第10話

  ―――川は海へ流れ、やがて雲になり、雨となって僕らの頭上へ降り注ぐ。



 僕は傘を差して、その雨に裾が濡れてしまわないよう細心の注意を払って歩く。


 手元に一枚、男子学生が並ぶ写真を携えて。


 ――はぁ。


 軽く息を吐いて、傘越しから目の前に架かる橋を眺める。


 曰くのあったこの場所は、今ではすっかり噂も立たなくなった。


 僕は二人の男子学生が映る写真を鉛色の空に翳し、その背後に違和感が無い事をもう一度確認した。


 意味なんて無い。

 何となく、僕はもう一度この場所に訪れたくなっただけだった。


 あの日襲ってきた怪異が僕に残した棘は未だに抜けず、じわじわと毒のように心を蝕む。


 他に方法はなかったのか、何とか供養する事は出来なかったのか。


 ――先輩は、それを傲慢だと言った。


 分かっている。

 あれ程強大な念を、いくら先輩とはいえ供養する事は出来なかったのだろう。

 ましてや、僕なんかでは――。



 それでも、あの日窓の外から覗き込んでいた彼らの哀しそうな笑顔が、いつまでも頭から離れなかったのだった。



 傘を差して佇んでいると、通行人が迷惑そうに舌打ちして横を通り過ぎた。


 僕は写真をポケットにしまうと、酷く澱んだ都会のドブ川を覗き込む。




 ――――川は海へ流れ、やがて雲になり、



 そうして今日も、命の雨が降り注ぐ。



 第2章 閑話 命の雨

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