二章 SADSトレーニング③
「ひゃ、ひゃああああああああああああああ……⁉」
翌朝、発情した猫と聞き間違える悲鳴で叩き起こされる。同時に、身体のあちこちが痛いことにも気付く。物が散乱している床に直接寝たからだ。
さらにさらに焦げ臭い、クーラーで肌寒い、カーテンは閉め切っていて薄暗いという悪条件。
廊下へ視線を向けると、誰かが着ぐるみパジャマ姿でキッチンに立っている。コンロに乗っているフライパンからは黒い煙がモクモクと。
こっそりと背後に回ってみると、なにやら黒い物体を精製していたらしい。
長年の引きこもりで編み出した禁断の黒魔術かな?
「……た、たた、卵焼きがぁ……ふえぇええええ……」
メジャーすぎる卵料理だったようだ。黒魔術扱いしてごめんなさい。
「おはよう、レナト」
「ふぇ……? もにゃあぁあああああああああああああああ……⁉ い、痛っ……⁉」
苦悶の声をあげたレナトの足がもつれ、ふにゃふにゃとバランスを崩す。俺は咄嗟にレナトの背中へ腕を回したため、抱き止めたような体勢に。
数秒間の静寂が辺りを包み、少しだけ覗いたレナトの頬は真っ赤だった。
「あ、ありがとうございます……」
「そんなに驚いた?」
「そ、それもあるんですが……ぜ、全身筋肉痛で……驚いた拍子にあちこち痛みが……」
レナトはフードで顔半分を隠しながらも、青白くグロッキー状態な口元は晒す。
「あー……少し走っただけで死にそうになるくらいの運動不足だもんね」
「にゅうぅ……な、情けないです……。ず、ずっと料理の練習をしていたのですが……全身が痛くなってきてしまって……」
料理をしただけで、全身が悲鳴をあげる超インドア系少女がいたとは。
「つ、月に一度は……あ、秋葉原を散策するんですが……そ、それも夜の二時間くらいが限界で……。ふ、普段は……ネット通販大好き民族として細々と……」
「そっか。だからモフマップは夜じゃないとって……」
不自然な森野の言動を思い出す。レナトが夜しか現れないということだったのか。
「え……? ど、どうかしましたか……?」
「ああ、こっちの話。でも、社会復帰の努力はしてる。偉いよ、レナトは」
「きょ、今日は……コウさんの朝ご飯を……。その……普段はやらないです……」
なるほど。慣れない料理に、俺のために一生懸命挑戦してくれたのか。健気で一途で優しくて、でも不器用。それがこの子の魅力なのだ。
「……す、すみません……下手くそで……。で、でもでも……あとは塩をファサ〜っとして、オリーブオイルを回しかければ……」
テレビに影響されやすい単純っ子ということも判明。
「ファサ〜っとしてオリーブオイルをかけても、黒魔術を料理に変えるのは無理だ」
「う、うぅううう……」
しゅん……と落ち込んでいるレナト。
か弱い小動物を連想させる仕草が、いちいち男心を弄ぶ。そのままの状態で顔を近づけていくと、レナトは金魚のように口をパクパクと開閉させていた。
「俺、キミに美少女ゲームみたいなことしたい」
「……げ、ゲームみたいなこと……ですか……?」
「そう。例えば……痴漢みたいなトレーニング」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉」
レナトは声にならない声を漏らす。
身体が密着しているので、ダイレクトにレナトの感情の変化を感じられる。
「この夏休みでトレーニングをすれば、キミに隠された魅力や潜在能力を引き出せると思うんだ。俺はそれを手助けしたい」
「ふぇええええ…………で、でもぉ……ワタシ……エッチな経験とか……ないですし……」
モジモジと内股を摩りながら困惑するレナト。
短期間で結果を出すにはこの方法しかない。エッチなトレーニングは、斬新で画期的なアイディアだと、俺の本能が訴えかけている。欲望じゃない。本能だ。
「……です」
「え?」
「……と、トレーニングとしてなら……え、エッチなことしても……いいです……」
数秒ほど悩んだレナトが、承諾のサインを呟く。
「料理は俺が教えるから、まずはスク水ニーソに着替えてくれ」
目が点になったレナトは「……ふ、ふぇ?」という腑抜けた声を漏らした。
「まずはスク水ニーソに着替えてくれ」
「い、いえ……聞こえていますけど……りょ、料理をするときはエプロンなのでは……?」
その疑問は間違いなく正論だが、今は不正解。
「スク水ニーソが王道だと、熱く語ってくれたのは誰だったかな?」
「あ、あれは、え、エロゲーの世界の王道であって……。わ、ワタシなんか……人見知りでオタクで……自宅警備員です……」
「俺はすごく見たい。レナトのスク水ニーソ」
「ふ、ふにゅうぅううう……」
あざとすぎる困りボイスを垂れ流しながら、迷っているレナト。もうひと押し。
「名付けて『SADSトレーニング』。これは短期間で、キミの魅力を引き出させると同時に、引きこもりの解消に繋がるはずだから」
痴漢連鎖先輩、謎の説得力という力を俺に分けてください!
