第二章 サルでもなれる魔王教室編

第15話 いよいよ嫁取りを始めたけど、やり方がわからなかったので勇者に聞いてみた件

 さて、余は世界征服に成功し、世界の支配者となった。これは『世界で一番偉い人』と言い換えても間違いではあるまい。これをもって、余の第一の夢であり目標であった『偉い人になる』は達成されたと言えよう。


 それでは、いよいよ第二の夢である『きれいなお嫁さんをもらう』を目標として、達成するための行動を開始するとしよう。


 だが、余はそこではたと困ってしまったのである。


 嫁というのは、どうすればもらえるものなのだ?


 余は、よわい十にして修道院に入った。修道院とは俗世との縁を切って神の栄光を求めて修行に励む場である。当然、そこは女人禁制であり、結婚などということとは無縁である。したがって、嫁の取り方などを教えたりはせぬ。通常の教会であれば結婚式なども執り行うので少しは知識もあるのかもしれぬが、余はそちらとは縁がなかった。修道院を出たあとは、山籠もりをしてひたすら魔法の修行に励んだだけである。当然、結婚する方法などについて学ぶ時間はなかった。もとより、十歳の子供に嫁取りの知識などはないし、そんな子供に真面目に嫁取りの話をする者もいない。つまり、余にはまったく知識が無いのである。


 そこで、余は世界征服の際に有力な助言者となった異世界の勇者に助言を求めたのである。


「って言うけどさ、あなたは世界の支配者なんだから、世界各国の美女を差し出させればいいんじゃないの?」


 異世界の勇者スズナは、妙齢の乙女らしからぬめた意見を述べた。むう、確かに『大魔王』の嫁取りとしては、それが常道ではあろうな。しかし、その方法をとる場合、余には一点だけ気にかかることがあるのだ。


「それで愛のある家庭を築くことができるのであろうか?」


「ゑ?」


 何とも珍妙な顔と声になったスズナである。それほど変なことを聞いたつもりはないのだが……


「あ、愛のある家庭って? いやまあ、わからなくもないけど……ってことは、美人のお嫁さんなら何でもいいわけじゃないのね?」


 スズナが説明を求めているようなので、余は己の希望をあまり詳細に伝えていなかったことを思い出し、詳しく説明することにした。


「うむ、『きれいなお嫁さんをもらう』のが余の第二の夢であり目標である。だが、ただ『きれい』であればよいというものではない。きちんと余のことを愛してくれて、また余も愛することができる女性でなければ、愛のある家庭は築けまい」


「まあ、それはそうだけど……ことさらに『愛のある家庭』にこだわる理由でもあるの?」


「うむ、ある。余の生家は貧しい騎士の家系だったのだが、父は家柄がつり合う相手ということで特に愛情などもなく母と結婚したのだ。子がなければ家を継がせることができないので、子作りは義務であった。そこで、兄二人と余が生まれるまでは子作りをしたのだが、余が生まれる頃にはその関係は冷え切っており、余は幼い頃からいがみ合う両親を見て育ったのだ。愛無き家庭に生まれた子供ほど悲惨なものは、そうはないぞ」


 余がわずか十歳にして修道院に入ったのは、あの冷たく暗い家庭から逃げたかったというのもあるのだ。父母をそれぞれ敬ってはいたが、敬して遠ざけたい気持ちもないではなかった。修道院も陰気ではあったが、神の栄光のために修行する場であるから修道士同士でいがみ合うような雰囲気はほとんどなかった(もちろん不仲な者はいたが)上に、余にとっては魔法やさまざまな知識を学ぶことができる場でもあったので、すごしにくかったという印象はない。


