第4話 「見舞い土中に住まう者」

 週に一度、牧椎名は散歩がてら寺に行く。いかんせん遠いが歩くのは嫌いじゃないので、まわりの風景を見ながらゆっくり歩く。なるべく人通りの少ない道を選んで。

 寺の前の露店を覗くと、『冷やし飴』が売っていた。それは飴というより金平糖に近く、サクサクとした食感の冷たい、寺オリジナルのお菓子だった。それを舐めながら(噛みながら)石段をのぼると、ジーンズを履いた足に何かが触れる。


 異様な冷たさに驚いて振り向くが何もない。気にしないことにして椎名はまた石段を登る。肩を掴まれる。すごい力で。無理矢理首をねじり肩をみると、青白い手が確かに彼の肩をつかんでいる。長い長い爪が、肩に食い込み痛い。

 痛みに椎名は歯を食いしばる。こわばった頬を舌が、なぞる。否、舌と彼が認識しただけで本当は違うかもしれない。


【ベチャあっべちゃあ】と。舐められる。

 冷やし飴を落としてしまった。


 柏手をうち、健康と幸福を願う。お守りを買ってベルトにくくりつけて今日の晩ごはんについて考え始める。

 歩きだそうと一歩踏み出すと、手が地面から生えていた。注意深く見たが、まごうことなき、手だった。先程石段で椎名の足に触れたものだろうか。そう思った瞬間手が伸びた。


 足首を掴まれ、彼は尻もちをついた。そのまま手の根本まで引きずられていく。最初はゆっくり徐々にはやく。あっと言う間に手の生えていた場所までたどり着かされる。穴が見えた。


 その穴を椎名は覗き込む。


眼があった。

眼が合った。しばらく視線を交わす。


 穴の眼がまばたきする。次に開いたときには眼は充血していき、真っ赤に染まった。


 椎名は石段を降りていく。露店はもう店じまいだったのか人知れずに消えていた。


そういえば

冷やし飴はどこにやったんだろう…。

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