「まずはさ、スク水ニーソに着替えて視線への耐性をつけよう。恥ずかしい姿をいっぱい見られることで、周囲の視線に対する羞恥心を取り除けるかもしれない」
「……そ、そういう効果が……あるということなら……ぐ、ぐぬぬう……」
もにゃもにゃと口を泳がせながらも、僅かに頷いてくれるレナト。
この子を自立させてあげたい。友達を作らせてあげたい。あくまで──あくまで純粋な心がそう叫ぶ。敬遠されてきたSADS衝動が、この子の役に立つかもしれない。
レナトは足取り重く部屋へ戻ると、乱雑に放ってある衣服やコスプレ衣装の中から、紺色のスクール水着と黒のニーソックスを掘り当てる。
「あ、あの……着替えるので……こちらを見ないでくださいね……」
俺の怪訝な視線に気付いたのか、レナトはスク水を両手で摘み上げながら、内股を擦り合わせていた。時折見せるその仕草は、レナトが恥じらいを表す癖みたいなものなのだろう。
真剣な想いを伝えるために、レナトを壁際まで追い込んだ。
「いや、着替えも見せて」
「ふ、ふぇええええええええ⁉ そ、それは……こ、困りますよぉ……」
大げさにパタパタと両手を振った瞬間、推定Dカップの肉厚な果実が揺れる揺れる。
さすがに男性の前で着替えるのはハードルが高いものの、俺にも考えがあるぞ。
「レナト、ラップタオル持ってる?」
ラップタオルというのは、ボタン付きの大きなバスタオル。
主に女子小学生が水着に着替える際、身体に巻いて恥ずかしさを軽減するものである。
衣服や水着の着脱行為が薄いタオル一枚越しに窺えるという、男のロマンが詰まった一品。運が良ければ、ボタンが外れて肌が露出するかもしれない夢と希望の象徴。
「も、持っていますけど……ま、まさか……」
「それを巻いて着替えてくれ」
「ふ、ふにゅうぅ……な、難易度が高いですぅ……」
足元に視線を落とし、考え込むレナト。もうひと押し!
