第7話 自分の業績を確認して回っていたけど、続けて新しい仕事をすることになった件

 余は、スズナや、彼女を召喚したフォカッチャ王国のコシモ王や大臣、それに疑義を唱えた側近など数名を連れて、ロッゲンブロート王国の治水工事を行った堤防の上へ瞬間移動した。コシモ王たちは最初は驚いていたが、スズナが瞬間移動の魔法だと説明するとすぐに落ち着いた。


 そこで、余は最初に行った治水工事について説明をした。コシモ王たちはその規模に度肝を抜かれていたようだったが、やがて気を取り直すと、堤防を降りて近隣の畑に向かい、そこで働いていた農民に余の評判を聞き始めた。


「あんれまあ、どこのお偉いさんだべ? え、魔王様のことだか? あー、この河の流れを変えて、でっかい堤まで作ってくれただよ。これでもう洪水は起こらねえって話だから、ありがたいこったべ。実際、このまえ大雨が降ったときも、いつもの年なら水が溢れてくるくらい降ったのに、今年は大丈夫だったんで大助かりだったべ」


 ほかにも何人かに話を聞いたようだったが、似たような答えばかりであった。よかった、余の事業はこのあたりでは特に迷惑は及ぼしていないらしい。


 王侯将相の美辞麗句をこらした賛辞も嫌いではないが、やはり庶民の純朴な賞賛の方が心地よい。余も一応は貴族の端くれとされる士族階級の出身ではあるとはいえ、実態はといえば貧乏騎士の冷や飯食いの三男であったのだ。生活感覚は庶民の方が余程近いのである。


 次に、余はスズナやコシモ王たちを連れて隧道ずいどうを作ったところに瞬間移動した。


「すご、四車線の立派なトンネルじゃない! 照明もついてるし!!」


 スズナが感心したように言う。トンネルとは隧道のことであろうな。少し自慢したくなったので説明をする。


「左様、馬車が二台ずつすれ違えるくらいの大きさにしたのだ。あの明かりは周囲の魔素を吸収して自動的に光る仕組みでな、百年くらいは手入れしなくても保つようにしてある。換気のための穴も何か所もあけてあり、やはり自動で空気を入れ換えるようになっておるのだ。排水溝もきちんと整備したので大雨で水没することもない。地震があっても大きく崩れたり破片が落ちてくることがないように内壁は樹脂で塗り固めておいた。十年ぐらいしたら塗り直す必要があるがな」


 余の説明を聞いた一同は感心しておる。うむ、余は満足である。


 それよりも、余はここで気になることがあったのだ。見てみると、隧道の入り口付近に、真新しい茶店ができているので、そこに入って店番をしていた店主らしき中年女性に尋ねてみた。


「ちと尋ねたいのだが、この店はいつできたのだ?」


「はい、ついこの間ですよ。この立派な通り穴ができたんで、山の上の道沿いから移ってきたんです」


 おお、やはり山の上の旧道沿いにあった茶店は移転せざるをえなかったのか!


「むう、それでは、この隧道ができて迷惑したのではないか?」


 だが、余の問いに女性はにこにこと笑いながら答えた。


「いえいえ、とんでもない! 逆に、山の上まで食材を運び上げたりする手間がなくなって、大助かりですよ。それに、この通り穴のおかげで山の向こうとの行き来が便利になって、商人が前よりたくさん通るようになったんです。通り抜けるまで結構長いので、出入りするときに一休みされる方が多くて、山の上だったときより、一日あたりのお客さんは倍くらいに増えましたよ。おかげでホクホクです」


 それを聞いて、余は安堵した。ついでに茶と茶菓子を所望し、ロッゲンブロート王国の銅貨で払う。この金は余が作った金剛石を街で売って手に入れたもので、国から収奪したものではない。


「あ、このジャム付きスコーン、シンプルで結構おいしい。紅茶はちょっと渋いけど、砂糖はないの? ……そっか、貴重品か。あ、牛乳あるならちょうだい。へえ、裏で牛飼ってるんだ。絞りたてなんだね」


