07

 道路の右手に草原を眺めながら、ファフニールは教えられた道をひた歩く。陽は西に沈み始め、少し風が肌寒く感じられるようになってきた。

 ……嬢ちゃんは寒くないだろうか。

 彼は時折少女の顔を覗き込み、まだ目を覚まさないことを心配している。

 レティの帽子のアクセサリーは、いつもの揺れ方と違うことに何か物足りなさを感じているのか、哀と楽の表情を交互に入れ替える。

 しばらく歩くと、老人が言ったとおり十字路に差し掛かった。

 その分岐点には立て看板があり、カースの森とクーリエの街を案内している。来た方角から見て左、つまりは南の方角へと続く道を行けば、ガーネットの家へと辿り着く。

 ファフニールは左へ折れると、そのまま道なりに進んだ。

 意外に歩いてみるとけっこう疲れるものだなと、男は、この長い道のりを荷物を提げて毎日通ったレティを見て感心している。


「……お菓子、たべたいの……」


 少女の寝言にファフニールは微笑み、そして帰路を急ぐのだった――。

 洞窟を出てからおよそ三十分。ようやく魔女の帽子屋根の家が、目視出来る距離まで近付いてきた。

 ファフニールは自分でも気付いていないだろうが、レティを抱く力が自然と強くなっている。

 まだ一緒にいたいからなのか、それとも、何かを恐れてなのかは分からない。その表情は曇り、寂しさを滲ませている。



 ――その頃ガーネットは――

 相も変わらず、椅子に腰掛け魔導書を読んでいた。

 ふと窓の外を眺めては部屋へ視線を戻し、壁に掛けられている時計を見る。まだレティは帰ってこない。

 長時間細かな字を見て疲れたのか、老婆は時々目を擦り、目頭を押さえては肩を揉む。

 ルナからの報告を受けてからというもの、レティは混沌の洞窟に毎日のように通っている。もちろんガーネットが心配をしていない訳はないが、ルナが言っていたように、ファフニールの様子が昔と違うということ。そのことを考えると、別に放っておいても大丈夫なのか? という思いも頭をよぎる。

 なんにせよ、黒竜がレティを喰わないということに対して、老婆は安心しきっていた。

 一通りのマッサージを終え、再び魔導書を読もうとページをめくった瞬間、タイミングを見計らったかのように玄関のベルが鳴らされた。レティならベルを鳴らさずに入ってくるため、客人なのは間違いない。

 ガーネットは立ち上がり、また何かの勧誘か? と面倒くさそうな顔をして玄関へ向かう。


「勧誘なら間に合ってるよ、とっとと帰んな!」


 ドア越しに、外にいる人物に対して、ガーネットは冷たくそして強く言い放つ。するとドアの向こうに立っている人物は、凄む声に物怖じせず返答した。


「大事なお届け人なんだが……」


 いつもの勧誘じゃないことを声で確認すると、老婆は玄関のドアを静かに開け放つ。

 そこには、二十歳くらいの背の高い好青年が佇んでいた。

 しばらく見なかったイケメンに、「ほぅ」と熱の篭ったため息を漏らすガーネット。しかもその腕には、大事そうにレティが抱きかかえられていた。


「レティ!? いったいどうしちまったんだい? ……貴様、この子になにかしたのかい?」


 先程まで青年を見る目がうっとりとしていたガーネットだったが、レティの姿を見た次の瞬間、青年を見るその眼光が急に鋭くなる。それと同時に、老婆の魔力が増幅し充実していくのがはっきりと見て取れる。体からは赤いオーラのようなものが立ち上り、青年を睨むその眼差しは殺気に満ちていた。