「……なるほどね。それじゃあ、一方的に命令して『嫁になれ』ってのは避けたいか。っていうか、あなたって絶対にそういうことしそうもない人だし」


「うむ、相手の自由意志によらず嫁になることを強制したくはないな」


「かといって、普通に女の人と知り合うチャンス……機会って、あなたの場合、そんなに無いよね?」


 スズナに聞かれて少し考えたが、答えは明確であった。


「……無いな」


 余が会う機会があるのは、各国の政治や軍事の指導者ばかりである。そして、この世界においては女性が政治や軍事の指導者になっているのは極めてまれである。王家や貴族において嫡子が女性なので当主になっているという例が僅かにあるほか、新大陸の南方に女性ばかりのラクテニスとかいう部族があって、そこの族長は女性であったが、それくらいである。彼女らはいずれも責任ある立場なので、それらを放擲ほうてきして余の嫁になることはできまい。


 あとは、各地での工事に際して地域住民の意見を聞くときに女性が参加していることがあるくらいなものだ。そういった場に出てくる女性は既婚であることが多いので、やはり余の嫁取りの対象にはならぬ。


「なら、やっぱりお見合いするしかないんじゃない? ウチの両親も見合い結婚だけど、仲はいいし、暖かい愛のある家庭を営んでると思うよ。要は、お見合いの際にきちんと性格とか仕事や家庭に対する考え方が合うかとかを確かめておくことじゃないかな」


「なるほど!」


 やはりスズナの意見には聞くべきところがある。


 うむ、これで一歩嫁に近づいた!


 そこで、余は諸国に対して余の嫁になってもよいという女性を紹介するよう依頼したのだが、これが余にとってはいささか予想外、スズナに言わせれば当然の結果として、申し込みが殺到したのである。


「何故であるか?」


「そりゃそうでしょ。あなたは世界の支配者なんだから、嫁になったらその権力の一部くらいは手に入れられると思うのが普通じゃない。それに、子供が生まれたら世界の支配者の後継者でしょ。各国の王様とかなら、絶対に自分の娘だの姉妹だのを送り込もうとするわよ。もともと政略結婚上等って世界の人たちなんだろうし」


「しかし、さすがにこれら全員と見合いをするような時間的余裕は無いぞ」


 余は今も各国からの依頼で、世のため人のために働いているのである。スズナに「くしゃみの大魔王」とけなされようとも、やめるつもりはないのだ。


「そうねえ。ひとつの方法は、まず書類選考で落とすってのがあるわね。写真……はこの世界には無さそうだから似顔絵とか釣書つりがきをもらって、その時点で合いそうもない人は残念だけどお断りするってことね」


「むう、いささか誠意に欠けるような気がするが……」


「……ホントに人がいい魔王なのよね、あなたって。そうねえ……あ、それなら合同お見合いというか、婚活パーティ形式はどう?」


「婚活パーティとな!? それはどういう方式であるか?」


「候補者全員に集まってもらって、全員で立食形式のパーティ……つまり宴会ね……をするの。普通は男性側候補も大勢入れるんだけど、今回は目的が目的だから、男性側はあなた一人って形にするのかな? いや、それだと結局あなたに全員が殺到しちゃうからマズいか……」


 スズナは自分の思いつきに難点を見つけたようだが、余は逆にそこに利点を見いだした。


「ふむ、なるほど! それはよいかもしれぬ。余一人ではなく、諸国の未婚の若い王子や有力貴族の子弟も集めて、宴会形式で見合いをするのであるな。それならば、余が選ばなかった女性も、ほかの国の有力な王家や貴族と縁を結べるかもしれぬ。もはや余の支配下で世界に戦争は起きぬのだから、そうした縁談で諸国の縁や交流が深まれば、それを機に交易なども始まって、より世界の発展につながるかもしれぬ」


「……何か、本来の目的から少しずれてきたような気もするけど、魔王本人がそれでいいって言うんなら別にいいのかな」


「うむ、それではスズナよ、開催に協力してもらえぬか? そなたが婚活パーティとやらに一番詳しいのだからな」


「あー、了解。どうせ文化祭も中間も終わったんで、期末までの間は余裕あるしね」


 スズナの予定も空いているようであるな。ありがたいことである。


 かくして、余は自らの嫁取り、兼、諸国の王家貴族の縁組みのために、大規模な集団見合い宴会を開くことにしたのである。


 これで、また一歩嫁に近づいた!!

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