「これはトレーニングだ。俺の突き刺すような視線に慣れれば、学校という有象無象のヌルい視線なんて朝飯前だよ」
「こ、コウさん目が輝いています……」
そう、俺の目は輝いている──が、倫理的に一発アウトな危険も隣合わせだ。
正直、身体を弄ぶ系のトレーニングのほうが刺激は強く、即効性も段違い。しかし、目の前でモジモジしているのは、たぶん小学生で……。
「キミの身体に触ったりはしない。俺……無事に高校を卒業して大学も行きたいからさ」
「え……? は、はぁ……つ、通報したりはしませんが……」
「世の中はキミが思うより、ずっと厳しいんだよ。子供は……天然記念物なんだ」
意味がよく分かっていないレナトだが、俺が理解していればそれでいい。小学生に手を出した幼女嗜好者として、警察のお世話になるのだけは断固避けたい。
渋々ながらも頷いてくれたレナトは、スク水を掘り出した衣類の塊から、ラップタオルも掘り出す。そして、ゆっくりと身体に巻きつけ始めた。
エロい。一言で表すとエロい。
小学生用と思われる小さめのラップタオルが、窮屈そうに密着していく。凹凸が圧倒的存在感を発揮しているボディライン。膨らみかけというランクを凌駕している。
神よ、人間とは素晴らしい生き物です。
「そ、そんなにジッと見られると……は、恥ずかしいです……」
恥ずかしがって、なかなか着替えてくれない。荒療治が必要ですね。
「早く着替えないと、俺が脱がしちゃうよ?」
俺は声色を低くしながら、ラップタオルの裾をひらひら捲る。
着ぐるみ足が現れたり〜隠れたり〜。ボタンを一つ外して〜中を覗きこんだり〜。
「……わ、わかりました……わかりましたから……や、やめてくださいぃい……」
「うむ。さっさと着替えなさい」
業火よりも熱い俺の想いが届いたらしい。
薄いラップタオル一枚を隔てた身体。レナトが俺に背を向け、器用に手を動かし始めた。
この部屋に流れている楽曲は、肌と布が擦れる二重奏。次第にレナトから絞り出された色っぽい吐息が奏でられて、音色が三重奏へと変化。
「う、うう……うにゃあぁあああ……」
時折、羞恥心により唸ることで……極上のハーモニーが誕生するのです。
でもさ……小学生の生着替えを観察するのって、法に反しないかな? マジで大丈夫?
未経験の背徳感で脳内が押し潰されそうになり、無駄に変な汗をかいてしまう。
「……や、やっぱり……着替えるんですか……? は、恥ずかしいです……」
「スク水ニーソに着替えるとさ、友達や恋人ができるんだよ。リア充女子は男性の前でスク水ニーソに着替えるのが今のトレンドなんだ」
「……り、リア充の……トレンド……。い、イケイケなリア充の……う、ううっ……」
ようやく覚悟を決めてくれたようだ。ちょろいぜ、レナトさん。
ラップタオルの動きから、猫パジャマのファスナーを外しにかかったと推測できる。
そのヴェールの下には、果実を包み込んで保護しているブラがあるはず。やがて、それすら外すことになるのだ。
それだけじゃない。その下の縞パンだって……いや、今日が縞パンかどうかは分からないが、数分後には生まれたときの姿になるレナト。
ここでお伝えしておきたいのは、視線恐怖症の克服という目的で生着替えをやらせているだけということだ。東雲甲の趣味だとか、小学生を毒牙にかける変態だとか、無粋な勘違いをしないでいただきたい。
真剣にやっているレナトに失礼でしょうが‼
「ふゃ、ふゃにゃああぁ……!」
突然、レナトの焦ったような悲鳴。
脱ぐ動作において、かろうじて止まっていたラップタオルのボタン一つが外れたのだ。
それにより、レナトの白すぎる背中の一部が露わになっている。ラップタオルのボタンはあと四つ。これが全部外れると、レナトの裸体が解放されてしまう。
「あ、ああ……み、見ないでください……」
涙声でそう言われるが、クールフェイスでめちゃくちゃガン見する系男子。
コーチはね……教え子の成長から目を逸らしちゃいけないんだ。
口では嫌々喚きながらも、なんだかんだで着替えを再開してくれるレナト。火が出そうなほど、顔面を真っ赤にしているのが容易に想像できる。
ついにレナトは、かぶっていたフードまでも脱ぐ。ロングヘアーを両サイドでリボン止めしているおさげ髪が、フードという檻から解放されて嬉しそうに踊った。
まだ顔は見せてくれない! もどかしすぎる!