 しかし青年は、それに臆することなく平然とした態度で答えた。


「なにもしてないさ。ただ、気を失ってるだけだ。……それよりも、久しぶりだな、ガーネット」


 憂いを帯びた表情から一変し、キラキラと光る竜の瞳を老婆に向ける青年。

 ガーネットは新手のナンパかと思い、適当に青年をあしらう。


「はぁ~? あんたなんか知らないね。死にたくなければ、その子を置いてとっとと帰んな!」

「……まあ無理はないか。お前、ファフニール封印の地の監察役のクセに、封印してからというものの一度も来てないだろ」

「なっ!? ……あんた王国の人間かい? いちいち説教しに来るんじゃないよ!」

「違う違う。俺はファフニールだ」

「はぁ~? 馬鹿も休み休みいいな! ファフニールが人間になれるわけないだろう」


 そう言って老婆は、手をひらめかせながら顔を背けた。男はそんなガーネットの側まで寄ると、顔を少し突き出して目を大きく見開く。怪訝そうな顔をしながら、そんな青年の瞳を見入る老婆。

 すると、普通の人間にはあるはずのない特長がその瞳から見て取れた。真紅の瞳はドラゴンのそれと同じ形をしており、昔に見たことのある感覚を覚える。


「――まさか……?」

「そのまさかだ。嬢ちゃんのおかげでな」

「……まぁ、中に入んな」


 レティを抱きかかえるファフニールを、ガーネットは渋々家の中へと招き入れる。リビングのソファーに寝かせるように指示すると、男はそれに従い少女を寝かせた。すやすやと小さな寝息をたてて眠るレティに、ファフニールは毛布をかけると、テーブルの椅子に着席する。


「おい、誰が座っていいと言った」

「そんな固いこと言うなよ。慣れない体でここまで来たんだぞ。座らせてくれてもいいだろう?」

「ふん。……それで、一体なにがあったんだい?」

「まあ、簡潔に言うとだな……嬢ちゃんに魔力取られた」

「はあ?」


 男の言葉を聞いたガーネットは、口を開けたまま固まってしまった。そんな老婆を尻目に、ファフニールはソファで眠る少女を見つめる。


「本当に不思議な子だな」

「――そう言えば、どうしてあんたはレティを喰わなかったんだい? ルナから喰おうとしないって聞いたけどさ」

「ルナ? ああ、闇の精霊か。そう言えばいたな、嬢ちゃんの影に」

「気付いてたのかい?」

「まあな。どうせお前が嬢ちゃんの心配して監視を付けたんだろうと思って、嬢ちゃんには言わなかったけどな」

「ふん。なかなか気が利くじゃないのさ」


 そう言ってガーネットは席を立ち、急須を持ってお茶を入れに行く。しばらくしてキッチンから戻ってくると、ファフニールの分の湯飲みにもお茶を注ぎいれた。「サンキュー」と言って男は湯飲みに口を付け、お茶をすする。


「で、どうしてレティが気を失ってるんだい?」

「話すと長くなるから、そこら辺は割愛する」

「なんだいそれ」


 心地よく眠るレティを、男は今一度見る。その悲しそうな眼差しに気付いたガーネットは、ファフニールに訊ねた。


「――どうした?」

「ガーネット……」

「ん?」

「嬢ちゃんの両親を知っているか?」

「いや、知らないね。そもそもレティとは、あんたを封印してから下界に修行に出た時に出会ったんだ。とある森の奥深くに聖域みたいなところがあってねえ。そこには古ぼけた小屋があったんだ。中から変なじいさんが現れたんだが、この子を預かってくれって言われてね……あたしは断ったんだけど、なんか目の前で急にじいさん消えちまってさ」

「そうか、だから引き取ったのか」

「まぁ、おチビのクセして中々の魔力持ってたからねえ。立派なウィッチに育てて、あたしの代わりにあんたの監察変わってもらおうかと思ってさ」

「なるほどな……」


 湯飲みをテーブルに置くと、ファフニールは目を伏せて俯いた。ややあって、ゆっくりと目を開けると静かに語り始める。


「――嬢ちゃんの両親を殺したのは、きっと俺だ」

「なんだって!?」

「あれはそう、七年前の大戦の時だ」

「封印の一年前か……」


 ファフニールはおもむろに左の袖を捲くって見せる。露出した左腕には一本の大きな傷跡が残っていた。切られた、と言うよりは、むしろ溶かされたと言ったほうが近いかもしれない。傷周りの皮膚は隆起し波打っていた。

