第5話品種改良?
「見映えと言えば、だが」
「はい? 何ですか、魔王様」
「闇巫女よ。我輩は、カットインやら何かよりももっと重要な問題があると思うのだ」
「随分積極的ですね」
「お前に議題の提出を求めると、ろくなことが無いからな。話も進まないし、こうなったら我輩の方から話を振る事にしたのだ」
「失礼じゃないですか?」
「自業自得だ」
「良いでしょう、そこまで仰るのでしたら、聞きましょう。ずばり魔王様の頭痛の種を解決し、この闇巫女が、可愛さと愛くるしさだけで魔王様の側近を任されている訳ではないと証明して見せます」
「我輩の頭痛の種は、大半がお前なのだが………」
「さあ、どうぞ!」
「………いや、まぁ良い。お前も仕事は出来る。出来る筈だ、我輩は信じている。
良いか、今回の課題は、ずばりこれだ!」
………………………
………………
………
「これだ、この風景写真を見ろ」
「おもいっきり『写真』とか言いましたね………、世界観は大丈夫ですか?」
「問題ない、これは魔法カメラで撮ったものだ」
「何でも『魔法』って付ければ良いと思ってません? ファンタジー舐めてるんですか貴方は?」
「良いんだよ、内輪の話だから。人間側の国王にも、余計な事は言わないように釘を刺してある」
「とんだ茶番ですね………」
「最悪勇者にバレなければ良いのだ。
それよりも、問題はこの中身だ。どうだ、見て我輩の懸念に気が付くか?」
「えぇ………? 撮影技術の無さですか?」
「撮ったのはお前の所の主神だよ」
「本当に何も出来ませんね
「お前闇巫女だよね?! アイツを奉ってる筈じゃないの?!」
「それで、何が問題なんですか?」
「アイツには同情するな………。
あー、詰まりだな、全体を見て何か感じないか? ちょっとこう、色合いとかさ」
「はぁ、灰色ですね」
「そう、それだ!」
「それ? 手がどうかしましたか?」
「手じゃない、その先だ」
「思ったより綺麗な指ですね」
「指の先だ!!」
「爪が伸びてますね」
「爪の先!!」
「垢が溜まっています」
「古典的なギャグをやるんじゃない、思ったより腹が立ったぞ………」
「すみません、ちょっと楽しくなっちゃって。
それで? 一面見渡す限り灰色の風景がどうかしましたか?」
「………うむ。ほら、前回前々回と話したが、人間側の解像度が上がった関係で、見た目に掛かる比重はかなり重くなったのではないかと思ってな。
森ひとつとっても、ただ緑とはいかんだろう。平地に草原や湿地帯があったりもするだろうし、花や動物たちも彩りを添える筈だ。とすれば勇者たちも旅の途中で、そうした、自然の雄大さに気付く事だろう。
………そんな旅の最後、締め括りに現れるのがこんな色味のない景色で良いのか、我輩は不安なのだ」
「うーん、そうは言いますが魔王様。これは、少々仕方がないのでは?
