバイスしたり、ラブコメだけど恋愛系の漫画とか持ってきて告白のパターン見せようとしたりとか」
「では、やけに協力的だったのは……」
「早く『わたしに』告白して欲しかったからだよ。だって、魔王がわたしのことを好きって気付いたときに考えてみたら、魔王ほどわたしの条件に合う相手っていないんだもん」
「条件とな?」
「だって、そうでしょ? わたしの身長のことを気にしないし、わたしが魔法を使えることを知ってるし、わたしと同じくらい強いからわたしに劣等感を持ったりすることも、逆にわたしを利用しようとすることもないし……考えれば考えるほど、魔王って理想の相手なんだよね。それにさ……」
そこで一旦言葉を切ると、真剣な表情で余の目を見つめて口を開いた。
「わたし、魔王の純粋で何事にも一生懸命なところ、好きだもん。四百年も努力できる根性も、好きだもん。世界の人々の幸せのために頑張るところも、好きだもん。ちょっとズレてて面白いところだって、好きだもん。誹謗中傷にも負けない強い心も、好きだもん。それに、世界の誰より強いくせに、奥手で恋に臆病なところだって、可愛らしくて好きなんだもん」
そう言うと、スッと顔を近づけると、余の頬に口づけしたのである!
余は顔が爆発するのではないかと思えるほど赤面した。
だが、ここで押されっぱなしではいかん!
さっきは、他人に対する宣言の中で言ってしまっただけではないか。ここは、しっかりと告白すべきであろう!!
そこで、余は改めてスズナに向き直って、その目を見つめながら言った。
「余も、そなたのことが好きである。そなたの真っ直ぐな気性が好きである。弱き者を慈しむ優しい心が好きである。不正を許さぬ正しい心が好きである。強き者にも立ち向かっていく勇気が好きである。努力を絶やさぬ強い心が好きである。その背の高さも、
そう言い切ると、スズナの顔もまた、真っ赤に染まっていった。それを見て、余は決定的な一言を口から放った。
「余と、結婚してはくれぬか?」
それを聞いたスズナは、くしゃっと顔をゆがめると、余の胸を軽く拳で叩きながら答えた。
「もう、いまさら断るはずがないでしょ! でも、今すぐ結婚はできないからね。まだ高校生だし、大学だって出たいし。それまでは、婚約とか、かな?」
「そうであるか」
むう、いささか残念であるが、この世界の常識ではスズナは結婚するには若すぎるのではしかたあるまい。
だが、もはや余はスズナと互いに特別な存在となったのである。そこで、余は改めてひとつのことを望もうと思い、スズナに尋ねた。
「スズナよ、ひとつ望みがあるのだが……お互い、特別な存在になったことであるし……」
「何をしたいの?」
「もう、スズシロと呼んでもよいか?」
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