 その見事なまでに傷つけられた腕を見て、ガーネットはほぅ、と感嘆の息を漏らす。


「随分と大きな傷だねえ」

「こいつは嬢ちゃんの父親がつけた傷だ」

「ただの人間があんたに傷を?」

「あれはただの人間なんかじゃない。俺と心の中で会話が出来たからな」

「心の中って……まさか」

「そう、ドラグーンだ」

「レティの父親はドラグーンだったのか……にしちゃ力がちっとも成長しないねぇ」

「問題なのは父親の方じゃない。ドラグーンはそこまで珍しいジョブでもないしな」

「確かに……ドラグーンが黒竜にそれほどの傷を付けられるとはあたしも思ってないけどさ……」


 ガーネットは再び男の傷跡を見る。

 ドラグーンは確かに強い。特に力と素早さの成長が著しく、体力とその他のパラメーターも均等に上がっていくバランスタイプだが、他のジョブとは決定的に異質の能力を有している。それは竜言語が理解可能であること。そして何より、竜と親しみを持ち共闘出来るということだ。

 しかし、ドラグーンはMPがほとんど上がらない。よって魔法を覚えないし扱うことが出来ない。ファフニールのこの傷は、明らかに魔力が通った斬撃によるものだ。

 ――父親が問題でないとすれば、母親が問題なのか……。

 ガーネットはテーブルに頬杖をついて思料する。すると、記憶の大海に眠っていた、ある情報が脳裏をよぎった。


「ま、まさか、レティの母親って……」

「……そう、ドラグナーだ」


 ドラグナー。そう聞いたガーネットは震えながら、ソファの上で気持ちよさそうに眠るレティを一瞥し、そしてファフニールヘと視線を戻す。

 ドラグナーとは、伝説と謳われる数少ないジョブの一つ。

 人間は生まれたその瞬間から、得意な魔法の元素というものが既に決まっていて、それは生まれた月と星に関連している。

 一年の一二ヶ月。四季にはそれぞれの元素が当てられており、春は風、夏は火、秋は地、そして冬は水。星の動きにより例外が生じることもあるが、基本的にはこれに則る。ジョブチェンジをしたとしてもこの条件は変わらない。

 しかしドラグナーはその法則に一切当てはまらず、全ての元素魔法を扱える唯一のジョブなのだ。更には竜を従える力を持ち、竜に安らぎを与える事が出来るとされる。

 レティが四元素全ての魔法を扱え、竜言語を理解し唱え、禁術を紐解いた程の魔法のセンスを有しているのは、母親であるドラグナーの血によるもの。


「おかしな奴らだった。人間と戦うことが、初めて楽しいと思えた。いや、あいつらだったから楽しかったのかもしれない」


 ファフニールは遠くを見つめ、当時の大戦を思い出すように語り始める。



     ◇◆◇◆◇



 ――七年前、某草原にて――

 大地を轟かす甲冑を纏った騎士たちの大軍団。その先頭上空にはレッドドラゴンに乗る一人の青年。

 好戦的な笑みを浮かべてはいるが、どこか優しそうな顔をしている。髪は短く赤色で、その瞳は青だった。黒の鎧を来て、その手に鋭い槍を持ち、腰に剣を携える。竜と共闘するもの、ドラグーン。

 青年の背中に抱きつくように、女性もまたドラゴンの背に乗っていた。鼻筋の通った整った顔立ち。髪は美しいブロンドで、まるでシルクのように滑らかな、色素の薄いその髪は光に透けて輝いて見えた。大きな瞳は空のように澄んだ青。一目で美人だと分かる。伝説と謳われるジョブ、ドラグナー。