 スズナや王たちにもおごったのだが、スズナはだいぶ気に入ってくれたようで、店主らしき女性となごやかに話をしている。それに対してコシモ王などは庶民の食べものは初めてなのか、おっかなびっくり食べているようだ。


 食べ終わったので次の現場へ行こうとしたところ、コシモ王に止められた。庶民の話は充分聞いたので、今度は王侯の話を聞きたいのだという。


 む、なるほど、立場が同じ者の意見を聞きたいわけだな。よかろう。


 それで、バゲット王国とロッゲンブロート王国のどちらがよいかと聞いたところ、やはり外交関係があるロッゲンブロート王国の方とがよいということなので、そちらに連れて行くことにした。


「これは魔王様、ようこそいらっしゃいました。本日はいかなるご用でございますか? 本日はお客様もお連れのようですが」


 ロッゲンブロート王国の謁見の間に瞬間移動すると、カール王の侍従が尋ねてきた。既に何十回も同じように来ているので、すっかり慣れたものである。


 そこで来訪目的を告げて、余のことをどう思っているのか説明せよと言ったところ、スズナが忠告してきた。


「あのさあ、本人の前で本当のことが言えるわけないでしょ! 特にあなたは凄い力の持ち主なんだから。ここは少しの間、どっかに行ってて。話が終わったら、わたしが呼びに行くから。あと、魔法で盗み聞きしちゃダメだからね!」


 むう、なるほど。


「確かにその通りであるな。では、余は別のところに行っているとしよう。そうだ、何か困っていることはないか。話をしている間に片付けてこよう」


 そう言ったところ、北部国境付近の木製の橋が老朽化しているので、この際、石造りの丈夫な橋にできないかと依頼された。今までは北の国と戦争になったときに備えて、いざとなったら焼き落とせる木製の橋にしておいたのだが、もはや余のおかげで戦争はなくなりそうなので、交通量が増えても大丈夫な丈夫な石橋にして欲しいのだという。


 余はそれを快諾して、架け替える橋の場所を聞くと、そこに瞬間移動した。

 行ってみると、結構広い河に木製の長い橋が架かっていたが、確かに老朽化していた。そこで、そのすぐ隣、上流側に石橋を架けることにする。


 ついでに河に堤防を作りながら、河の流れの半分を一時的にせき止め、まず南側から基礎から築いていく。近くの岩山から材料になる石を切り出してくると、大雨や暴風雨などで増水しても大丈夫なように、しっかりと河底に基礎を埋め込み、その上に太い橋脚を建てていく。


 南側半分が終わったら、せき止めていた位置を変更し、今度は北側の半分を築いていく。その途中で先に築いた南側の基礎と橋脚を探知魔法で調べてみるが、特に問題はないようだ。


 すべての基礎と橋脚を建て終わったら、せき止めを解除する。うむ、北側の橋脚も問題ないようだ。


 そこで、今度は上部を作っていく。馬車が二台ずつすれ違えるくらいの幅をとることを想定して作り上げていく。中央が軽く盛り上がるように少しだけ傾斜をつけて、雨などを左右の排水溝へ誘導するようにする。そこから橋脚を通じて河に流すよう、樋を作っておく。


 落下防止にある程度高い欄干を作り、橋梁は一応完成する。それから補強と破片落下防止のために橋脚部と渡る部分の下面を、隧道内と同じく樹脂で塗り固めていく。こちらは水面の上で吹きさらしだから、隧道内よりさらに劣化が早いはずだ。五年くらいで塗り替えた方がよいかもしれぬ。


 これで万全だとは思うが、ものが橋であるから、きちんと通行できるか試した方がよいであろう。そこで、異空間収納から以前に試作した無馬馬車を取り出して、橋を渡らせてみた。


 これは、馬に牽引されずとも車輪が自ら動くことで自力移動できる画期的な馬車なのだ。


 橋に特に問題はなさそうだと確認していたら、瞬間移動の魔法でスズナがやってきた。はて?

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