そのままレナトの手は背中へ。指を小刻みに動かすと、白い衣類のようなものが足元に落下する。二つの大きな山脈に紐がついた衣類……その名はブラジャー。
「シワになっちゃうから、服を畳んでおくね」
レナトが背を向けているのをいいことに、ブラを優しく拾い上げてみる。脱ぎたてホヤホヤのレナトブラ。まだ、ほんのり残る人肌の温もり。小学生の温もり。
ブラの雄大な放物線が、双丘の巨大さを物語っていた。
プチンプチンとラップタオルがはだけて、肌色の景色を増やしていく。十五年間の人生で、これほどの絶景を目の当たりにしたのは初めてだ。
脇腹と腕の隙間から、双丘の放物線が微かに顔を出す。こんにちは。
完全に見えなくても、男子は果実の姿を妄想して楽しむことができるのだ。
「あ……だ、ダメです……!」
急に着替えのスピードが上がる。ラップタオルが全てずり落ちる前に、着替え終わろうという浅はかな考えらしい。
それにより、さらにボタンが取れる危険性が高まるとも知らずに。
待ちに待った瞬間が訪れる。猫パジャマが、レナトの細くてしなやかな足を通り抜けた。
それを追走する二番手走者は……ぱんつ。
レナトの膝という最終コーナーを回って、見事に俺の手へゴール。
「や、やぁ……! ひ、拾っちゃだめ……ですよぉ……」
俺の右手にはレナトのブラ(まだ温かい)、左手には脱ぎたてパンツ(かなり温かい)。
目の前には全裸体をラップタオルで包む少女。
生き残っているラップタオルのボタンは二つ。一番上と一番下だ。
すでにお尻の膨らみ始めまで目に刻まれたこの状況。命綱である上下のボタンが一つでもハジけた瞬間、レナトの封印が解き放たれる。
「はぁ……はわわわぁ……」
不慣れな手つきで、スク水を両足から上に通していくが……裸体ご開帳の焦りからか、スムーズに物事が運べないらしい。
追い打ちを仕掛ける。俺はスマホのカメラをレナトに向けて、無言でシャッターを切る。
保存されたのは、ラップタオルから覗かせた白い足がエロティックな後ろ姿。
まだセーフでしょ? 触ってないから。小学生の裸体(ラップタオル装備)を鑑賞して記録するという瀬戸際もトレーニングなのだ。
「しゃ、写真は、だ、ダメですにゃあ……恥ずかしいですにゃあ……!」
焦りが限界を超えたからか、レナトの両足にスク水が絡まってバランスを崩す。
「あ、あれ……ふぇ……にゃ、にゃぁああああああああああ⁉」
「あぶない!」
そのまま俺の方へ倒れ込んできたレナトを、なんとか受け止めることに成功した。
女の子特有の柔らかい身体を、両手で味わうように抱え込む。レナトの胸がエアバッグとして衝撃を吸収したため、怪我はないし痛みも皆無。
ふにふにと、素晴らしい存在感が俺の懐に押し当てられる。ラップタオルが床に落ちている……ということは、倒れた衝撃でボタンが全て外れてしまったということ。
俯いているので表情は窺えない。だが、今はフードがない。それどころか、レナトを包んでいるものは何もない。
大宇宙に浮かぶ全裸の星。さしずめ、俺は星を見守る太陽。
モチモチで吸い付く至高の柔肌、最高級の白桃のように果肉たっぷりのお尻、押し当てられた生の双丘という三大絶景。三種の神器。三大巨匠。
熱い──レナトの体温をダイレクトに感じられる。クーラーで冷え切った部屋の温度が上昇したかもしれない。それくらい、レナトの身体と俺の心臓は激しく脈打つ。
「す、すみません……すみませぇん……わ、ワタシ……」
「大丈夫だよ。怪我はない?」
「は、はははは、はい……。あ、ありがとう……ございます……」
お互いに抱き合った体勢での沈黙。この雰囲気は……アレだ。
このまま見つめ合い、キスをしながら気持ちを囁き合って、女性の身体に優しく触れるというのが一般的な流れ。
しかし、小学生相手に高校生が考える流れではない。今の状態でも間違いなくアウトな気はするが、不可抗力という魔法の言葉を盾にすれば許される。許されてほしい。お願い。
長引くと小学生リミッターが外れそうなので、俺は即座にスク水&パーカー着衣をアシストしてあげた。
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