 ドラゴンの咆哮を合図に、銀色の甲冑を着込んだ大隊は左右に割れ、素早く陣形を両翼の陣へと移行する。

 青年はファフニールから距離を取り、陣の中央に小隊を率いて指揮をとる。攻撃準備が整うと、ファフニールを囲うように開いた両翼の騎士たちに、角笛で開戦の合図を送った。

 盛大に響く重低音。

 一斉に駆け出した騎士たちは、ファフニールに攻撃を仕掛けるも、その硬い鱗に武器を弾かれて攻撃が通らない。


 砲撃部隊の放った銃や大砲も、黒竜の鱗を貫通すること叶わず。

 尾の一撃でなぎ払われその身を砕かれる者、ブレスで焼かれ消炭にされる者。ファフニールの強暴な力によって次々に命を落とす騎士たち。

 やがて最後に残った小隊の騎士たちは、戦意を喪失し逃亡を図る。その姿が目に映った黒竜は、広域のブレスで彼らを焼き払う。

 ブレスを上空に逃げて回避した青年は、鎧を溶かされ燻る騎士たちの死体を見て激昂した。自分のせいで皆を死なせてしまったと青年は後悔する。


 ドラゴンを駆り、ファフニールへ突撃する青年。ファフニールはタイミングを合わせて火球を放つ。ドラゴンはその機動性を生かし宙でひるがえりブレスを避けると、素早く黒竜の真後ろをとった。

 青年は飛び上がり、ファフニールの背中に槍の穂を向けダイブする。しかし着地と同時に突き立てた槍はファフニールの体に刺さらない。それどころか穂先は粉々に砕けて散った。

 そこへレッドドラゴンの追撃。爪を思いっきり尾に近い背中に叩き付けると、青年を乗せ上空へ飛び、火球を飛ばす。ドラグーンとドラゴンの連携攻撃。


 もちろん黒竜に大したダメージは与えられない。しかし、ちょろちょろされるのが目障りなのか、ファフニールは振り向きざまに超高熱のブレスを吐き出した。螺旋状に炎を纏い猛スピードで飛んでくる火球を、体勢を整えようとホバリングしているドラゴンに避けられるはずはなく……。

 青年は女性を抱き上げ地上に逃れる。青年のドラゴンはファフニールのブレスで焼かれ、地に堕ちて激しく身悶えた後、その息を引き取った。


 黒竜の力を侮っていた。自分の目の前で黒い墨となった、親友を失った悲しみは青年の心を、そして戦意を大きく揺さぶる。青年は戦友の亡骸に誓った。ファフニールは必ず討つと。


 立ち上がり、腰に下げた剣を鞘から抜き放つ。その刀身は透明に近い青色だ。ドラゴンの体内でしか生成されない、「ドラグマテリア」と呼ばれる鉱物から極僅かしか抽出されることのない、特殊な金属で出来ている。

 女性は青年の脇に立ち、手にするその剣に掌をかざすと竜言語魔法を唱えた。すると剣から青白いオーラが立ち上る。これはドラグーンの持つ特殊武器に対してしか効果が現れない、ドラグナーのエンチャント魔法だ。エンチャントされた刀身はドラゴンの硬い鱗をも断つことが出来る。

 久しぶりに楽しめそうな相手に出会えて嬉しいのだろうか、ファフニールは翼を大きく広げて咆哮する。


 駆け出す青年に、黒竜は大きく腕を振りかぶり鉤爪の一撃を放つ。青年はそれを飛んで避けると、その腕に思いっきり斬りつけた。しかしファフニールは寸での所で、翼を使い前方に爆風を巻き起こす。青年を吹き飛ばすと同時に、自身はその反動を利用して距離を取る。

 女性はその着地を見計らい地属性魔法を唱え、地面から鋭い石柱を出現させて攻撃する。

 想定していた事とはいえ、その数と範囲に避ける術もなく、ファフニールの体は石柱に刺されダメージを受けた。

 体勢を立て直し、尾で石柱をなぎ払うと黒竜は二人に向けて広域のブレスを吐く。青年は女性の前に立ち、女性はブレスダメージ軽減のシェルター状の防護膜を作り出す。――瞬間、二人はブレスに飲み込まれた。やがてブレスが治まると、巻き上げられた砂煙の中から二人は姿を現す。