人間や他の種族と交わった魔族はともかく、私たちのように純粋な魔族は居るだけで環境を変えてしまいます。緑豊かな草原は骸と枯れ木が転がる荒野へと、恵みに満ちた海は海竜蠢く死の領域へ。
生命力や善なる魔力を奪われては、植物たちも真っ当には育ちませんよ」
「いや、未だ手はある」
「どうするのですか?」
「折しもさっき、お前自身が言ったことだ。純粋な魔族以外なら、そうした環境汚染は起こらないだろう?」
「いや、しかし。私たちは純粋な魔族ですし。今さら他の種族の血を交ぜるのも無理でしょう」
「ふふ、だから、別な奴を創るのだ」
「あぁ、魔王様は魔族生成能力がありましたね」
「本来は創造神だからな。世界も創れるのだが流石に越権行為と言われかねん。
だが、魔族の創造は我輩の領分だからな。世界を変えるような何かを創り出してしまおうというわけだ」
「怖い言葉ですね………。しかし、解りました。そういうことならお手伝いしましょう魔王様」
………………………
………………
………
「機能としては
「自己犠牲の塊みたいな奴ですね………」
「序でに、我輩たちが出す闇の魔力を吸収する習性も欲しいな。その方が効果は高いだろう」
「移動手段はどうしましょうか? 歩かせますか、それとも翼でも生えさせましょうか」
「あまりそちらに力を割くと、その為に魔力を使ってしまう。本末転倒だからな、歩かせよう。
2本足だとバランスとるのが難しいから………蜘蛛のように8本足でどうだ?」
「気持ち悪いですね」
「性能は良いんだ。
あとは………、そうだな。エネルギー源だな」
「魔力では駄目なんですよね………。
あ、では、害虫を食わせるなんてどうですか? 植物の生育の助けにもなりますし」
「ふむ。まあ我輩は、虫とかそんなに気にしないが………植物が育つのならば良いだろう。とすると………あとは何の虫を食わせるかだが。
ポピュラーな所だとあぶら虫や蟻かな? 我輩ガーデニングの経験は少なくてな。人面樹や人食い魔草なんかは育てた事があるが」
「それはガーデニングとは言いません」
「草木を育てたろうが」
「庭を作るのがガーデニングです」
「あとは、ムカデとか? うーん、魔族としてはあまり虫に困らんからな、害虫というのが良く解らんな」
「………り」
「ん? 何だ、闇巫女よ」
「あー、その、あれですあれ。いわゆるG」
「ゴキブリか?」
「名前を言わないでください! うー、寒気がする」
「いや、しかしだな。奴等は何か害虫なのか? 毒もないし、植物を荒らしたりもしないのだろう?」
「精神的に嫌」
「そんな無茶苦茶な」
「だって嫌でしょうあいつら! なんか脂っぽいし、動きとか形とか、とにかく何もかもが気持ち悪いのです! 害です、きっと、何かの害虫です!
さあ、滅ぼしましょう」
「いやいや、流石に滅亡は不味いだろう。きっとあいつらだって、世界の生態系に何かしら役割を果たしてる、んじゃないのか? 良く知らないけど」
「そんなわけありません、奴等は存在が悪なのです。害虫益虫の区別が困難ならば、いっそこう言いましょう。――奴等は、世界の、敵なのです」
「そこまで言わなくても………。何か被害を受けたわけでもないだろう?
む、そうか、その手があったか!」
「は?」
「ふふ、害虫というのは植物にとってだろう? ならば、我輩たちよりも植物に聞かなくてはな」
………………………
………………
………
「というわけだ、アルラウネよ。この際、お前たち植物系の魔族に話を聞く方が早いと思ってな。
どうだ、闇巫女よ。これならば文句はあるまい?」
「まあ、確かに。………どうですかアルラウネさん、あなた方に最も被害を与えるのは何ですか? Gですか、Gですよね?!」
「何がお前をそこまで駆り立てるのだ………」
「えっと………詰まり、アタシにとって最も害を与える奴ってことですかしら?」
「その通りだ。お前は上半身は人間の女性だが、下半身は魔界の薔薇だ。とするとやはり、薔薇にとっても同じようだろう?」
「そうですわねぇ………
………人間ですね」
「………………………」
「………………………」
「もうよろしいですか?」
「………あぁ、ご苦労だった」
………………………
………………
………
「………………………」
「キシャアアアアア………」
「………結果としてだが。『8本足であらゆる地形をものともせずに灰色の世界をはい回る、ムカデやゴキブリを食いまくる魔族』が生まれたな。しかも、なんかデカイ」
「序でに、人間を見かけると威嚇する習性も得ましたね。そもそも、これに近付こうともしないでしょうが」
「これが、改善された解像度で眺められるのか………」
「………そうなりますね」
「………止めようか」
「………止めましょうか」
「キシィ?」
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