 戦闘は更に激化し、このような事が三日三晩続けられた。互いに疲弊しながらも鎬を削る。

 そんな時、青年は黒竜に問いかけた。「なんでお前は戦うんだ?」と。

 ファフニールは青年に答えた。「お前たちのような奴らが来るからだ」と。

 最早戦うことが宿命となっているファフニール。そんな黒竜に青年は言った。

 「きっと俺たちは、いつか分かり合える日が来るはずだ」と。黒竜はその言葉を聞き流す。

 しかしそんなファフニールの中で、不思議な感情が芽生えつつあった。彼らと戦うことが楽しい。今までの人間とはまるで違う何かを彼らは持っている。こうしていつまでも彼らとやり合っていたかった――――。



「しかし、いつまでも戦ってなんかいられない。あの二人も、もう体力と魔力は底を尽きかけてた。双方共に次が最後の一撃だ。俺はあいつらに感謝したよ。闘うことの喜びを教えてもらった。だから最後の一撃は誠心誠意、全霊をもって相手しようと思ってな……黒竜最強の魔法で」

「黒竜最強の魔法? まるで想像がつかないねえ」

「アビスの炎を召喚するんだ。その黒炎は全てを無に還す。寿命が縮むからあまり使いたくはなかったけどな。……下界にあるクローネの瓦礫の荒野、知ってるだろう? あそこはもともと巨大な街だった。あれを荒野にしたのは俺だよ。もう一五〇年ほど前の話だがな」

「とんでもない威力じゃないか!」



 クローネとは、およそ一五〇年ほど前に繁栄していた大都市の名前だ。特に魔導と機械関連の技術力に優れており、それらの交易が盛んで人々の暮らしは潤い、歴史的に見ても美しい都市だった。――が、ある時黒竜の襲来を受けることになる。

 ドラゴンは基本的に光物を好み集める習性がある。ファフニールも例外ではなく、クローネの盛んな貿易により都市に流れ込む大量の貴金属類が、たまたま彼の目に止まったのだ。

 しかし若かったファフニールは、それが浅い考えで軽率な行動だったことを思い知らされることになる。

 クローネには軍事の設備が整っており、魔導と機械を融合させた技術で、対ドラゴン用の魔封ネットや魔導砲なるものを完備していたのだ。

 当時の彼には、今ほどの凶悪な力が備わっておらず、魔封ネットに絡め取られ魔導砲による集中砲火を浴びることとなる。生命の危機に瀕したファフニールは、自身の寿命を縮め、『アビス・フレア』を放った。

 絡みつく魔封ネットは一瞬で蒸発し、都市は黒炎に飲まれ破壊され、人々は都市と共に消え去った。その被害範囲はおよそ三五〇〇平方キロメートル。残ったのは、砂地から都市の一部を覗かせる瓦礫と見渡す限りの荒地だけ。

 この災厄による人的被害は、死者数約一〇〇〇万人を超える。



 小さく息を吐いたファフニールは一度目を閉じ、ゆっくりと開けると再び話を続けた。


「あいつらは最後、俺のアビス・フレアに対抗するために自分たちの命を燃やしたんだ。ドラグーンとドラグナーが揃って初めて使える禁術。それでも、俺の魔法には届かなかった……。二人は騎士たちの死体と草原もろとも吹き飛んだ。残ったのは、炎が燻る荒野だけだ」


 レティの両親を殺した事実を、ガーネットへ告白したファフニールは大きくため息を吐いた。ガーネットはそんなファフニールをただ黙って見つめている。


「消え行く中であの二人が、今にも消え入りそうな声で口にした最期の言葉が、今でも俺の耳に響いてるよ」


『――レティ』

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